バイトが終わり、店長たちに挨拶をしながら外に出てきた。すると中と外の温度差があり、自分の吐く息が白く出てくると同時に空に消えていった。ぼーっとそれを眺めていると、ポケットの中に入っている私の携帯がブーブーと震えている。何だろうと携帯を開き見ると、ブーブー震えている原因は万事屋からの電話だった。手馴れた手つきで通話ボタンを押すと、坂田さんではなく新八くんの声が私の耳に届いた。



「何だ、新八くんですか。」

『僕ですが、そんなにがっかりしないで下さいよ。いくら僕でも傷つきますからね、それ!』



そんなにがっかりした声を出した覚えがないのだが、確かに最初に想像したのが坂田さんだったなだけあってついそうなってしまったのかもしれない。少し新八くんのお叱りを受けながらも、しっかりと私に用事を言ってきた。



「あ、そうそう。今日万事屋で焼き芋しますんで、大江戸スーパーでさつま芋買ってきて下さい。」

「え、どうしてですか?」

「大江戸スーパーで、さつま芋が大安売りしているんですよ!」

「そんなの、坂田さんに頼めば良いじゃないですか。」

「二時間前に銀さんに頼んで行ってもらったんですけど、帰りが遅いんですよ。」

「なるほど。」

「ちなみに、銀さん買ってないと思うんで買ってきて下さいね。それと、銀さんも連れて帰って来て下さい。」



“それじゃ。”っと言って電話が切れた。携帯からは、電話が切れた事を無機質にツーッツーッと教えていた。仕方がないので、大江戸スーパーに寄り本当に大安売りをしていたさつま芋を買い物籠にどさどさと入れレジを通る。そして、さつま芋だけがたんまりと入った袋を片手に大江戸スーパーを手にし、多分大江戸マートに向かう。きっと坂田さんは、そこでジャンプの立ち読みをしていると長年の感が疼いた。

…新八くん、君はか弱い女の子にこの重たいさつま芋を買ってくるように頼んだりしたりするから彼女が出来ないんですよ。まぁ、彼の周りの女の子たちは揃いも揃って力強いから仕方がないのかもしれないけれど。神楽ちゃんしかり、お妙さんしかり――…。
自分で言うのはなんだけれど、私は本当に普通の女の子なのだからそこは分かってて欲しかったな。



「……。」



私は、無意識に立ち止まってしまった。私の目の前に、仲良く一つのマフラーを二人でぐるぐる巻きにした男女が通り過ぎたからだ。マフラーを一つにして使っているので、かなり目立つカップルだった。


いいなぁ…。


えっ、今何で良いなって思ったんだろう…?あのマフラーが暖かそうに見えただけだよね。うん。
私はそそくさとその場を離れて、坂田さんを探した。



「あっ、坂田さん。」



やはり大江戸マートで立ち読みをしていた坂田さん。ジャンプに夢中で私に気づかない坂田さんに、コンコンとガラスの壁を叩く。すると、顔を上げた坂田さん。ちろっと私の持っているビニール袋を見た。続けて、ちらりと動いた目線と上下に動いた人差し指で“ちょっと待ってろ。”と言われたのが何となく理解できたので待つことにした。
ジャンプを元の場所に戻し、大江戸マートの入り口から出てきた坂田さん。



「あー、寒ィなァ。こりゃ、秋すっ飛ばして冬が来たな。」



そう言って坂田さんは、身体をぶるりと振るわせ分厚いちゃんちゃんこの袖にぶら下げた長いマフラーと手袋を取り出した。それは、随分と暖かそうだ。取り出したマフラーと手袋を装着しだす様をじっと眺めて“寒いです。”と呟くと。坂田さんがニヤニヤと笑っていた。

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