一人ぼっちテロリズム

おそ松兄さんが出ていってからしばらく経った。さすがにもう二人は仲直りした頃だろうか。
本当に一時はどうなるかと思ったしやさしい心を取り出すとかも正直わけわかんなかったけど、これもいい機会だったのかもしれない。
これで二人が仲直りして、反省したおそ松兄さんがこれからはなまえちゃんをもっと大切にしてくれることを願うばかりだ。
と思っていたらトド松があれ、と声をあげた。



「あれ?おそ松兄さん」

「え?」



ひょいっと体を傾けてトド松の見ている方を見れば確かに赤い影。ぜーぜーと肩で息をするおそ松兄さんは随分あわてていた。



「っなまえがいない!逃げた!」

「ええ!?どうやって!?」

「まさか母さんか!?」

「それが、自力で逃げたらしい」

「やばい」



おそ松兄さんのはなしをきいていてそういえば、と思い出す。チビ太の話を聞く限りだとなまえちゃんはまだやさしい心を取り戻してないし、良く考えたら当然の結果だった。
だけどあんな、何重も巻かれたガムテープを引きちぎるなんてなまえちゃん怖すぎないか。強すぎないか。怒りでリミッターすら外しているとしか思えない。



「いや、ほんとにやばいよ!さっきのでなまえちゃんますます怒ってるだろうし…」

「暴行…器物破損…」

「スプレーで落書き…」

「殺人の可能性…」

「……………」



沈黙が走る。
タイミング悪く遠くの方で聞こえるパトカーのサイレンにその場の全員がびくっと震えた。



「なまえじゃないよな…?」

「ま、まままさか!なまえを信じろってんだてやんでいバーローちくしょー!」

「おっおう、俺はいつだってなまえの事を信じてる!」

「僕も!!」

「……でも、今のなまえならやっちゃうかも、俺、なんとなくわかるんだよね」

「ちょ!やめてよ闇松兄さん!!」



トド松が半泣きになりながら、幼馴染みに犯罪者がいるのやだよー!と騒いでいる。
一松の口から次々に悪夢のような不吉な予言がこぼれ出て、みんな耳を塞いだ。いや、というか、そんな場合じゃない。



「いや、みんな落ち着いて。とにかくなまえちゃんを探そう。ね、そうしようおそ松兄さん」



僕がそう言えば、おそ松兄さんは冷や汗を垂らしながらも何度も頷いて、だっと駆け出した。────それを見てあとを追う僕たちの前に立ちはだかったのはチビ太だった。



「待ちなてめぇら」

「チビ太、それは…?」



チビ太の手の中にある瓶を指さしてきくと、チビ太はドヤ顔で「この前なまえが叩き割ったなまえのやさしい心だ」と言った。
いや、ええ…ほんとにあるの…?固体なの?なんなの?本当に意味がわからないから困惑しかない。みんなの反応が気になって周りを見るが、どうやら納得しているらしく真剣な顔をして瓶を見つめていた。適応すんの早すぎだろ。

しかも、チビ太から瓶を受け取って手にとって見てみたけれど、瓶の中はどう見ても空っぽだった。



「いや…ねぇ、どれが優しい心?」

「は?ここに入ってるでしょ」

「まさかチョロ松兄さん見えないの?」

「チョロ松の心が冷たいからじゃない?」

「なんだよそれ!え?ほんとにみんな見えるの?」

「見える。粉々になってて、直すのは大変そう」



一松がじっと瓶を見つめながら静かに言う。少しだけかなしそうにも見えた。一松にも人の心があるらしい。
それをじっとみていた十四松が、はいはい!と手を挙げた。



「デカパン博士ならこれ直せるかも!」

「ああ…」

「じゃあ僕これ持ってくから、みんなでなまえちゃん探してて!」



そう言うが早いか十四松はチビ太から小瓶を受け取って一目散に走り出した。
しかし後ろ姿を見守っている間、お約束のように十四松の手から瓶がするりと何度も落ちそうになる。トド松が見てられない!と声をあげた。



「十四松兄さん袖まくろ!?」

「…俺がついてくよ」

「ああ一松、お願いしていい?」

「ん」



やる気があるのかないのか、ゆるゆると走り出した一松を数メートル先の十四松が足踏みして待っている。落としそうだから一旦落ち着いてやめて欲しい。



「じゃあ僕たちはなまえちゃんを探そう」

「わかった、僕駅の方探してみる!」

「俺は公園の方を」

「たのんだ!」




わからなくても、大事な幼馴染みのため、なまえちゃんのためだ。そしておそ松兄さんのためでもある。
ちゃんと探してなまえちゃんを連れ戻して、今度こそ二人で話をしてもらおう。そうしたらお互いにもっといい関係を築けるに違いないし、僕達も安心なのだ。

────何より幼馴染みが犯罪者になるなんて普通じゃないこと、絶対に御免だ。





────────
────



「やれやれ、世話の焼ける奴らだぜバーロー」



六つ子達がそれぞれ駆け出していくのを見送ったあと、チビ太はそう言いながら仕方なさげに首を振った。達成感に満ち溢れる胸を押さえながら、いつも通りおでん屋の営業に戻る。
しばらくしてふと、暖簾があがった。気分もすこぶる良く、サービス精神も溢れてくるようでチビ太は明るく声をあげた。





「らっしゃ、……!?!?」



そして、客の姿を見てびしりと固まった。




「なっ…なまえ!!!?」

「…なに」



チビ太は急速に気分が下がって、冷えきっていくのを感じた。仏頂面で、目も据わっているなまえは顔を引き攣らせるチビ太に更に顔をしかめながらどかっと椅子に座る。チビ太はあわあわと焦りながらもおそ松たちが走っていった方を指さしなまえに言った。



「い、いや、いまみんなが探しに」

「じゃーしばらくこっち来ないよね、ほんっとロクなもんじゃない後でどうしてやろうか」



鋭い目つきで遠くを見つめ、乱暴になまえは吐き捨てる。普段と比べ物にならない、刺々しく荒々しいなまえにチビ太は息を呑んだ。
それから、チビ太は探しに行ったおそ松たちに知らせようと携帯電話に手を伸ばした。




「チビ太」

「はい!」

「電話したらいくらチビ太でも許さないから」

「はい…」

「酒、と、おでん」

「おう…」



なまえに睨まれ、チビ太は慌てて手を引っ込めた。仕方なく酒を出せば少しだけ機嫌を直し、にっこり笑うなまえに頭をかくしかなかった。

160124
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