05

3階の女子トイレは、私にとって避難所のような場所だった。
何故なら誰もいないから。虐めてくるドラコも、見つめてくる他寮生も。
────ただ、彼女を除いて。



「あんたねぇ、ここはあんたの避難所じゃないのよ」

「ごめん」



図星をつかれてしまったので素直に謝ると、彼女はふよふよと浮いたままふんっとそっぽを向いた。
嘆きのマートル。このトイレに住みついているゴースト。ここに人が来ないのは彼女がこのトイレを水浸しにしてくれるお陰だった。



「でもあたしもわかるわ…死ぬ前だって、あたしも此処で泣いてたもの……」

「マートル…」

「それで?最近どうなの?リア」

「…いつも通りかな」



いつも通り朝起きて、服を着替えて寝室を出たら顔を合わせた女の子に嫌味を言われ最悪のスタートを切った。
だけど朝食の時にはグリフィンドールのアンジェリーナが挨拶してくれた。それと、双子がこっそりグリフィンドールの方で食えば?とも言ってくれた。(丁重にお断りした。)
一番嫌だったことと言えば…授業のとき、魔法薬学のとき、私が材料を鍋に入れようとしたら後ろから押されて、多く入れすぎて失敗して酷く責められた。
流石にスネイプ先生の授業だ。わざとではなかったんだとは思う。もしわざとだったなら、減点されてでもわたしにどうにかしたいとは、まぁ何というか、私ってずいぶん嫌われてる────スネイプ先生が私を減点した後、グリフィンドールからいつもより多く点を引いていたので結局プラマイゼロのような気もするし、だからこそわざとなんじゃないかという考えを振り払いきれない────

それから廊下を歩いているときにハリー・ポッター達に会って、どうしてかスネイプ先生の事を色々聞かれた。普段怪しいところはないかとか、いつも何処にいるとか、何かおかしな事を聞いていないか、とか。何故そんなことを聞くのか、それは聞き辛い雰囲気で、とにかく彼らは、何だかすごく焦っていたというか、忙しそうだった。
私に質問して、大した答えが得られないとわかるとせかせかと去っていった3人を見送って。そしてそのあと、運悪くドラコと八合わせたのだ。

まさか、グリフィンドールとスリザリンの一年生が合同授業だったなんて、ハリー達も言ってくれればいいのに。おかげでまたこてんぱんに言われてしまった。



「それでとうとう耐えられなくなって、ここに逃げ込んだって訳ね。でもあんたって情けないわよねぇ、年下にこんなに怯えるなんて!」

「ただの年下じゃないの…彼、あのマルフォイ家の一人息子だよ」



甲高いつんざくような声で笑ったマートルに肩を落とす。私は夏休みに父にきつく、きつく言われていた。────マルフォイ家の御子息が今年入学するから、くれぐれも気に触るようなことをしないように────と。
すでに何か気に触ることをしたからこんな事になっている可能性もあったが、反撃したり無視したらそれこそますます良くないと思った。
休暇中に叱られなかった事を考えると、幸いドラコは彼の父上に私のことをなにかいったりは、していないはずだ。だから、今のままなら、まだ大丈夫。
大人って大変だ。立場とか、色々あって。魔法省での更なる地位を目指す父に叱られないためにも私は黙っているしかなかったし、怯んでしまうのも仕方が無い。

そうして考え込んでいると、マートルがひょい、と私の顔をのぞき込んできた。



「泣いてるの?」

「泣いてないよ」

「なんだ、つまんない。やっぱりあれね、何だったかしら…─────そう、セドリック」

「………」

「彼がいるから?そういえば、最近彼とはどうなのよ」

「……セドリックは、」



ああ、セドリックは、私なんか きっと。


160503
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