しんせんぐみ観察




旦那の怒りの鉄鎚と怒声で、俺と土方さんが黙った。もう近所迷惑だとか本当何しに来たんだとブツブツ文句を言いながら、俺たちを中へ入れてくれた。旦那の言った通り、まだあゆみは寝ているのか居間にもいなかった。チャイナも同じく寝ているようだ。



「で、本当何?何が目的だった訳よ。」

「最初に言った通り、あゆみに会いに来たんでさァ。」



そう素直に旦那に言うと、ため息をつかれた。まぁ、確かに昨日の今日で来たのだから呆れるのも無理はないだろう。しかし、なぜか土方さんは少し頬を染めながらまだこんな事を俺の隣で言った。



「俺は、総悟の見張りとしてだな。」

「はいはい、あゆみに会いに来たんですね。」



そんな土方さんの態度にも呆れているのか、投げやりに返事しながら用件をまとめた。流石旦那、物分りが良いでさァ。つーか、土方さんその頬を染めるのは止めて下せェ。ただキモイだけでさァ。



「おい、どこ行くんだ?」



旦那が急に立ち、どこかに行きそうな雰囲気があった。その雰囲気を感じ取ったのは俺だけではないらしく、俺より先に土方さんが旦那に食いついた。土方さんの質問に、本当に面倒臭そうな嫌な顔をしながら口を開いた。



「あ?あゆみの所に決まってんだろー。会わなくても良いなら帰っても良いんだよ、お二人さん?」



こっちの返答なんて知っているくせに、旦那は厭らしくもニタリとムカつく顔をしながら寝室の方へ足を向けた。俺と土方さんは言わずもがな、旦那の後を付いて行った。

寝室に入ると、布団の中に小さな膨らみが見えた。その布団に近づくと、旦那がもう近づくなとかほら、見たんだからさっさと帰れと後ろで五月蝿く言っている。もちろん、今の俺たちは旦那の静止なんて聞かない。聞くはずもないのだ。

そっと足音を立てずに近づくと、屯所生活で寝てた時とあまり変わらなかった。しかし、顔だけはどことなく違っていた。



「おー、いつもの寝顔とはやっぱり違うもんですねィ。」

「え、それどういう事?総一郎くん。」



後ろにいた旦那が、ずずいと俺の近くに来た。と言う事は、あゆみから聞いていないという事だろう。まぁ、こんな事あゆみが旦那に言うはずもないのは知っての上で呟いたんだけど。こうも反応が良いと、S心が疼くってもんでさァ。



「俺、あゆみからなんも聞いてないんですけどォ!」

「そーですかィ。屯所生活では、俺と一緒に寝てやした。」



そう言うと、驚いた顔と怒った顔が混ざった様な顔で俺に迫ってきた。ちょ、旦那。俺を揺さぶるのは止めて下せェ!
あああ、Sは打たれ弱いんでさァ!!



「あ、そういやー。大串くんとか他の奴らと一緒に寝てないよね?」

「げほっ…。旦那ァ、さっきのは酷いですぜェ。」

「で、どうなの。」

「…それはないですぜェ。いや、最初は近藤さんか土方さんの所で寝るはずだったんですがねィ。」



続けざまに、近藤さんじゃイビキが五月蝿くて寝られないとか、土方さんだと初日の出会いで怖がられたとか、結局俺と一緒に寝る事になった経緯を旦那に説明した。すると、旦那はふーんと言いながら死んだ魚の様な目をしながら俺を見た。しかし、標的にされたのは俺ではなく土方さんだった。俺たちが見ていない隙に、土方さんが何かやらかしたらしい。



「ちょっとちょっとォォォ!何、あゆみに手ェ出してんのォ!?」

「オイ!そんな誤解招く様な言い方するんじゃねェ!」

「現に手ェ握ってんじゃねェか!」

「これは、あゆみが放してくれないだけだ!」



この二人が喧嘩をすると騒がしいのだが、この会話は小声で繰り出されている。傍から見ると何とも滑稽だ。これだから、この二人は似た者同士と言われるんだ。ほらもう、最初は小声だったくせにいつもの通り馬鹿でかい声を出しながら言い合いになっている。俺は耳を塞ぎながらあゆみの様子を見ていると、もぞっと布団が動いた。あーあ、あゆみ起きちまいましたぜ旦那。まぁ、別に起きても良い時間帯なんですがね。


おはよう、可愛いお姫さん。

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