僕都市ゲリラ
暇を持て余したニートたちの間に舞い降りたなまえちゃんの機嫌がすこぶる悪い問題。
解決策を考えているうちに話はどんどん進み、なまえちゃんの本人出現により何故かなまえちゃんを全員で捕獲して家に置いておく話になってしまった。
流されて協力してしまったが、転がされているなまえちゃんを見ると自分達の選択が間違っていたと思わざるを得ない。
可哀想になまえちゃん。彼女にはちゃんと主犯がわかっているらしく、お茶を飲んでくつろいでいるおそ松兄さんをずっと睨みつけていた。
「めっちゃ睨んでくるよなまえの奴ほんとにどうしたんだろ」
「いや…これは怒るよ…冷静になって考えてみたけど女の子縛り上げて転がすなんてちょっと良くないんじゃないかな」
「なまえだしよくね?チョロ松クソ真面目ぶるのやめろよ〜」
「打ち上げられた魚みたいだね!」
十四松が失礼なことを平然という。十四松だから仕方ないとして、ぷふーったしかに!!とか言って笑っているおそ松兄さんは本当になまえちゃんのことを何だと思っているんだろう。僕だったら恋人にこんな仕打ちしないけど。
こういうところを見るとなまえちゃんが荒れる理由もわかる気がする。ただ、おそ松兄さんに怒るのはわかるけど自販機や道端の恋人に八つ当たりをするのは道理にかなってないし、彼女らしくない。よってなまえちゃんの悪事の原因ははやはり謎のままだ。
それにそもそも、なまえちゃんは堪忍袋の緒がきれるといったようなタイプではないのだ。嫌だったら我慢できなくなる前にちゃんと言える子だし、そう考えると突然おそ松兄さんへの態度を変えるのだっておかしい。
やっぱりなまえちゃんの中で革命的な何かがあったんだろうか…と考えていたとき、なまえちゃんの周りをウロウロしていた十四松が首を傾けながら言った。
「なまえちゃんぱんつ見えてる」
「ぶっ」
思わずお茶を噴き出してしまった。きたねぇぞクソ童貞〜とかおそ松兄さんが言ってくる。うるさい。
「へー、何色?」
「うーん、うすむらさき!」
「ラベンダー?」
「まじか、やったね」
僕が噴き出したお茶を拭いている最中もおよそ下着の話とは思えないようなテンションで話す弟3人組。自分の色だと知った一松がガッツポーズをした。それを見たおそ松兄さんはそれはもう悲惨な顔をしてテーブルの上のお茶を盛大にこぼしてなまえちゃんに詰め寄った。
ガタタッ
「ちょっと!こぼれてる!!」
「なまえ!?まさかあのパンツ!?」
「おい捲るな!!」
「なんで赤にしないわけこの前これダメって言ったよね!?色には気をつかってって言ったじゃん!!」
「気持ちはわかるけどさぁ、赤ってちょっと派手じゃない?せめてピンクとか」
「それお前!トッティ!!」
「やっぱりピンクだよね〜かわいいよね〜」
トッティが機嫌よさそうになまえちゃんに近づいて笑いかけた。一松が猫を撫でながら紫いいと思うけど。とぼそりと言っている。
奴らには見えていないのだろうか。なまえちゃんはスカートを摘まれたままもう般若のような形相で涙すら滲ませている。寄って集って幼馴染みになんてことしてるんだこいつらは。
しかもおそ松兄さんはなまえちゃんをまだまだいじり足りないらしく、なまえちゃんの顔を覗き込みながらあろう事か両手で胸を鷲掴みにしやがった。その顔を見てまだやるか。
「てかなまえ〜?なんで最近機嫌わるいの?なんかあった?」
「ちょっと!?さり気なく何してるわけ!!」
「いやーこれはもう揉んどくしかないでしょ」
「いやなまえちゃん最早エクソシストの悪魔みたくなってるけど」
完全にブチ切れたらしく足をじたばたしながらもごもごと何か言っているなまえちゃんに十四松が魚!魚!と喜ぶ。もう見ていられなかった。なまえちゃんの人としての尊厳を守らなければという使命感に駆られ、なまえちゃんに寄る。
