ヘパイスとヘラ

「ヘラ、知っているかい」

突然思い立ったようにヘラの前に現れ、ヘパイスは話を切り出した

いつもと変わらないヘラにとって不可解なその笑みを浮かべて、サイドに下ろした波打つ髪を弄っている


「僕とお前は親子なんだよ」


にこり、と笑みをさらに強くさせ、けれど確かな声色で呟く

ヘラには理解不能だった


「何を言い出すかと思ったら、
また訳の分からない事を言うものだな」

なんでまたお前とオレが親子にならなきゃならないんだ

そう付け加えて、ヘラは不機嫌そうに腕を組んだ


ヘパイスは笑っている

「神話の話さ」

「女神ヘラは自らの力で、ヘパイストスを生んだんだ」

「まあ、僕のように美しくなかったから、すぐに捨てられてしまったのだけれどね」


胸くそ悪い話をする、

ヘラは心中で毒づいた

何を伝えたいのかさっぱり分からない

眉間の皺は寄ったままだった


「ーーでも、親子だと言う事実は、決して切れる事はない」


少し間を置いてヘパイスはそう告げる

笑顔は消えないままだった

「…何が言いたい」

「ヘラ」

す、と腕を組むヘラに近づく

赤茶色の髪に触れて、耳元に唇を寄せた

瞳を閉じて微笑むその姿は、さながら女神のようだ


「ヘラ、僕とお前は親子だ
そして決して切れる事のない絆を持っている」

「どんなに離れていても、切れる事は無い」


「…ずっと一緒だね」


寒気がした

ヘパイスが笑みを色濃く残していたのは、自分に対する執着の終着点が見えたから

しかしこれはヘラにとって終着点でも始発点でもなんでもなかった


「気色悪い事を言う」

「何か不満かい?」

明らかに不機嫌そうなヘラを間近で見つめて、ヘパイスは幸せそうな笑みを浮かべる

ヘラはその嬉しそうな灰色の瞳を睨みつけ、言った


「オレとお前は家族などではない」

「ヘラは女神だ。オレは女じゃない」


「お前は勘違いしている」


頭に疑問符を浮かべる紫紺にため息をついて、尚続ける


「オレ達は、親子なんてものより、もっと強い絆があるだろう」

「忘れたのか、馬鹿な奴だ」

少し間をおいて、ヘパイスはふふ、と声を出して笑った

その頬に確かな紅色を浮かばせながら、もう一度笑う

ヘラはそっぽを向いていた


「…本当、」

「お前は素直じゃないね」


「ありがとう、ヘラ
愛しているよ」




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確かな繋がりが欲しいヘパイスと見えなくても繋がってると主張するヘラ

なんだかんだで相思相愛がすきです



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