プリチー
さっきからもうずっと同じやりとりだ。
私とチョロ松くんの攻防はかれこれ1時間くらい続いている。
「僕絶対やんないからね?」
「そこを何とか!」
「嫌だよ!!」
チョロ松くんはひどく憤慨しながら私の手にあるものを取り上げ、叩きつけた。突然の暴力に私は悲鳴を上げた。
「ああっ!そこそこするんだよそれ!」
「破れろ!そんなもの」
「チョロ松くんのヒステリー!ばーか!」
「お前こそ変態!ばーか!!」
めちゃくちゃ怒った顔で私を罵るとふいっとそっぽを向いてしまったチョロ松くんに、私ははっと思い出す。
私としたことが、お願いする立場だったのを忘れていた。投げられたのをみてついカッとなってバカとか言ってしまったこれはまずい。
お願いを聞いてくれなくなるのは困るので、私は慌ててチョロ松くんの前にばっと跪いた。
「おねがい!」
「……」
「頼むよ!私、本気なんだ」
「いやどう考えてもふざけてるだろ!」
「ふざけてない!!」
私はばっと顔を上げて、まっすぐチョロ松くんの目を見た。チョロ松くんはう、と一歩下がる。今だ。今押せば可能性が開ける。私はさっきより大きな声をだそうと息を吸い込んだ。
「チョロ松くんがハートキャッチプリ○ュアの服着てくれたら私死んでもいい!」
「────」
私が叫ぶと、チョロ松くんは何か言いたそうに口を開いて、閉じた。それから深海ほど深いため息を吐いた。
「ひとつ聞いていい?」
「なに?」
「死んでもいいってさ、ほんとに死んでくれんの?いや、もうこんな要求してくるような変態の女友達いない方がましなんだけど」
「……ほんとにそう思う?」
「………いや、ほんのちょっとだけ嘘もまじってる、けど」
「だよね。貴重だよ女友達。知らないけど」
「知らないのかよ」
「でもなんとなくほら、チョロ松くん童貞だからね。童貞でも、女友達いるならまだあー、って感じだけど、女友達すらいないならう、うわぁ……だよ」
「どういう意味!?それにお前だけじゃないし!トト子ちゃんいるし!!」
「トト子ちゃんと私を一緒にしてくれるの!?」
「しない!!」
何故か拳を握りしめて力強く叫んだチョロ松くんに、今度は私がなにか言おうとして口を開いて、それから閉じた。そしてマントルを突き抜けるほど深い溜息を吐いてから、叫んだ。
「で、着てよ!!」
「嫌だよ!!!」
「金は出そう!!!」
「えっ……いくら?」
まさかこんな一言であっさり食いつくとは。
おかねのために、からだをうりはらうのね……!
何だか泣けてきた。可哀想なチョロ松くん。
「……8千?」
「もうひとこえ」
「チョロ松きゅんお高い……」
「僕だってそんなお安い身体じゃないから」
「え、だってチェキとかお触りなしでしょ?」
「お、おさ……」
ぎゅ、と肩を抱く乙女チョロ松くん。
どこを触られると思ったんだろう。そして私はどこを触ろうと思ったんだろう。特に計画はしていなかったが。
いや、どうせ触らせてくれないのだからこんなことを考える必要はなかった。無駄な労力を使ってしまった。
「〜〜っじゃあ!にゃーちゃんのグッズ!いっこ、ゆずるから、ね?どう?これで手打って?」
「……ちょっとだけだよ」
「まじ!?やったぁ!」
チョロ松くんのチョロは、チョロいのチョロだぜ!!にゃーちゃんのグッズは惜しいが、仕方あるまい。すべては目の前のチョロ松くんに、このハートキャッチプリキュ○の衣装を着てもらうためだ。仕方の無いことなんだ。
「…はぁ、やだなぁ」
「え、まだやだとかいうの?しょうがないなぁ、よし、それなら着させてあげる」
「え!?余計にやだよ、ちょ、うわあああ!?」
………………
「で、着たけど」
「チョロ松くんのかわいい三白眼と、とびきりかわいいプリキュアのふりふりの衣装のね、このすばらしきコントラスト…尊い………うん?」
「着たけど、死んでくれるの?」
「…………」
「手伝ってあげてもいいけど」
「勘弁。可愛いよチョロ松くん!チョロ松くんのへの字の口だいすき!」
「……なまえさ、」
「ん?」
「僕のことすきなの?」
「どう思う?」
私がきくと、チョロ松くんは顔を歪めた。
それからふいっと顔をそらすので、私は笑顔笑顔、と言って写真を撮っておいた。頭を叩かれた。
変身したら変われるの
160320
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