誰かが言ったんだ。別れることがなければ、めぐり逢うこともできないって。でも、めぐり逢うことよりも別れることの辛さが勝ることってあると思うんだよ。めぐり逢うこと自体に喜びはないんだから


「卒業おめでとう」
「…はい」


晴れ晴れしい空と校舎の下、きゃいきゃいと騒ぐ楽しそうな声が耳に届く。つい数分前は私も友達と打ち上げの話なんかに花を咲かせていた。けど、いつもと違いかっちりとしたスーツにきっちりとネクタイを締めて、さっきまでクラス写真なんかを撮ってた先生の姿を見つけて友達に先に帰ってて、そう言伝てポケットに手を入れながら昇降口へと向かう赤茶の髪を追った。


「進学するんだったけ」
「はい。指定校貰ったんで結構早めに決まりました」
「そりゃーよかった」


先生が微かに緩んだ表情で首筋を掻いた。びゅおっと強く一吹きする風に髪の毛とそれから目の前の先生のネクタイを揺らされる。先生と、私の間の空気が微妙に重たいのは気のせいではない。

一年半前、二年の夏休み明けに先生に告白をして…。勿論断られたけど。彼が教師だってことはちゃんと分かってた。でも私が持ってた感情がただの憧れなんかじゃないことも、ちゃんと分かってた。先生は、そういう気持ち、悪いことじゃないよって言った。受け入れることは出来ないけれど。だからずっと大切に持ってた。ずっと持ち続けておいてなんて言われたわけじゃないんだけど。ずっと棄てられなかった。多分分かってるんだと思う。先生も。私がまだ持ってること。


「ほんの少し前はまだ子どもだと思ってたんだ。でも高校生ってのはもう大人って言ってもいいなんだよな。改めて前にするとさ。ただの、子どもには…見えなくって困る」
「もう高校生じゃありませんから」
「今なら受け入れるって言ったなら、どうする?」
「…でも、もうそろそろ終わらなきゃ駄目な気がするんです」
「別れることがなければ、めぐり逢うこともできない」


そう、先生が言った言葉。ただ好きなだけじゃ駄目だった。今日は別れを言う日。例え、めぐり逢うことに喜びはなくとも。別れが辛くて仕方がなくても。

差す日が眩しい。何も言わない先生は、待っているのかな。告げる言葉を。めぐり逢うためにっていうわけじゃなくて自分のため。


「さようなら」


安田先生は何も言わず、私は彼に背を向けた。晴れ晴れしい太陽の匂いが鼻をかすめた。


スカーフが解ける音、チョークが割れる午後



ポロネーズ午後五時より
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