エイナムとクオース

星がくっきりと見える夜空の下、もたついた着物の裾をあげて月を眺めた

本当ならば就寝時間はとうに過ぎている
見つかれば大目玉間違いなしだが、それでも外に出たのは腑に落ちない気分を落ち着かせるためでもあった


「……ザノウ」

紫色の髪の毛を風に揺らして、クオースはムゲン牢獄に墜ちた男を想った


遠い戦国の世であのサッカーチームに敗北してしばらく経っただろうか

いつの間にか上司は再び入れ替わり、また相応しい働きの出来なかったものが離脱された

ザノウやガウラも、今はこの場所にいないのだ

「……どうして駄目だったかな」

あのチームは会う度に力をつけている

あの時相手がシュートするきっかけを作ってしまったのは自分だった

ムゲン牢獄行きに相応しいのは自分のはずなのに


「就寝時間はとっくに過ぎているぞ」

「…あ、エイナムだ」

「何をしているんだ、まったく」

部屋にいないのをいち早く察知したのか、気づけば横にエイナムが立っていた

理由をしつこく問いただそうとしないのは、彼も似たような訳を持っていたからだろう


「3人になってしまったな」

「ああ」

「主将もまた変わった」

「そうだね」

「次こそ勝てるだろうか」

「珍しいじゃん、疑問符つけるなんて」

「アルファがいなくなってから、疑問と憤りの連鎖でな」


そこまで話して、エイナムはため息をつく

「何故一緒ではないのだろう、と」

「……」

沈黙。
だがすぐに現在の主将の怒声に破られた


「また貴様たちか、何度チームの統率を乱す真似をすれば気が済むんだ?」

「申し訳ありません」

「すいません」

「ふん、いいか、僕は今までの奴らみたいに甘くはないからな」

白髪をさっとまとめて言い放つ言葉には、若干の侮蔑が含まれていたように感じた

気にとめないよう目を逸らして、しぶしぶと歩き出す


「次こそ勝とうな」

声をひそめて呟くエイナムの瞳は堅かった

「世界を守ろう」

呼吸をするように決まり文句をひとつ

次が駄目だったら、ムゲン牢獄行きかな


言っている事と反する己の意識

そんな事を同時に頭の中で考えていたあの時点で、この結末は予想出来ていたのかもしれない

破天荒な脱獄者におもちゃにされるまで、残り数時間




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ベータ離脱からザナークの洗脳までの間



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