「ていうかちょっと苦しそうじゃない?可哀想だよ」
「えーじゃあそろそろ口のガムテープ取るか」
「あっでもちょっと…」
今は気をつけた方が、
そう続ける前におそ松兄さんはへらへら笑いながらべりっと口のガムテープをはがした。
ぎっ!!となまえちゃんの目が鋭く光る。そして、誰かがあ、というよりも速くなまえちゃんはおそ松兄さんの手に噛みついた。
「いってーー!?!?」
「ああーほらやっぱり」
「チョロ松わかってたなら言えよ!!」
「いやよく考えればわかるでしょ」
なまえちゃんの歯形がくっきりついた手をふーふーしながらおそ松兄さんは憤慨している。そして、なまえちゃんはやっぱり苦しかったらしい。ぜーぜーと口で息をしながら、おそ松兄さんに向かってぼそりと言った。
「…4500円」
「なにが!?」
「この前見つめるたびに金払えっていった。1分百円」
「まぁ…意外と良心的な値段じゃない?おそ松兄さん散々からかったんだから」
「…っ百万円!!!」
「急に上がった!やっぱ反抗期かよ!?」
「いやというか百円でもたけーよ今までタダだったんだよ?つーか恋人なのにみたら百円ってなに」
「スカート、胸、追加料金」
「なんで?!」
おそ松兄さんは噛まれたことと金を要求されたことが不満らしく(さっきの扱いを見てたら当然だと僕は思うけど)、顔をしかめて再びなまえちゃんの口にガムテープを張り付けると立ち上がった。
「もー怒った!もうなまえは2階に転がしておいておでんでも食いにいこうぜ!」
「ええ!?自由すぎるだろ!!」
「よっこらせ」
勝手に話をポンポン進めていく自由人の長男は、もうすでになまえちゃんを米を担ぐように持ち上げていた。当然なまえちゃんは暴れる。暴れるなって落ちるだろ、と諭しているが聞くはずもなく。
今にも落ちてしまいそうななまえちゃんを見ていられなくなったのか、今まで黙っていたカラ松が口を開いた。
「持ち方が悪いんだ」
「何?じゃあカラ松が持てよ」
もう色んなことが気に食わないらしくおそ松兄さんは仏頂面でなまえちゃんを渡す。受け取ったカラ松兄さんは決め顔でなまえちゃんを優しくお姫様だっこした。
なまえちゃんは大人しくなった。
「おい!なんで?それカラ松だよ?俺こっちだし!」
「むむーむむむむ」
「何言ってるかわかんないけど貶された気する…」
「くるしそうだ、やっぱりガムテープはとっていいんじゃないか?」
カラ松兄さんが一度しゃがんでなまえちゃんを膝に乗せ、ガムテープをとってあげる。自分は噛まれないだろうと踏んでいるあたりが調子に乗っているが、ナイスだと心の中で思った。
しかしなまえちゃんはジト目でカラ松兄さんを見たあと、なんとぺっとカラ松兄さんに向かってつばを吐きかけた。一松がふき出した。
「なまえよくやったな」
「話しかけんな」
今のなまえちゃんの中に友好という文字は欠片もない。ショックでうち震える二人に、おそ松兄さんがため息混じりに首を振って言った。
「ダメだこりゃ。もってけもってけ」
「でもタオルの方がいいかもね、ガムテープじゃ肌が荒れちゃうよ」
「良いかお前ら、覚えてろよ殺すからな」
お姫様だっこには不満がないらしく大人しく運ばれていくなまえちゃんの捨て台詞には本気の色が含まれていて恐ろしかった。
しかし一番惨殺されそうなおそ松兄さんはというと、聞いていない様子で玄関で靴を履いていた。本当に、なまえちゃんがキレる気持ちも大いにわかる。
151220
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