03

「おっ、これはこれはミス・グレイじゃないか。今日も素敵な緑のネクタイだな」

「本当だ、ご立派。相変わらずよくお似合いだ!」



朝リアが一人で朝食を食べようとしていると、そんな明るい声がかかった。
明らかに皮肉がこもっていてあまりいい気持ちはしないし、リアはまたびくりと肩を震わせる。
思わずスープに突っ込もうとしていたスプーンを止めると、ひょいっと両側から同じ顔に除きこまれた。



「辛気臭い顔するなよ、苔みたいだぞ」

「やめて…」

「やぁおはよう、リアお嬢さん」

「うん、…おはよう」



リアは諦めてスプーンを置くと、またげんなりとしながら溜息を吐いた。いつの間にか目の前に座っているリー・ジョーダンは、笑ってため息は良くないぞーなんて言っている。
サイドの二人、フレッドとジョージも同意するようにそれに頷いた。何をいうか。私だって好きでため息をついているんじゃない、とリアは思わず反論した。



「だ、だって、このネクタイが、ふたりが……」

「うん?」



二人はいつも、にやにやしながらもリアの言葉を最後まで聞く。リアは長く話すのが得意ではなく、皆までいうつもりはなかったが、そうされたからには、いつも最後まで言いたいことを話した。



「わ、私に、いちばん似合わないのなんて、わかってるのに、そんなこというから…」



毎朝、まずネクタイを締めるのが憂鬱だった。お前みたいなやつスリザリンに似合わないとは、よくリアにかけられる言葉だった。双子はわざとらしく声を上げた。



「そんな!よーく似合ってるぞ!」

「ああ、でもそのネクタイをトマトソースにつけたらもっと似合ってたかもな」

「真っ赤にしてな」

「言えてる」

「え、そっ…そうかな」

「そうとも」



頷く三人に、自分のネクタイがトマトソースにつけられて鮮やかに真っ赤になったところを想像しようとした。
しかしリアの固い頭の中では、トマトソースの匂いが邪魔して汚れた緑のネクタイにしかならなかった。
それに、よく考えてみたら自分に勇気ある寮のネクタイが似合うはずもない。がっくり肩を落とすが、3人に認められた気がして少しだけ嬉しかったりもした。

言いたいことをいい終わったのか去っていく三人をぼんやり眺めながら、いろいろなことを考える。緑以外の三色のこと。
考えていると、視線を感じた。そちらに目を遣ると、スリザリン生がひそひそと話しながらこちらを見ているのが見えた。ぞっとして身震いをした。困ったものだ、またやってしまった。

そもそもどうして、リアがこのような待遇を受けるようになってしまったのか。リアは名家とまではいかなくともそれなりには家系図を辿れる純血だし、魔法だってちゃんと出来る(むしろ成績はいい方だ)。
元々おどおどしていて話しかけても吃ってしまい、縮みこまって煮え切らない態度をとるリアを、とっつきにくくて避ける人間少なくなかったが、それも大きな原因ではなく。
今のを見てわかるとおり、原因は実に簡単な事だった。

他の寮の生徒曰く、彼女は“ヤサシイ”。彼女が他寮生が困っているのを助けていた、とか、スリザリン生が誰かに魔法をかけようとしたのをこっそり妨害したとか、そんな噂が流れている。
そして、そのおかげで彼女はグリフィンドールの生徒やハッフルパフの生徒との関係がそれなりに良好だった。それどころか、陰湿なスリザリン生なんかよりずっと良いと言わんばかりに彼らの前で彼女は笑い、自然な姿でいるのだ。楽しそうだった。その姿は裏切り者にしか見えないのは、当然だろう。

噂の真偽は、もはや関係ない。どういう状況だったかも、関係ない。火のないところに煙は立たないというように、多少誇張されていたとしても、スリザリン寄りでないことは確かなのだ。
それが充分な理由になるのは想像に難くないことだった。

虐められる回数に比例するようにリアが他寮生と仲良くする機会も増え、またスリザリン生に文句を言われる。そんなみごとな悪循環が出来上がっているのである。


160203
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