※成長後鬼不で同棲してます
現在不動が立っているキッチンの中は仄かな熱気と、食欲をそそるいい匂いに包まれていた。
不動はグツグツと鍋の中で煮えるそれをかき混ぜる。お玉を回す度に湯気の向こうから大きめに切られた野菜が見え隠れする。
もう充分だろう。と、かき回す手を止め、味見する為に少しだけ掬って口元に持っていく。息を吹きかけて冷まし、いざ口をつけようとした瞬間、後ろから延びてきた腕にスルリとお玉を奪われた。
「少し薄くないか?」
後ろには鬼道が立っていて、その手にはお玉が握られている。
不動が時計を見ればいつも鬼道が帰ってくる時間ぴったりで、いつもならそれまでには夕飯の用意はできている筈なのだが、どうやら今日は買い物に時間を掛けすぎたようだ。
「んな筈あるかよ、いつも通りの分量入れたっンム…!」
勝手に味見しといてケチをつける鬼道に文句を言えば顎を掴まれ後ろから口付けられる。
今まで外気にあてられ冷たくなっていた唇とは反対に、口内に侵入する熱い舌に上顎をなめられると思わず声が漏れた。
「んぅ…ふぁ、あ」
いつも鬼道のペースにのせられるのは釈だ。そう思った不動は主導権を奪う為自分も舌を絡ませようとするが、呆気なく鬼道の唇は放された。
「な?薄いだろ?」
呆気無いそれになんだか肩すかしを食らったようで口元を歪める。
「一瞬で分かんねェよ……」
そう言って今度は自分から口付ける。首に腕を絡ませさっきみたいに逃げられないよう鬼道を拘束する。
口内に舌を入れると、僅かに自分がさっきまで作っていたモノの味がしたが、当たり前だが薄いかどうかなんて確認できなかった。いや、そもそもする気なんて無かったんだけど。
鬼道の舌を舌先で軽く触れさせてから絡ませると鬼道もそれに返してくれた。それがなんだか嬉しくて、不動は腕を引き寄せ更に口付けを深くする。背後で火をかけたままの鍋がグツグツと音を鳴らし始めるが、それでも自分の腰に腕を回されるのを感じて、ギュッと鬼道の首に回した腕を強くする。
口を離せば、な?薄いだろ?と俺を映す赤い目でそう訴える鬼道に呆れながらも、わかったわかったと言って鍋に向きなおる。
「コレ作ってるから鬼道くんは食器並べといてよ」
結局味はわからなかったし相変わらず頭堅いわサッカー以外の事には鈍いわで呆れるが、これが惚れた弱みというやつだろうか。
不動は一口掬って自分も味見してみる。やっぱりいつもと同じ味だと思った。それでもカチャカチャとテーブルに二人分の食器を並べる鬼道に目をやってから奥の調味料に手を伸ばした。
101201