ちびっこ食べる




「みなしゃん、おはようごじゃいます!」

「「「おはよう、あゆみちゃん!!」」」

「……。」



まだ日は浅いのに、あゆみがしっかりと大きな声で挨拶すると隊士たちもあゆみに習い、あゆみに挨拶を必ず返すようになった。
これは俺でも凄い進歩だと思う。


挨拶した後は、俺の指定席に向かう。あゆみは俺の隣だ。向かい合わせになるのはもちろん、近藤さんと土方さんだ。必然的に土方さんとあゆみが向かい合わせになる。
本当なら逆になるべきだが、如何せん土方と例の犬の餌を見ていると吐き気がする。
あ、間違えた土方さんだ。



「いさたん、としたん。おはようごじゃいます!」

「あゆみちゃん、おはよう!」

「はよ、あゆみ。」



先程も挨拶したと言うのに、近藤さんと土方の野郎にもしっかり挨拶をした。
あ、土方さんだった。…まぁいいか。
俺は近藤さん以上の人たちには、会釈程度でいつも済ませている。



「としたん、きょうはなにをたべてるの?」

「嗚呼、今日は肉野菜炒め(土方スペシャル)定食だ。」

「おいししょーね!」

「ぉ、おう。」



土方さんが照れている。…キめェ。おっと、思わず心の声が出る所だった。
だが、これは誰もが明らかに思う事であり決して俺は悪くは無い。悪いのはそう思わせる土方が悪い。あ、土方さんだった。

しかし、こう5日前と比較してみると凄い変わりっぷりだ。あれだけ否定していたくせに、あゆみ本人目の前にしてコロリ、だ。まさか鬼副長と言われている人が、俺と同じくあゆみにこうも簡単に心奪われてしまうのは情けない。情けない話だが、これは変える事の出来ない事実なのだから仕方がないのかもしれない。っと、近藤さんは2日前に言っていた気がする。



「あゆみも食うか?」

「くれりゅのー?」

「ぉう。」

「ありがとう、としたん!」


(キュキュキュン!)



あゆみの笑顔にKO…っと言いたい所だが、如何せん、俺が思想に浸っている間に土方の野郎があゆみを犬の餌の餌食にされそうになっているではないか。隣の近藤さんが、土方の急な行動に戸惑いを隠せないでいる。冷や汗が駄々漏れですぜェ、近藤さん。
まぁ、俺も内心焦ってるがねィ。



「あゆみ、そんな物(犬の餌)を食うなんて間違っていやすぜィ。あゆみには、こっちがありあしょう?」

「としたんのたべたい。」



いや、そんな物食ったらあゆみの味覚が破壊されるからァアア!とは皆言えずに、あゆみが食べて一言不味いと言ってくれれば事は済むはずなんだと思うばかりだった。周りは耳を立てて様子を伺い、近藤さんと俺はあゆみの味覚が無事に済む様に願うだけだった。

そして、あゆみの口へと土方が箸で運ぶ。
もぐもぐと、マヨネーズがたっぷりかかった肉野菜炒めを食べるあゆみ。土方は、いつも瞳孔が開き気味の瞳の中にキラキラとした眼差しをあゆみに向けていた。思わず殴りたい衝動に駆られたが、俺はあゆみが心配だった為抑えた。

ごくんと食べ終わったあゆみが、土方に焦点を合わせる。そして、にこっと笑った。



「おいしかったぁ!」

「うめェか!じゃ今度、土方スペシャル丼食わせてやるからな!!」



余程嬉しいのか、土方はあゆみに犬の餌丼を食わせる約束をした。いや、そんな事よりあゆみの味覚が破壊されてしまったと言っていいのだろうか。



「あー、…あゆみちゃん?そのーっ、大丈夫なのかい?」

「?」

「ほら、その。…味って言うのかな?どうなの??」

「?、おいしいよ!」

「あははっ!そうか!!」



思いきってあゆみに聞いた近藤さんは、あゆみの「美味しい」と言う言葉に先程以上に同様を隠せないでいる。あ、土方が近藤さんにほら見ろと言わんばかりの眼差しでいる。いや、あれは勝ち誇った笑みかもしれない。
嗚呼ムカつく。


きっとあゆみには、犬の餌の味に耐えられる特別な味覚を持ち合わせているに違いないという事にしておこうではないかと、この場の食堂に居た一同はそう思ったに違いないだろう。

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