ヘパイスとヘラ

今日は最悪な日だ

あまりの豪雨の為練習が中止となり、しかも寮に帰るにも外に出られないから部室でしばらく待機していなければならなくなったのだ

それだけならまだ我慢できた、それだけなら

一番我慢ならないのが…


「ヘラぁ、寒いからくっついていようよー」

「………」

「ふふっ無視したって勝手にくっついちゃうからね」


こいつだ、こいつのせいでこめかみの血管がぶち切れそうになっているんだ

本当にぶち切れたら訴えてやる、きっと俺が勝つだろう


「ヘラはお母さんみたいにあったかいねー体温だけは」

「黙れヘパイスさりげなく尻を触るな」

「え?もっと触って欲しいって?」

「殺す、絶対殺す」


ああ神よ、どうしてこんな変態に好かれてしまったのか事細かに説明してくれ

そして何故こいつと2人きりにならなければならなかったのかも事細かに頼む

いや、理由なんて最初から分かりきった事なのだが


「それにしても災難だよねー、荷物取りにいった矢先にこんなどしゃ降りだもの」

「……」

「荷物取り係になんかならなければよかったねえヘラ」

こればっかりはじゃんけんで決まった事だ、文句は言えない

だが運が左右するじゃんけんでよりによってこいつと2人になるとは、自分の運の無さに怒りがこみ上げてくる


「どうしよっか……このまま出たら濡れちゃうもんね」

「そんなの、止むのを待つしかないだろう」

「じゃあその間はヘラと2人っきりだね!」

「……」

くだらない話は全て無視だ

こいつがすぐに調子に乗ることくらい百も承知だからな


糞、なんでよく知ってるような素振り見せているんだよ俺は、馬鹿か

認めないぞ、認めるものか


「……止まないねえ……」

「……」

「誰か傘持って来てくれないかなあ…」

「風が強いから無理だ」

「ちぇ……」


刻一刻と太陽は沈んできているようだ

部室に入った頃はオレンジ色に染まっていたこの部屋も、曇天のせいもあってか薄暗く淀んだ空気を発していた


「………」


この部室は広い

16人が入って暴れても充分な広さを持つこの空間で、一言も発する事無くふたりぼっちでいると、何故だか理解出来ないが言い難い孤独感を感じた

いや、言葉を発するな、ヘパイスよりも先にしゃべったらまるで俺が寂しくなったみたいじゃないか

こいつは見た目や性格がチャラチャラしている癖に、どこか俺では叶わないような何かを持ち合わせている

いや待て、そんな事口にしたら俺が負けを認めたみたいになってしまう

糞、負けるもんか


勝ち負けなんか存在しないのに俺は勝手に我慢大会を始めてしまっていたようだった


(寒……)

そろそろ我慢の限界で、前を向いていた首が下を見始めた頃

こてんと言う効果音と共に右肩に重みを感じた


「…なんだ」

「別に?寒いからくっついただけだよ」

「……、」


嘘だ、お前めちゃくちゃあったかいじゃないか

俺の方が何倍も冷たいぞくそ、その体温少し分けろ


いや、待てよ

もしかして、俺が寒がっていた事がバレたのか?

そんな筈は……


「ヘラ、最初と違って冷たいね、もしかして変温動物?ふふ」

「うるさい黙れヘパイス」

冗談を口にしながら勝手に体重を俺に預けるヘパイス

さっきからずっと笑っている

「僕はね、ヘラの事なら何でもお見通しなのさ」

「……」

「ヘラがだいすきだから、ふふ」


俺が寂しがっていた事もバレていたようだ

本当だよ?と付け加えて俺を見上げるこいつの表情は本当に何でも見透かすような瞳で笑っていて、


「…勝手に言ってろ」


俺はああ、こいつには叶わないと心の中で屈辱の白旗をあげる事となった

顔が赤いとからかったら鉄拳が飛ぶと思えよ

(何でもお見通しなんだろ)

許容してやるのは今日だけなんだからな




その後雨風が弱まった頃他のメンバーが助けにきてくれた時にふたり仲良く寝てしまっていた事は完璧なる蛇足である




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理解していてもしたくないツンデレヘラさん



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