※3〜4月あたりの時期です。





不動を眠りの世界から引きずり出したのは1日の授業の終わりを告げるチャイムだった。
それと同時に暖かな風に乗って校舎の中からザワザワとした生徒達の喧騒が聞こえてくる。普通であれば不動もその喧騒の一部である筈なのだが、不動が彼らと違うのはほんの少しだけ自分に正直であることだった。
陽に当たり火照った頬を擦りながら起きあがる。どうやらちょっとした昼寝のつもりが、うっかり熟睡してしまっていたようだ。日除けにしていた木の陰が今は随分と違う場所に移動しているのを見て、自分のうっかりを後悔する様子はなく不動はふむ、と納得したようであった。

優しい風が頬を撫でる。周りの草や日の匂いが不動を再び眠りの世界へ誘い込もうとするが、その誘いを振り切るように一度大きく伸びをして立ち上がり、制服に付いた草や埃を払らってから不動は歩き始めた。向かうはサッカー部の部室。


「あっ不動!授業サボってどこいってたんだ!」

部室に足を踏み入れるとチームメイトの1人である佐久間が色素の薄い髪を靡かせ不動の元へ飛んできた。
「だいたいお前は勉強しなくても成績がいいからって……」
最近やたらと絡んでくるなぁ、と思いながら不動は佐久間のお小言を適当に聞き流す。
FFIが終わり鬼道が帝国ではなく雷門に戻ると知ると、自分が鬼道の分まで帝国を引っ張っていくという使命感に駆られたのか佐久間はよく不動を捕まえては鬼道のように説教するようになった。というのは不動の憶測で、実を言うとそれもあるがソコには佐久間の携帯電話が受信した『不動を頼む』という鬼道からのメールも存分に関係しているのだが、その事は不動が知る由もない。
欠伸混じりに聞いていた佐久間のこれから数十分は続くであろうと思われた鬼道譲りの説教がいきなり佐久間自信によって中断された。
佐久間は説教をやめたことで怪訝な顔をする不動の方凝視し、そして顔を歪ませる。
「ぷっ…不動、外はそんなに気持ちよかったか?随分よく眠れたみたいだな」
佐久間がニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべる。
「…んだよ」
不躾な視線を送る佐久間に不動は眉間にシワを寄せ睨みつけると、べっつに〜?とますます不動を苛立たせる表情で答えが帰ってくる。
その態度に不動の眉間にもう一段階深く皺が寄ったその時、背後にあるドアがガチャリと音を立てた。

「なんだか今日は立場が逆だな」
声がしたと思って振り返ると丁度不動の背後にある部室の扉から源田が入ってきたところだった。
「源田、佐久間が気持ち悪りぃ」
不動は佐久間から距離をとるようにスルスルと源田に近寄る。そんな不動に佐久間はさっきの自分の態度は棚に上げて、心外だと言った風になんだよー、と唇を尖らせる。
「…もしかして不動気付いていないのか?」
「何がだよ」
「あっ!馬鹿っまだ言うなよ!」
何か知っているような源田の言葉に不動は怪訝な顔をし、そして続きかけた言葉を佐久間が慌てて止めに入る。しかしそんな佐久間の願いは叶わず、
「ほら」
そう言って源田の大きな手のひらが不動の頭に延びる。不動は反射的に肩を竦めるが源田の手のひらは難なく不動の頭に着地し、そのまま髪の毛の上からワサワサと撫でられる。背後からはあぁー、ともう一人の不服そうな声が聞こえた。
「?」
不動が源田の謎の行動に首を傾げていると、ふいに視界の中に薄桃色の小さなヒラヒラとしたものが何枚も映った。源田の手が離され、不動は床に落ちたそのヒラヒラの中の一枚を拾い上げた。
「…桜?」
「あーあ何で言うんだよ。せっかく不動の頭が面白いことになってたのに…」
そう言って残念そうな顔をしながら佐久間の指が不動の髪に未だ引っかかったままだった桜の花弁を摘む。
佐久間の手には不動が拾ったものと同じ薄桃色の花弁があった。

「もう咲いているのか。最近すっかり暖かくなったなからなぁ」
源田が気の抜けた声で呟く。佐久間もそれに頷きながら鬼道元気かな…、と少し寂しげな視線で遠くを見る。
いつのまにか部室内が締まりのないのほほんとした空気に包まれていた。この空気を連れてきた本人はというと慣れない雰囲気に尻がムズムズしたらしい。会話には参加せず、足下に散らばる花びらを靴の先で軽く蹴飛ばしていた。

「先輩達ー。もう部活始まりますよー」

各々好きなようにまったりとしていた3人だったが、暫くすると後輩の呼ぶ声が聞こえた。その声にハッとして、時計を見ればもう部活の開始時刻が近い。3人は慌てて自分達のロッカーに向かった。


おわり110525



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テーマ「人外ファンタジー」
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