BAD GIRL
おそ松くんのおかげで、私は何とか一度は破壊してしまったやさしい心を取り戻した。
この前も思った通り、あの時の事は実にばからしく、私は馬鹿であった。だけど一応、あれのおかげで私の目的、というよりストレスの元は、何だかんだバッチリ取り払われたらしい。
パワハラしてくる上司にも、朝たまに尻をさわってくる電車の人にも、毎日家付近にガムを吐き捨てるクソガキにも、肘鉄をかまし堂々とブチ切れることができたのだ。普段の私にはできなかった事だ。グッジョブ私。やればできるじゃない。
因みにクビにはギリギリならなかった。私はこれからも社畜だ。だけど、これからは今までよりもう少しましになるかもしれない。頑張ろう。
私の悩みは全て解決したわけだ。
しかも、おまけがもうひとつ。おそ松くんの私に対する態度のことだ。
確かに、確かにすこしは思っていたと自覚している。おそ松くんは、私のこときっと今でも幼馴染だとしか思ってないんだろうなぁ。とか。
でも私が怒ったり、別れようっていうと、おそ松くんは可愛く謝ってくる。なまえのことだいすきだよ、なんて言ってくれる。
一回だけ、ほんとに喧嘩になってなまえしかいないよって、泣いてくれたことがあった。
だから大して不満には思ってなかった、と思うのだが。なんだかんだとどこかではそれなりに不満だったらしい。
おそ松くんたちにまで私の怒りは飛び火していて、おそ松くんはあれ以来何故だか私にめちゃくちゃやさしくなっていた。
「ねぇ、おそ松くん」
「んー?」
「ごめんね、ひどいことして」
「別にー?俺って超優しいからね」
鼻歌を歌いながら前を歩くおそ松くん。
今日は私をパチンコデートに誘ってくれた。いや、デート先がパチンコってどうかと思うが。
これでもし儲けたら水族館につれてってくれる、らしいのでまぁいいか。
「ねぇ、おそ松くん」
「なにー?」
「私のこと好き?」
「あーすきすき、ちょーすき」
……………。
「…あのさ、ほんとに好きだよ?」
「う、うん」
「俺、ついこう、なまえのこといつもみたく雑にしちゃうけど、嫌いとかどうでもいいとかじゃないから」
「わかってるわかってる」
「もし、むかついたら、そしたらちょっとぐらいなら怒ってもいいよ。あんま怒られっとへこむけど、俺なまえが俺のこと好きで怒るなら、ちゃんときくからさ」
「…ほんと〜〜?」
「ほんとだって!」
ばっとおそ松くんは振り返って私の両肩をつかんだ。急なことでびっくりしたのと、真剣な顔が近くにあるのとで、私の心臓はばくばくと大きな音を立て始める。もう少し静かにして、おそ松くんの声が聞こえなくなっちゃいそうだ。おそ松くんがこんな真剣な顔をして今から言ってくれる言葉を、私は一言だって聞き逃したくないんだ。
「……なまえ」
「…………」
「俺、今日五百円しか持ってなかった」
「……は?おいふざけんな!?」
「金貸して!俺今日勝てそうだから!な?お願い!」
「中止だよ!ファミレスでお子様ランチでも食ってろばーか!!」
「何怒ってんの?こんな事で怒るなって!」
「あなた今さっきなんて言ったよ!?」
「いや聞いてるじゃん!聞いてる上で怒るなとアドバイスしてるんだよ」
そんなとんでもない屁理屈を言っておそ松くんは満足気に頷いている。
それからさらにドヤ顔で言ってきた。
「言いたいことを言い合う。これからは俺達、そういう風にしようぜ」
おそ松くんが言い終わるより速く、私は「オラァ!!!」と野太い声を上げて肘鉄をかましてやった。ぐぶ、とか言って倒れたおそ松くんの首根っこを掴んで引き摺りながら、おそ松くんにはお子様ランチについてくるミニカーが良く似合うだろうな、と考えて空を見上げた。今日はいい天気だ。とっても素敵なデート日和である。
fin
160323
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