幕開けのレジスタンス

話をうんうん、と聞いていたが、途中でやっぱり意味が分からなくなった。
なに?やさしい心をとりだすって。何なの?どういう世界観?ていうかまず、チビ太がなまえのやさしい心を取り出したのが悪いんじゃないの?



「お前のせいかチビ太!?なまえ頑張れじゃねーよ!」

「ああ!?オイラはほとんど触ってねーよ!元はといえばおそ松!てめーのせいだろてやんでいバーローちくしょー!!」

「だからなんで!?俺のせいじゃないってなまえいったんだよね!」

「確かになぁ、なまえはおそ松のせいだなんてただの一度も言ったことねぇよ」



チビ太の言葉に弟たちがどよめく。
なんでだ。



「なまえちゃん健気…!」

「天使だ…」

「おまえらな……じゃあやっぱ俺悪くないだろ」

「いんや、なまえがおそ松を見てやさしい心をすんなり吐き出したのが何よりの証拠だ」



なまえのやさしい心が喉に詰まっていたのは、なまえ自身が取り出すのを躊躇していたからだとチビ太は言う。



「クソ童貞ニートのくせにオイラやトト子ちゃんに目移りするからこうなるんだよ!」

「チビ美の事はやめろ!つーかおまえ自分のしたこと棚にあげて!あれは詐欺だろ!」

「あぁん!?じゃあまずなまえとちゃんとデートしたの最後いつだ言ってみやがれ?!」

「………」

「………謝ってきな」



今日はツケでいいよ、とチビ太は言った。
また、これは。そう言われると自然に立つしかなくなってしまって、弟とチビ太の励ますような目に追い立てられて歩き出す。


…いや、いやいや、
正直ぜんっぜん腑に落ちないんだけど。
いや、だって俺のせい?
確かにデートは、最近は適当に家とかばっかで二人きりになったりとかも少なかったけどなまえがそんなことで怒るだろうか?今更?
トト子ちゃんの件だってそうだ。トト子ちゃんは俺たちの永遠のアイドルだし、小学生のときからそんな事わかりきってたことだろうし。
そもそもなまえはトト子ちゃん程自信があるわけじゃないけど、決して引っ込み思案というわけじゃない。人見知りではあるけど俺たちは幼馴染みだ。不満があったらちゃんとその場で言えるはずだった。やさしい心を抜いて主張なんてする必要ないはずなんだ。

俺たちはあの頃から何にも変わってなんかない。なまえも俺も関係の名称が変わっただけで今でもなんでも言い合える幼馴染のまま。そう、なんでも言い合えるしわかりあっていた。

大体チビ太はいつもいい話にもっていこうとするのやめろ。俺たちはそんな一々いい話で終わるような可愛い関係じゃない。
結局は幼馴染の延長でしかない恋人関係。なまえは恋人である前になにか戦友みたいなものだし、だからこそ適当になってしまうものだしそれでお互いに良いと思ってる。冷めてるわけじゃなくてこれが適正距離なんだと思う。

そりゃあその辺の女の子とかよりはずっとずっと可愛いとおもってるけど。
なまえと接しているとたまに思う。しょうがないな、とか言いながらもこいつ俺のことが大好きだなーって。俺のことがめちゃくちゃ好きで、だからこっそり努力してて、いつもやさしくて何しても笑ってくれるなまえは本当に昔から可愛い。


そこまで考えて、あれ、となった。
俺の事大好きで、俺のために努力してる?いつから?そりゃ、俺のことを好きだと思ったときからだろうけど。


…例えば、なまえは幼馴染で戦友でなんでも言い合える親友でもあるけど。
なまえも最初はきっと、そう思っていたけど。付き合いはじめてからなまえは、そう思ってなかったとしたら?
俺に嫌われたくなくて、俺のこと大好きだから、不満とかももう、言えなかったとしたら?


───なるほど。やっと納得がいった。
なまえのやつ俺に不満があったのか!

そう思ったら確かにそんな気もしてきた。
なまえが、怒らせても怖くないのをいいことに適当に謝って済ませたりしたこともあったし、なまえの話をちゃんと聞かなかったり、トト子ちゃんのところにばかり行ったり。……でもレンタル彼女のときは腹立つくらい爆笑してたんだけどなぁ…。
それも、本当は我慢してたのだろうか。

なまえはいっつも何も言わなかった。
俺のわがままをいつでも聞いてくれた。俺が何しても、絶対に怒ったりしなかった。
正直めちゃくちゃ居心地いいし楽だし、ぬるま湯みたいな、そんな感じだった。
でも。なまえだって泣くし、笑うし、おこるんだよなぁ。確かにチョロ松のいうとおり、俺はなまえの人としての尊厳を無視していたのかもしれない。
都合のいいなまえのことが大好きだったし、急に豹変されて理不尽さにかなりムカついたが、泣いて笑って怒って、俺に大事にされたいって思ってるって考えれば、すごくいいことに思えてきた。
あんなにグレても別れようって言わないあたり、俺はやっぱりとことんなまえに愛されちゃってるし、不器用ななまえを大事にしたいと思った。なまえが人間でも、やっぱりそれなりにいとしいと思う。たまにはわがまま言ってくれるのもいいかもしれない。


早くなまえに謝りたくて、笑って欲しくて家に着くと急ぐように階段を上がった。





「なまえ…!!て、あれ?」



そこで事件が発生した。
部屋に入ってみれば、引きちぎられたようなガムテープとタオルだけがそこにあって、なまえがどこにもいないのだ。

どっと冷や汗がでて早歩きで部屋を出る。階段を降りると、犯人と思しき人物がいたので慌ててかけ降りて詰め寄った。




「母さんなまえの事逃したの!?」

「逃がす?さっき自分で帰ってったわよ」

「ああっ逞しい!!」

160103
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