マリオネットは恋をした




私は、誰かに作られた人形。人間に近い心を持った、


マリオネット。



私は、坂田銀時様にゴミ置き場から発見し拾われた。なんでも、ゴミ置き場に珍しい宝が眠っているという噂を聞きつけたからだとか。
だから私は、万事屋の社員兼お登勢様が経営されているスナックでたま様と一緒に働いているのです。


しかし、私は最近どうも調子が悪いようです。



「坂田様を見ると、バキバキするんです。」

「いや、そこはドキドキですよね。バキバキって何ですか。」

「私の核である人口心臓が早く動く音です。」

「どんだけ激しいんだよ!」

「黙るネ新八!ドキドキでもバキバキでも同じアル。これは……」



激しいツッコミをした志村様。志村様が五月蝿かったのか、今まで真剣に話を聞いていた神楽様が、私にずずいと顔を近づけて一言。



「恋ネ。」



その言葉を処理しようとしても、何も出てこなかった。こんな事今までなかったのにどうしてなのだろうか?この人工心臓の妙な動きといい、神楽様のこいという言葉といい、分からない事だらけ。



「亜由美さん、恋ですよ。」



志村様に再度言われても、曖昧な返事しか出来なかった。やはり私は、ゴミ捨て場にあったぐらいなのだからどこか故障しているのかもしれない。



「亜由美、本当に知らないアルか?」

「はい、知りません。」



今度はきっぱりと神楽様に言うと、少し悲しそうな顔になった。嗚呼、そんな顔をしないで下さい。神楽様は何も悪くはないのですから。すると、玄関付近を掃除していたたま様が私たちの輪に入ってきたのです。



「では、私が説明しましょう。」

「たま様…。」

「鯉とは、コイ目コイ科の淡水魚。全長約60センチ。体は長い筒形で背から腹へかけての幅が広く、長短二対の口ひげがある。野生種は、背部が蒼褐色、側面から腹部が黄褐色で光沢がある。平野部の河川・湖沼にすむ。食用・観賞用に広く飼養され、ドイツゴイ・ニシキゴイ・ヒゴイなど多くの品種がある。」

「嗚呼、そちらの“こい”でしたか。」



たま様は、何でも知っておりました。流石、私の先輩です。しかし、志村様はたま様のご説明に不服のご様子。



「オイコラ、誰が魚の鯉を説明しろ言ったよ。しかも、そっちの鯉は知ってるんかいっ!」

「あら、違うのですか?」

「まったくもって違いますよ!たまさんも何亜由美さんに教えてるんですか!」

「テヘッ。」

「意味が分かりません。」

「たまも茶目っ気溢れる女性になったアル。」

「まぁ、確かに人間らしくはなったけど…って、それとこれとは話が違うでしょ。」



たま様は、私よりは人間らしいと思う。それは、たま様の周りがたま様を人間の様に扱っているからだ。主にお登勢様が、人間らしくさせているけれど。周りも釣られてなのか、ただの優しさからなのかお登勢様と同様だった。
人間らしい、か…

私はその言葉に心が揺れ動いた。マリオネットには心なんてないのに、動き揺らいだのだ。私はそれがおかしくて、クスリと小さく笑った。しかし、私が先程言った人口心臓が激しく動くのもまたおかしい事なのだ。

志村様と神楽様のやり取りを眺めていると、スナックお登勢の入り口にゆらりと人影が映った。何故かまた、人工心臓がバキバキしている。



「固いアルなぁ〜新八は。これだから眼鏡は仕方がないアル。」

「眼鏡のせいにするなァアア!!!」



ガラガラ…


「おーいお前ェら、ちったぁ静かにしねェか。外まで丸聞こえだぞー。」

「あ、銀ちゃんお帰りね!」

「お帰りなさい、銀さん。」

「おう。」



入って来たのは、坂田様だった。



「銀時様、お帰りなさいませ。ご注文はありませんか?」

「よっ!じゃー、宇治銀時丼で。」

「畏まりました。」



坂田様の注文を受けたたま様は、宇治銀時丼を作るために奥へ行ってしまった。席に着いた坂田様は、私の方へ身体を向けました。



「……亜由美。」

「!」

「亜由美からはねェの?」



坂田様が私の名前を呼ぶとは思ってもいなかったので、驚くぐらいしか反応ができなかった私は一瞬固まってしまった。驚く私に構わずに坂田様が聞いたのは、“私からないのか?”だった。“ない”とは一体何の事だかさっぱり分からないので、黙って首をかしげてしまいました。



「……?」

「ちょ、それ銀さん悲し過ぎるからァ!」



“ありえない!”とでも言いそうな程、坂田様は私に叫びました。ご主人様の事が分からないなんて、坂田様に仕えている身として一生の不覚です。口には出さず、ではどうしたら良いか分からないでいると、志村様と神楽様が私の両脇に来ました。そして、耳元でヒントをくれました。



コソ コソ

「銀ちゃん、亜由美にお帰り言って欲しいアルヨ。」

「えっ…。」

「意外と照れ屋ですからね、銀さんは。言ってあげないと、ますます機嫌損ねちゃいますよ。」

「っ!」



そう言えば、坂田様が帰って来た時に挨拶をしていなかったのです。それは、あのバキバキと高鳴る人口心臓に気を取られていた時だったからです。思い出せば思い出す程、私は坂田様に仕える身としてこれで良いのだろうか?と不安になりますが今はそれどころではない事を、坂田様の視線で思考回路がシャットダウンしてしまいました。
シャットダウンしたおかげで何を言えば言いか分からず混乱状態でしたが、仮想メモリに無事残っていました。

しかし、言葉が震えてしまうのはなぜでしょうか。



「あっ、あの…坂田様っ、その。」

「…何、亜由美ちゃん?」

「お、お帰りなさい、ませっ、坂田様っ!!」

「おぅ、ただいま!」



今度はちゃんと、ドキドキとなりました。

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