愛の天秤は180゚
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『斎藤先輩ってば、彼女の私が頑張ってお洒落してるのに可愛いのお世辞もないんですね』
ああ、素直に慣れないのが私の悪い癖。
言った言葉の取り下げ等できず、一瞬冷たく笑われた後強引に近づけられた彼の待ち遠しく愛しかった唇。
けれど、それは以前の触れるだけのキスではなく噛み付くような粗粗しく労りのない苦しいだけの口づけ。
何が起こったのかも分からずに斎藤先輩に唇を貪られて縋り付けば、やはり優しい彼の一面なのか崩れそうな腰を支え抱いてくれる。
大袈裟に唇を震わせ酸素を取り込む私に漸く唇を離すと彼の顔が視界から消える。
不意に首元に押し付けられた柔らかな感触。鈍い痛みを刻みぬるりと濡れたソレが其処を確認するかのように動く。
這い出した赤い舌は、止まる事はなく鎖骨までおりリップ音を刻む。
『やっ...さい、とッ...ん...やァ』
強く斎藤先輩の胸板を押し返せばより強引に引き寄せられ、挙げ句の果て両手首を一纏めにされ壁に押し付けられる。
こんなにも強引な斎藤先輩は知らない。嫌だと言っても聞いてもらえない...。
怖くなった千鶴の瞳からは大粒の涙がこみ上げ頬を濡らしていく。
「どうした?...可愛がって欲しかったのだろう」
追い打ちをかけるように俺が冷たく吐き出せば肩を震わせ本格的にその場で泣き崩れる彼女。
少し、やり過ぎただろうか。
しゃくりをあげ肌蹴た胸元に皺を寄せ縮こまる千鶴に胸が締め付けられ、優しく身体を包み込めば驚きで顔を上げる彼女に愛おしさを隠せず、触れた唇で瞳から流れる適を顎から目尻までをなぞり拭いとる。
「強引にしてすまなかった千鶴。俺が怖いか?...」
私を覗き込む碧瞳は悲痛の色を隠しながら優しげに揺れていて、先程までとはうって変わって弱弱しい...
斎藤先輩が好き...こんな事までして先輩に触れて欲しかったんだ...悪いのは全部私で、私は斎藤先輩を困らせて...。
ほんと、何してるんだろう私。
『怖くないですッ...ふぇ、先輩は...悪くないです。謝ら、ないで下さい』
困らせたくない、なのに彼の目の前で涙はボロボロと溢れる。後に引けなくなった私は誤解させまいと訳を全て打ち明けた。
千鶴の話を聞いた俺は余計に複雑だった。
何より好いた女を泣かせてしまったのも心がいたたまれないが彼女の気持ちに寄り添ってやれなかった己自身に腹が立つ。
だが、俺の気を引く為にこの様な格好だと頬を赤らめ恥じらう様子を見せる千鶴に少なからず欲情しない訳がない。
共に時間を過ごしたいと可愛く強請られれば拒否する男などいるのだろうか。
「千鶴、簡潔にまとめるとあんたは俺に触れられたい...と言うことか?」
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