「…坂田さん、今何て言いました?」



私は坂田さんが言った言葉が信じられず、思わず聞き返してしまった。



「ん?だから、俺とマフラーをするか焼き芋あーんのどちらかやれば許してあげるって言ったんだけど。」



聞こえなかったかなァ?とニヤニヤしながら、私の顔を見る。坂田さんとマフラーだなんて、くっつき過ぎてまず恥ずかしくて死ぬ。先程の手を繋いで歩いたのだって、恥ずかしさで心臓が壊れそうだったのに。今度は、マフラーを共有だなんて無理な話。すると残る選択肢は、坂田さんに焼き芋を食べさせる行為という選択しか残っていない。しかし、これも恥ずかしいのだが距離を考えると、密着というゼロ距離の状況にはならない為にまだマシかもしれないという考えが浮かびあがってくる。
究極の選択に頭を悩ませている私を他所に、坂田さんはまだかまだかと私を急かす。
これ以上考えても無駄だと思い、私は焼き芋あーんを仕方がなく選択した。私が焼き芋あーんにしますと言ったら、少し残念そうな顔をしたがそれは一瞬だけで楽しみに待っていると言われてしまった。


そして私は、神楽ちゃんと新八くんの存在を忘れ必死に焼き芋の皮を剥き、今度は火傷をしない様によく冷ましながら準備していた。皮を剥きながらも、恥ずかしい状況には変わらない。心臓が普段より早く動きながらも、丁寧に剥く。
すると、坂田さんがあーあと呆れた声を出しながら私の右手を取った。



「うわぁ亜由美、なァに勿体無い事してんだよ。」



そう言って、焼き芋のせいでベトベトになってしまった私の右手の指先をペロペロと舐め取る坂田さん。私は、訳が分からずにただ固まって見てしまった。丁寧に舐め取られ、指先に付いていた焼き芋の欠片がほぼ無くなった。坂田さんが舐めた所の指先が、ぼっと熱くなった。これは、焼き芋の熱さからではない。



「さっきも言っただろ?たかが芋だけど、銀さんの大事な糖分だからって。あー、やっぱ甘くて良いねこりゃァ。」



本当に焼き芋が甘かったらしく、また舌を出しペロリと口のまわりを舐めた。私は、坂田さんの口と自分の右手の指先を交互に見ながら、だんだんと指先だけではなく顔も熱くなっていくのが分かった。そう、坂田さんの舌で舐められたのだ。しかも、丁寧に。まだ恥ずかしくない方を選択したはずなのに、なんだこの破廉恥な行動は。ゼロ距離以上の恥ずかしさだとやっと頭が動き、坂田さんの顔がまともに見れない私。

やはり、坂田さんは全く反省なんてしていなかったのだ。

固まってしまった私を心配しているのか、坂田さんが私の顔を覗き込んだ。その瞬間を私は狙っていたかの様に、焼き芋を持っている左手を素早く動かした。これはもう、ほとんど無意識だった。



「亜由美、どうしふごぁあああ!!!」

「す、少しは反省しろぉおおお!!!」



デジャブだろうが何だろうが、私は坂田さんの口に突っ込んだ。これもあーんですよね、坂田さん。私は、恥ずかしさが抜けずに万事屋の階段を勢い良く駆け上り万事屋に入った。はぁはぁと呼吸が乱れるが、それ以外にも既に心臓が乱れていたので止まる事はなかった。このドキドキは、明らかに知っているものだった。しかし、私は初めから知っていたかもしれない。

好きだから、ここ(万事屋)にいる。
私は、初めから坂田さんに恋をしていた。改めて思う。私は、坂田銀時が好きだと。



自覚してしまった以上、私の行動は先程よりもっとぎこちないものになってしまうんだろうと、先往く未来を考え私はクスリと笑ったのだった。私はこれからなのだ、と。






焼き芋
(ぐすん、何でだろう。甘いのにしょっぱいや。)
((やっぱり馬鹿アルな。/だなぁ。))


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