幻一と真帆路

「ねえ、どうして真帆路は笑ってくれないの?」

「……」

「ねえってば〜」


練習が終わった廊下で、しつこくまとわりつく男の名前は不知火幻一。

弟と共にこの幻影学園サッカー部の優秀なFWなのだが、如何せん馴れ馴れしく、そしてしつこい。

先ほどから永遠と聞かれているこの問いだって、随分と前から無視を通しているのにこの有り様だ。

弟も呆れてしまうくらいしつこく馴れ馴れしいが、こいつはそれを輪にかけてしつこい。

思わずため息が出てしまう程なのだ。


俺は。

ヒトにつきまとわれるのは苦手だ。

あること無いことを好き勝手に憶測されて噂にされるのも苦手だ。

そして、


「真帆路がその気なら、俺だって考えがあるんだからね」


トン、と背中が壁に当たる感覚がした。

いつの間にか部室にたどり着いていたらしい、周りの風景は誰もいなくなった物悲しい部室のロッカーたち。

幻一をみると、いつもとさして変わらない飄々とした笑みを浮かべ俺の両手をふさいでいた。


ぞく、と戦慄が走る。

俺は、言うことをきかせる為に手を上げられるのが苦手なのだ。

幻一は、実力行使に出ようとしているのだ。


「止めろ」

「やだ」

「そんなことをしても、俺の表情は変わらない」

「ううん、変わるよ」


一瞬、笑顔が歪んだ気がした。


「真帆路、なきそうな顔してるもん」


苦手なものの数々は、

すべて、いじめに結びついていた。

天城を守るために犠牲にした俺の心は、

これらすべてを兼ね備えてしまっている、この男に恐怖してしまっていた。


「ねえ、真帆路、どうして真帆路は笑わないの?」

「いっつもなきそうな顔してる真帆路」

「そんなになきたいなら、俺がなかせてあげる」

「ないてないて、すっきりしたらきっと、笑ってくれるでしょ?」


「ね、真帆路」


強者には逆らえない。

どんなに抵抗したって、力でねじ伏せられてしまう。


幻一、お前は強者だ。

「………」



俺はすべてを諦め、ゆるゆると瞳を閉じた。

俺の心とは反対に、幻一の声は嬉しそうだった。




______________

いじめに関するすべてが真帆路のトラウマになってしまっていて、

物言わぬ人形になってしまいたい、そんなまほたんと純粋にまほたんが気になるだけの幻一

初GOがこれってェ…

<<||>>