図書館で告白を




カリカリ… カリカリ…



シャーペンから出る音が、無機質に図書館内に響き渡る。
図書館は、夏には取って置きの勉強場所だった。机は広いし、静かに落ち着いて勉強が出来る。学校や自室とは大違いだった。もう一つ違うとすれば、電気代の関係であまりガンガンつけられないものがある。それは、クーラーだった。

しかし、今年の夏は非常に暑いらしい。クーラーをつけていても、なかなか二人の暑さは軽減されなかった。
男女一人ひとり向かい合わせで座っている二人は、黙々と教科書とノートを右往左往しながら勉強していた。先程も説明したが、二人の暑さは軽減されていない。女がシャーペンを置き、向かいの男を眺めながら静かに言う。



「坂田坂田坂田、ねぇ、坂田。」

「うるせェーよ、名字ばっか連呼すんじゃねェ!暑苦しいわっ!!」

「暑いからこうなった。」

「俺だって暑いっつーの。…手ェ止まってるぞ。」



静かに女に対して騒いだ男、坂田銀時。坂田は、女の相手をしながらまた黙々と勉強の続きをした。坂田の話を聞いていないのか、女、安藤亜由美は黙々と勉強する坂田の姿をぼーっと眺めていた。クーラーは効いていても、彼女の頭の中までは涼しくなっていないらしい。

そろそろ安藤の視線に絶えられなくなったのか、坂田はシャーペンをノートの上に置いた。



「おーい、亜由美ちゃーん。室内熱中症にかかりましたかコノヤロー。」



安藤の目の前に手を振りながら、安藤の意識を戻そうとした坂田。だが、なかなか安藤の意識は戻ってこなかった。何か考えているのだろうか。坂田は、軽いため息をつきながら視線を教科書に戻した。そして、ノートに置きっぱなしのシャーペンを手に取り続きをしようと意気込んだその時だった。安藤が口を開いた。



「なんかね、坂田。」

「…んだよ。」



安藤が坂田を呼んだ。意気込みを台無しにされた坂田は、仕方なしにシャーペンをノートの上に置き戻し安藤を見た。坂田の返事を聞いた安藤は、意味の分からない事を口にした。



「坂田ばっかり口にしていたら、坂田に愛着わいちゃった。」

「はァ?」



唐突過ぎて、坂田もどうしたらいいか分からなかった。そして、続けて坂田の死んだ魚のような眼を見て安藤は言う。



「私、坂田が好き。」



この言葉に、坂田は全身をビクッとさせた。それは、前から安藤亜由美の事が好きだから。この言葉を、坂田はどう捉えたら良いか又分からなかった。



「坂田と言う名字も好き、だけど…。」

「…だけど?」



その続きを早く知りたい。ゴクリと、坂田は唾を飲んだ。
緊張が走っている坂田に対し、安藤は頬を少し赤く染めた。坂田は、暑いから別段気にしていなかった。次の言葉を聞くまでは。



「坂田銀時と言う人物も好き、だったりする。」

「え。」



突然の事で、坂田は腑抜けた声を出した。その声は、意外と図書館内を響き渡らせたかの様な気持ちにさせられた。お陰で少し恥ずかしい。

でも、もっと恥ずかしいのはお互い様のようだった。



「…今この状況で言う台詞ですかコノヤロー。」



坂田は嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、情けない声で安藤に訴えた。安藤は、少し顔を俯きながら静かに出来る限り数時間前の声で坂田に言った。



「……暑いね。」

「嗚呼猛烈にあちィーな。」

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