こんにちは世界



あの日から脳裏には柔らかい手の感触とあの笑顔がはりついていて、集中力が著しく低下していた。
そのせいで何も無いところで躓いておそ松兄さんには笑われるし、クソ松には元気出せとか余計すぎる励ましとクソ松プリントのハンカチを押し付けられるし(燃やした)、散々だった。
何よりいつまでも頭の中を占領されてうざったい。もう逆に腹が立ってきたので、僕はとうとうもう一度あの猫カフェに行くことを決意した。
あんたのせいで俺はいま大変なんだけどって文句の一つでもいってやらないと気が済まない。

あの時追い出されたので行きづらい、ということもなく、思い立ったつぎの日の昼下がりに僕はあっさり猫カフェに入った。
いらっしゃいませー、と言って此方を見た店長がすごい驚いた顔で「君は…!」とか言ってて正直面倒で無視したかったが、まずこの人と話さないわけには行かない。
逸らしかけた目を何とかぎぎぎと向けて店長を見た。表情が引きつっていて何だかムカつく。はいはい俺みたいなのに会いたくなかったですよねすいませんね。さっさと用件を済ませて退散しますよ。



「あの人いますか」

「え?」

「あの日にきた、女」



僕が切り出すと、店長は驚いた顔をした後、「えー、誰かいたかな……」と首を捻った。ちょっと前のことだし、覚えてないのは仕方ないか。



「……なんか呑気で、サバサバしてそうな人」



僕が特徴を言うと、店長はしばらく考えた後、合点がいったというようにぽんっと手を叩いた。



「…ああ!みょうじさんのことだね?今日いるけど、みょうじさんがどうかした?」

「出して」



店長は困惑した様子だったが、待つように言って奥へ入っていった。それからしばらくして、扉の向こうから出てきたのは、正しくあの時の女。



「私に用ってなんです?……あ」

「……」

「この前の大きな猫くんか!」

「……ども」



にぱっと笑われて、言葉に詰まる。
くらくら来るほど明るい表情に頭が真っ白になった。あれ、俺ここに何しに来たんだっけ。
ピタっと固まったまま動かない僕に、みょうじさんとやらは首をかしげて、それからまたにっこりと笑いかけてくる。なんだよ、笑顔の安売りかよ。



「えっと、猫くん、名前聞いてもいい?」

「……一松」

「いちまつ?可愛い名前だなぁ、初めて会うよ、いちまつなんて」



そりゃ結構珍しい名前だとは思うけど、可愛いって言われたのははじめてかもしれない。
変わった人だなぁ、ってこの前この人は僕に言ったが、この人だって大概だと思った。



「…あんたは?」

「わたし?私はね、なまえ!みょうじなまえだよ、よろしくね、人間の一松くん」



猫好きなんだよね?私ここで働いてるの、店長もお客さんとしてならきっと歓迎してくれるだろうしこれからも云々。
楽しそうにそんな話をしている、なまえさんを見つめながら、それでもその話の殆どを聞き流してしまっていた。
ぼんやり彼女の名前を復唱する。なまえ、さん。なまえさん。
そうだ、僕はこの人の名前を知りたかったんだ。あとそれから文句。
文句って何の文句だっけ?まぁいいや。なんでもいい。明日も来よう。猫にもあえて、この変な人にも会えるなんてここはなんだよ、こここそ僕の生きてく世界だよ。大好きだ猫カフェ。



160407
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