いとしのエネミー

「で、結局なまえちゃん見つからなかったけどどうする?」

「や、今日はもうよくね?」

「またおそ松兄さんは……」



あの後三時間くらい探したけど結局なまえは見つからず。仕方ないのでみんなでとぼとぼ帰宅し輪になって今後のことを考えるが、
とにかくまずなまえがいないと話にならないんだからこれ以上考えようもないし、なんかめちゃくちゃ疲れたしで考える気はあんまりなくなってきた。何か何とかなる気がする。
同じく頭を抱えるのに飽きたトド松が引きちぎられたガムテープをつまみ上げて、ほんとに凄くないなまえちゃんてゴリラだったのかなとツボり始めた頃、一松と十四松が帰って来た。



「デカパン博士のとこ行ってきた!!!」

「閉まってたけど叩き起した」

「お。おかえりーありがとな、なまえの心直った?」

「うん!直った!!」



はい!と十四松が手を開くと、手の平サイズのハート型の変な物体がそこにはあった。
馬鹿みたいな話だけど、これでハイパーゴリラになってしまったなまえは元に戻るらしい。あいつもチビ太もどういうメカニズムだよ。
へーこれが…とみんなでしげしげと眺めていると、十四松が少しだけ俯いて、なまえのやさしい心を見ながら言った。



「でもこれ、死んでるんだって。長い間人肌から離れたから」

「え、死んでんの?大丈夫なのそれ、ここまで来てこれ使えなかったら俺今度こそなまえとリアルファイトすることになりそう」

「そうなったらこれがおそ松兄さんの未来だね」



トッティがちょっと笑いながらガムテープの残骸を指さした。



「ちょ、やな事言わないで!てか危ないの俺だけじゃねーし!」

「十四松、もう生き返らないの?これ」

「わかんない」



ふるふる、と首をふる十四松からやさしい心を受け取りどうしたもんかと唸る。
それを見たからか、十四松は顔を上げると焦ったようにひとつ提案してきた。



「卵みたいにあっためたらどう!?」

「フッそれは名案だなブラザー」

「まじすか!!」

「うーん、じゃあそうしてみようかな」



へらへら笑いながらやさしい心をひょいっと手で弄んだ。それを見たチョロ松がまた大事にしろとか怒っている。はいはい。
そんな中、マイペース四男はとっくに話を切り上げてずるずると布団をひきはじめていた。



「とりあえずもう朝だし寝よう」

「おー」



弟達がやっと寝れるーと布団にごそごそ入りはじめる間、ふとじっとやさしい心を見てみる。
というかなまえって思ってたより変なヤツだよな。長い間一緒にいても知らないことってだいぶあるなぁ。



布団に入ってしばらくたってからもなんだか眠れなくて目を開けた。むくりと起き上がり周りを見るが当然弟達は疲れきっていびきをかいて寝ている。
手をそっと開いて、中にあるなまえの死んでしまった優しい心をふたたび見る。それから、ちょっとだけ抱きしめてみた。



「ごめんなー」



そう言ってから何かちょっと可笑しくて笑った。なまえって馬鹿だし俺も馬鹿だし、何か馬鹿みたいな喧嘩だ。
ゴロンと寝っ転がってハート型を眺めながら、なまえのことを思い出した。



「俺いろいろ考えたけど、やっぱなまえもわがまま言ってくれよ、出かけたいーとか言ってくれたら、まぁ映画くらいなら」



そっちのが人間味があるし、俺もなまえに何かしてやれるって思えていいよ。
ただのやさしい人形じゃない人間のなまえがおれにやさしくしてくれてるってほうがずっと嬉しいから、これからはもっとわがまま言って。
なるべく聞くし、まぁ働きたくはまだないけど。でもとりあえずそれ以外でできる限りのことはするから、かわりに俺のこともっとずっと好きでいてやさしくしてよ。

自己中だってチョロ松とかは言うかもしれないけど多分これくらいなら許されるだろう。だってなまえってやっぱやさしいから。
それから、できるだけ大事になまえの心を抱き抱えて俺はようやく眠りについた。




***




やっぱり寝るのが遅かったというかもう朝日が昇る頃に眠りについたから昼頃に目覚めた。
昨日は大変だった。なまえちゃんをとっ捕まえて部屋に転がしておでん食べに行ってなまえちゃんを探して、と色々忙しい1日だった。
そこでふと、おそ松兄さんが寝る前にそのなまえちゃんのやさしい心とやらを握りしめていた事を思い出す。
十四松の提案通りあっためて寝ることにしたみたいだけど、寝相が究極に悪いおそ松兄さんの手にそれは未だあるのだろうか。僕には見えないから確認しようもないとは思いつつもおそ松兄さんに目をやった。



「……あ」



相変わらず大の字になって寝ていたけど、おそ松の手にはしっかりハート型の何かが握られていた。なんか見えた。思わずちょっと笑ってふうとため息つく。なんだ、大事にできるんじゃん。

ほっと和んだのも束の間。ふと顔を上げるといつの間にか起きていたらしいトド松が、僕の方をじっと見ていた。



「チョロ松兄さん、ハート見えた?」

「うん、今やっと見えたよ」



僕が言うとトド松はげっという顔をした。
何故だと首をひねればはぁとため息を吐かれる。



「ええ、ほんと?実は僕、なまえちゃんの優しい心ちっともみえなかったんだよね、ていうかみんなもほんとに見えてるのかな、よくわかんない」

「……流石ドライモンスター」

「ちょ、どういう意味!てかチョロ松兄さんに言われたくないし!」

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