12月24日には良い思い出がない




12月に入ると、温暖化に関係なく毎日毎日寒い日が続いた。俺たちはその寒さと毎日戦い、おまけに下にいるクソババァと毎日戦いながらの生活をしている。なんも変わらない。変わったのは、万事屋にあゆみが加わったという事だけだ。
今日はクリスマス・イヴだというのに、まったく依頼がない。これは珍しいことだった。こういうイベントがある日は、何かとどこもかしこも忙しくて猫の手も借りたい程のはずだ。しかし、今年は一本も電話はきていない。

おかしいとは思うが、万事屋家業をやっている以上これは仕方がない事なのだと割り切っている。今年は、あゆみとゆっくり過ごせという事に違いない。
そう自分を納得させていると、テレビを見ていたあゆみが俺の服をくいっくいっと引っ張りながら俺を呼んだ。俺を呼ぶ時のあゆみは、俺の顔を見て呼ぶのだが今回は俺を見ていなかった。どうにも、テレビに夢中の様だ。



「ぎんたんぎんたん。」

「ん?どうしたあゆみ。」

「あれ、なあに?」



あゆみが指し示す方向に顔を向けると、そこには結野アナがめいいっぱい飾り付けた大きなツリーを背景にニュースをはじめている。あゆみが本当に指しているのは、結野アナではなく大きなツリーだった。
あゆみは、ツリーを知らないのだ。そりゃあ、夢中になるのも無理はない。



「嗚呼、あれはクリスマスツリーって言ってなァ。クリスマスの日にしか飾る事がない木なんだよ。」

「くりすますー?」



初めての単語に、こてんと顔を横にするあゆみ。毎度の事ながら、やっぱり可愛い。超可愛い!



「まず、今日は何日か分かるか?」

「うーん……じゅう、にがつ。にーじゅー……よっか!」

「よく出来ました。」

「えへへっ。」



カレンダーを自力で読めたあゆみに、俺はあゆみの頭を優しく撫でながら褒めた。あゆみは嬉しいのか、本当に嬉しそうに笑うのだ。マジ可愛いな。



「そう、12月24日はクリスマス・イヴって言ってな、誰だっけなァー…誰かの誕生日を祝う日なんだって。…まぁ、表向きの話だけど。」



あゆみには言っても分からない事だらけで、教えるのにもこれは一苦労だと感じた俺は簡単に説明する事にした。つても、これ以上簡単に説明なんぞ出来る訳じゃないがな。



「まっ、今日はお祭りなんだ。とりあえず、今日と明日は楽しい楽しいパーティと言う訳よ。」

「ぎんたんはやらないの?」

「何を?」

「そのぱーちーやらないの?」



キラキラとしたあゆみの純粋な目は、クリスマスパーティをやりたそうな目だった。これってさァ、やらなきゃならないフラグですよねェー。うん、これはやらないって言ったら冬の思い出が一気に年越しと変わらないコタツとみかんとジャンプの三種の神器(冬限定)しかなくなるじゃないか!!
去年のクリスマスは、パーティ自体はやらなかったものの神楽がサンタさんにお願いしたプレゼントだけ用意して終わったのしか覚えがない。しかも、そのプレゼントを買い神楽が用意した靴下に入れるまでに散々な思いをした思い出がある。そのプレゼントは、無事に靴下に入れる事は叶わなかったが。

苦い経験がある俺は、本当は嫌だった。断りたかった。しかし、この純粋な目を見てみろ!断れないだろ!おまけに、俺が大好きなあゆみだろ!!しかも可愛い!
断れる奴がいたら見てみたいよ、俺はっ!



『僕は、サンタさんに何を頼んだのかなぁ?』

『うーんとね、ナンダム!』

『あたしは、バービン人形!』

『俺パソコン!!』



まだ現場のニュースが続いていたのか、結野アナが次々と子どもたちにサンタさんから貰いたいものを聞き出していた。もちろん、ツリーに夢中だったあゆみも同じく釘付けになる訳で。



「さんたさんってなぁに?」



俺は、去年と同じような悲惨な目には会いません様にと願った。

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