デメテルとアルテミス デメテル→アテナ→アルテミス前提 今。 俺は座るアルテミスの真後ろに立っている 時刻は夕方、太陽が母なる大地に沈む時間帯 毎回この時間帯となると、我が世宇子中サッカー部は片付けに入り始める それは主に自らの荷物をまとめるだけのものなのだが、毎日2人ずつ、今の俺達のようにボールについた泥を拭く係りが決まっていて、その2人は皆と一緒には帰れない決まりだ(ボールの量が尋常ではないからだ) 前は黒服の男達が身の回りの事を全てやっていたがーー 影山が捕まって以来俺達の自主性と結束力が芽生え、こうして自分達だけで身の回りの事を管理する事に決定したのだった そして今日、本来アルテミスと共にボール磨きをするのはアポロンなのだが、奴にしては珍しく熱を出して練習を休んだ そこで、相方決めをしたと言う訳だ 相方決めの際、アテナが自ら手を上げようとしていた所に俺が立候補してしまったから、あいつに変な勘違いをさせてしまったかもしれない 俺はただ、あいつとアルテミスを2人きりにさせたくなかっただけだ いや、その考え自体おかしいのだが 「すみません、デメテル……あなたの手を煩わせてしまって、」 部室の真ん中で細々と汚れを落としていたアルテミスは俺に、本当に申し訳なさそうに首をうなだれて謝罪した アルテミスはヒトが良い 下心なんてものが微塵も感じられないから、あいつも心惹かれたのかもしれないし、俺もまた憎みきれていない 「いや……気にするな、俺が勝手にしたまでの事だ」 そう俺が返すと、でも…と納得しきれていない声が聞こえたが、俺が歯切れが悪い事が嫌いなのを知っていたのですぐに声は消えた そのまま会話は終了し、沈黙が部室を取り巻く ちら、と奴を見ると、よほど集中しているのか俺の視線に気づかず背を向けて懸命にボールを磨いている むき出しのうなじを眺めてふと、ああ、あの首を絞めたらこいつは死ぬだろうな、と思った 押し倒して仮面を剥ぎ取って、その苦痛に満ちた表情を眺めながら首を絞めたら、 何を考えている そんな事をして、許されるとでも思っているのか そんな事をして、あいつが喜ぶとでも? 確実に軽蔑するだろう 無意識の内に背後に立って、無防備なその首に手を伸ばした 「あっ……デメテル、どうかなさいましたか…?」 ハッとなって手を引っ込める 服にゴミが付いていたとごまかして、逃げるようにその場を離れた 何も知らないアルテミスはまた申し訳なさそうに礼を述べ頭を下げる 俺は応えないまま顔を見ずに、布を持ってボールを手に取った たくさんあったボールもあらかたもとの白さを取り戻し、後はしまうだけとなった 車輪のついた籠に少々乱雑に投げ入れ、背を向ける 「あの……」 「おい、」 「はい…?」 「……あまり俺に近寄るなよ」 何か喋ろうとしたアルテミスの言葉を遮り(大方礼か謝罪だろう)、背を向けたまま吐き捨てるように言った 奴がどんな表情をしてどんな反応を見せたかは分からない 何も知らないから、どういう事なのかきっとさっぱりだろう 嫌われているとでも思っただろう そう思うとなんだか申し訳ない気もする だが、これが俺の奴に対する精一杯の抵抗だった 立ちすくむアルテミスをよそに俺は大地に謝罪しながらひとり宿舎へと帰路につく ______________ 9番と6番の日なので 油断してたら絶対にバッドエンドだった← <<||>> |