水前寺と香芽

最近風邪が流行っているから気をつけろ


そう監督から皆に伝えられたのはほんの数日前の事だ

鶏井が「十分気をつけて生活するコケよ!」って言っていた気がする

そういえば保健の授業でも、手洗いうがいをしろなんたらっつってた気がする


別に怠っていたつもりは欠片もないが



「……けほっ」

こうしてオレは風邪をひいてしまった訳で


山奥にある学校には到底行けない、仕方なしに先生に連絡をして、ひとりベッドに寝転がる事にした

「……」

誰もいないこの部屋は静かだ

部屋の内装じたい、賑やかではないせいで、余計に暗く感じる


正直、心細かった



ピンポーン

「……?」

玄関のベルの音で目が覚める

時計を見れば、夕方の5時を軽く回っていた


ピンポンピンポーン

「……はい」

誰だよこんな時に来る奴は…


「よっ」

「……水前寺」

「ちーたって呼べって言ってんだろ?」


ドアを開けるとニコニコした水前寺が現れた

お前もう部活終わったの、そう言うと今日は長引かなかったんだって返された


「お前、どーせ病院とか行ってないんだろ?ほら、みんなからの差し入れ」

「……どうも」

薬局とかで売ってる風邪薬に、冷えピタに、りんご

あと大量のポカリ


「………」

「ポカリはみんなから1本ずつな」

「…こんなに飲みきれないよ」

「保存しときゃいいだろ」


水前寺は勝手に台所に向かうと、簡素な冷蔵庫にりんごやポカリを詰め込む

あー、入りきらねえから2本は今飲めよ、とか言って、ベッドに腰掛けるオレにずいと押し付けた


「……」

「風邪引いてる時は、たくさん食って、たくさん飲んで、たくさん寝なきゃいけないんだゼ」

「…食べたくないし、飲みたくもない…」

「だーもー」


「っ!」


くしゃくしゃ、と頭をかいて何を思ったか水前寺はオレを押し倒す

何すんだ、ともがいても風邪っぴきのオレでは到底歯が立たない


「何す、」

「とっておきの方法を教えてやろっか」

「は、」

「風邪引いた時は、相手にうつすと治りが早くなるんだゼ」


意味が分からない

その理屈はどこから来たんだ


「…そんなの、いいから離せよ、」

「ちょっと待ってろ」

ポカリの蓋を開けて、一口含んだかと思ったら、いきなり唇をふさがれた

突然すぎてびっくりして、はねのけようとしたが、やはりオレでは不可能だった


口に入りきらずに、端から漏れたポカリが首筋を濡らした

冷たい


「っは…」

「水分補給もできて、一石二鳥だよな」

「…っ意味、分かんない」

お前のせいで熱が上がった、責任とれ

だなんて言えたら良いんだけど、そんなこっぱずかしい事言える訳がない


「もっかいするか?」

「…自分で飲むっ、」


急にやって悪かったって、

そう言う水前寺にぷい、と顔を背けて怒ったふりをした

本当は心細かったから、大目にみてやってる

なんて秘密だけど




「ぶえーっくしょい!」

「風邪を引いたのか?チータ」

「てめえに移してやろうか蛇丸ー」

「ははは、冗談だろ」


「…自業自得」

「どうしましたか?レオン先輩」

「っ…別に、」

オレからは絶対やらないからな

彰真を追いかけまわす水前寺に、視線だけで語りかけた


恥ずかしい思いは御免だ



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一回やってみたかった風邪ネタ

風邪ネタでR18とかよく見るけど恥ずかしくて書けない…

だからキス止まり



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