※モブ×不動描写あり
※不動さんの両親捏造



不動が目を覚ますと窓の外は真っ暗だった。
寝ている間も冷房がかかったままだった室内は冷えきっていて僅かに体を震わせる。
エアコンを切り不動は己の眠りを中断させた携帯を手にとって開き、受信ボックスに新しく入ったメールにざっと目を通してからパタンと閉じる。
起き上がってテーブルを見ると二人分の夕飯がラップにかけられていた。夜、仕事に出掛ける前に母が作ったそれ、1つは自分の分、そしてもう1つはーー。



玄関で靴に履き替え外に出る。星月は夜空を覆う厚い雲に隠され周囲は真っ暗だったが、立ち並ぶ家々から漏れる光がコンクリートの地面を所々照らしていた。
不動はそれらの隙間を縫うように進んで行く。時折家の中から子供の笑い声や父親であろう男の声が聞こえた。
それを聴覚の隅で感じながら不動は淡々と目的地へと歩を運ぶ。次第に並んでいた家も徐々に間隔を開け減っていき、不動の周りは閑散としぽつぽつと外灯の光だけが暗闇に浮かぶ。
固いアスファルトを照らす灯りを見上げるとそこには蛾が群がっていて、灯りに触れようと必死にもがき羽をばたつかせていた。

目的の場所には砂埃を被った白い車が外灯の下にひっそりと止められている。
その車に近づくと中から顔見知りの男が出てきた。男は40代くらいの小太りの男で顔にはいつも下品な笑みを浮かべている。
男は不動の腕を引き乗っていた車に不動の体を押し付ける。服が汚れちまう、と背中越しに車体の冷たい温度を感じて一瞬躊躇うが今から始める行為を考えればそんなコト気にするようなことでもないか、そう思い直して不動は大人しく汚れた鉄の塊に体を委ねた。
男は息を荒くしながら履き古したズボンのポケットからくしゃくしゃになった紙幣を数枚取り出し不動に握らせると、性急に不動の口に自分の舌を滑り込ませた。不動が手の中の金をどこにしまおうかと思案しているうちも男は脂ぎった指で不動の顎を固定し好き放題咥内を動き回る。

暫くするとわざと下品な水音をたて男の舌が引き抜かれる。不動が口端から垂れる唾液を腕で拭っていると男が汗で僅かに張り付いたTシャツを捲る。中に手が入り乳首を摘まれるとピクリと不動の体が反応し、それに男は笑みを深くし衣服の下で勃起したものを不動の腹に押し付けた。


その時、カランッと甲高い音が辺りに響いた。笑みを張り付けていた男の顔が一瞬にして強張る。不動が音のした方向にに目を向けると、そこにはヨれたコートを着た男が固い地面に尻餅をついていた。その男の足元にはさっきの音の正体であろう空き缶が転がっている。
驚愕に目を開くコートの男は不動のすぐ前の男に顔を向け、不動、そして握っている金へと視線をやり再度不動の顔を凝視する。
するとコートの男の顔色がみるみる青くなっていき、唇を震わせながら何か呟き始めた。



すまないっ、わっ私が全て悪いんだっ、私は、私はっーーー


不動はそんな男の顔を無言で見つめる。その目には無様に地面に頭を擦り付ける一人の男しか映していなかった。

「…ッ、アァ、うああぁああっ!」

不動の暗澹とした緑を見てコートの男は狂ったように声を上げながら走り去った。


「…今の知り合い?」
残った方の男が尋ねる。
去っていった男がいた場所には黒いカバンが落ちていた。
以前は仕事の書類が詰まっていたカバン。今は何も入っていないそれを不動は見つめる。
空っぽのカバン、持ち主と同じようにそれは空っぽだった。
不動は男の方に向き直って腕を男の首に絡めて答える。

「あんな人知らない」


地面に転がったままのカバンがひっそりと闇に溶けていった。




おわり100901

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