ようやくさつま芋を、焚き火の中に入れる事が出来た。もちろん、私と新八くんで地味な作業をやった事によって焼き芋になろうとしている。

今の私は、坂田さんの近くにいたくなかったので新八くんに後片付けを頼み、私は火の担当をした。新八くんにまた不思議がられたけれど、坂田さんの近くにいたら墓穴を掘りそうで怖い。一体何が怖いのかも分からずに、私は怖いと思っている。それは誰にも分からないし、自分でさえも分からない。そう、不思議な気持ちなのだ。私には、まだそれが分からないでいる。

私は、十分に燃えている焚き火の中に先ほど準備したさつま芋を入れようとした。すると、さっきまで神楽ちゃんといた坂田さんがこちらに突進してきそうな勢いで来るではありませんか。しかも、凄い形相で。一瞬怯んだ隙に、坂田さんは私の手からさつま芋を分捕った。



「何やってんの、亜由美ちゃん!!!」

「へ?ただ、さつま芋を焚き火の中に入れようとしただけで…。」

「そんな事したら、俺の大事な糖分が炭になっちゃうでしょうがっ!」

「え、入れちゃ駄目なんですか?」



まずさつま芋は焚き火の中に入れるのではなく、焚き火が終わった後から出来る灰の中に入れて十分に蒸すという方法(おき火)だったらしい。確かに焚き火の中に入れてしまったら、いくらホイルに包んでいたとしても焦げた焼き芋になってしまう。最悪は、炭になってしまうかもしれない。坂田さんはこんなの当たり前だと言いながら、私の変わりに焚き火の調子を見ていた。



「…たく、俺がどんだけ焼き芋楽しみにしてるか分かってねェよ。何てったって、久しぶりの糖分よ?糖分。」



と、糖分をやけに強調しながら燃えていない枯葉を火の中へ押し込んだ。その行動を何気なく見ていると、今度は神楽ちゃんが猛突進してきた。よろけながらも踏ん張り、神楽ちゃんを見る。すると、お腹の虫が凄い音で鳴り響いていた。



「亜由美、もうお腹空いたアル。焼き芋早く食べたいネ。」

「神楽ちゃん、これ結構長く待ちそうだよ?」

「何でヨ!オイコラ早く焚き火の中に入れろヨ、天パ。」

「こら神楽、それが人に物を頼む態度ですかァ!だからさァ、焚き火の中に入れたら折角のさつま芋が炭になるのっ。待てないんだったら、大人しく酢昆布でも食べてろよ。」

「酢昆布もうないネ。」



すると、坂田さんは懐に手を入れ赤い長方形の箱を取り出した。それは紛れもない酢昆布だった。神楽ちゃんは目を輝かせ、坂田さんから酢昆布を受け取った。これで少し…いや、ほんの少しだけ持つだろう。なんせ神楽ちゃんの胃袋は、ありとあらゆる食べ物を吸い尽くすブラックホールなのだ。神楽ちゃんの大好物、酢昆布をあげたのでまずは一安心。坂田さんが酢昆布をあげなければ、今頃はきっと神楽ちゃんが無理やりさつま芋を入れて炭と化していただろう。そのくらい、神楽ちゃんはお腹を空かせているという事だ。


焚き火が全部灰に変わり、さつま芋を蒸して出来上がった焼き芋はあれから3時間も後の事だった。その間、坂田さんと私の間にはあまり会話が続かなかった。途中、片づけが終わった新八くんが来てからはいつも通りに戻ったような気がした。しかし、私はあまり会話はしなかった。

空は水色から朱色に変わり始めた時、私たちは灰の処理をしてから焼き芋を頬張った。


はひはひと、幸せそうに焼き芋を食べる神楽ちゃんと新八くん。寒い中何時間も待った身体には、今この焼き芋がよく沁みて美味しいと感じるのだろう。新八くんはともかく、神楽ちゃんはもう5本目に突入している。私はというと、熱い所を冷ましながら綺麗に紫の皮を剥く地味な作業をしていた。猫舌な上に皮等が気になる私は、食べるのが遅かった。焼き芋の皮は、蜜柑の白い部分を剥く原理で気になってしまうのだ。

手がベトベトになりながらも、やっと一口分だけ剥き終わりさぁ食べようと口を開けた瞬間、私の目の前に銀髪天然パーマが視界を埋めた。それは一瞬の出来事でスッと消えると、私が懸命に剥いていた焼き芋の黄色い部分が一口分無くなっていた。隣を見ると、してやったりという顔の坂田さんがいた。口のまわりに焼き芋の欠片を付けながらもぐもぐと食べていた。それも平然と。あ、うん。



「えー何、お前剥いてから食べる派なのォ?ちょっとそれもう一人の俺の方を…あつぁああああ!!!」

「馬鹿アルな。」

「本当にね。」



坂田さんが最後まで何を言っていたかは知らないが、私は無言の怒りを熱々の焼き芋を手に勢いよく坂田さんの口に突っ込んだ。焼き芋の熱さに耐えられず、熱いと叫び涙目になりながら私を見る。その目を見たら、私の中で次々と罪悪感が溢れ出した。



「舌ヒリヒリするんですけど…。」

「それは、坂田さんが悪いんですよ。…でも、本当私も大人気なかったです。」

「んな事言われたってなー、舌を火傷した事実は変わらないしぃー。」

「それは、私が折角丁寧に剥いた焼き芋を食べたからで。」

「舌痛いなァー。」



完全に拗ねた…。
拗ねた坂田さんは最後、てこでも話を聞いてくれない。私はまんまと、坂田さんに乗せらてしまった様だ。何がお望みなのかは全く知らないが、ここは私が折れようと思った。現に、坂田さんの舌は赤くなっていて痛そうだった。



「坂田さん、どうすれば許してくれますか?」



待っていましたとばかりに、そっぽを向いていた顔が私の方向に向き直りニヤリと笑った。この顔は何か良からぬ事を考えているに違いないと思ったのは、私だけではないはずだ。

- 4 -