アポロンとアルテミス

我々にとってサッカーとは何か?


誰かにそう投げかけられた時、ヒトは何と答えるのだろうか

夢?楽しみ?


私はこう答えるだろう



「生きる意味」

「……」

私の隣にはアポロンが座っていて、空気に晒された私の瞳をじっと見つめていた

その瞳にいつもの明るさは無く、実に悲しそうな、複雑そうな表情を私に伝えた


空の上に浮かぶこのスタジアムは、夏にさしかかろうとしているのに微かに肌寒い

装飾も何もかも白で統一された石像が並び、冷ややかな目で私たちを見つめている

非常に不愉快な視線だ


「実弓」

「俺たち、負けちゃったな」

「影山も、捕まっちまった」


我々は負けた
利用されるだけされて、私たちはボロ雑巾のように棄てられてしまったのだ

私やアポロン以外のメンバーは、ふらふらと彷徨うようにこのスタジアムから消えた

皆、悲しそうな、複雑そうな瞳を浮かべ

目指すべき道を失い、困窮し、涸渇し、我々はどこへ向かうのか

破滅か

それ以外に何の選択肢があると言う?


「サッカーは、私にとって私が私である証明でした」

「私のコンプレックスを覆い隠してくれる、大切な存在」

「それが汚され、私も汚し、利用され、私は棄てられ」


「私は何を糧に生きたら良いのです?」


答えは求めていない

アポロンはきっと答えてはくれない

何故ならこれは、私自身が分かっている事だから


「サッカーを汚した」

「でも俺、それでサッカーを止めたくないな」

「何を意味するのか」

「分からなくなったなら、俺はまた作り直したい…」


アポロンをみる

伏せられた瞳は相変わらず暗いけど、私よりか希望に満ちた瞳をしていた


「アポロンは、前向きですね」

私がそう呟くと、アポロンは突然立ち上がって私の数歩先へと走り出した

私は唖然としている

顔にある古傷が嫌に痛んだ


「実弓、サッカーやろうぜ」

「どうせここにはもう来る事はないんだ」

「だーいじょうぶ、ちょっとパスするだけだって!」


どこから取り出したのか、アポロンはボールを取り出し膝で数回バウンドさせると、私に向かってパスを送った

私は思わず右足でボールを受け取る

外した仮面は手に持ったままだ


「……」

「アポロン、あなたがこれからの未来を作り直すと言うのなら」

「私も、あなたについてゆきたい」

「構いませんか?」


願いと共にボールを彼のもとへ

彼は笑顔を浮かべてボールを受け取った


「もちろん!」

「実弓を置いてく訳ないだろ?」

「断ったら、意地でも連れてくつもりだったさ」



「ーーふふ」

「全く、あなたにはかないませんね…」


手に持っていた仮面を、浮かぶスタジアムの窓へ放り出す

私が私であった証は、遥か下の地上へと落下した

もう戻ってはこない


私は、生まれ変わる


彼と共に。




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下手すりゃバッドエンドだったもの

最近実弓が愛おしくて発狂しそうです



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