癖 私は、通帳と家計簿に睨めっこしていた。いや、睨んでいると思って良いかもしれない。どちらの数字を見ても、プラスよりマイナスの方が多いのだから。ため息しか出ない。 「はぁ〜っ。」 「……。」 「…はぁ〜あっ。」 「……。」 「はぁ〜ああー。」 「んだよさっきっから、はぁーはぁ〜はぁーはぁ〜。ラマーズ法ですかァコノヤロー。」 「こんな赤字じゃ産気なんて起きません。」 「え、ここの所結構良い仕事してたじゃん。」 銀ちゃんが言っている良い仕事は、先月の話であって今月を乗りきるお金なんて今の所ない。 「いつの時代ですか。もうとっくの昔に消えちゃいました。」 そう言うと、銀ちゃんはソファーに横になりながら読んでいたジャンプを勢いよく起き上がりながら机に置いて私と向かい合わせになった。その目は何でしょうか、銀ちゃん。 「マジか。」 「マジです。」 「本気と書いて。」 「マジと読む。」 こんな下らない事はいらないから、仕事が欲しい。また更に、私はため息をついた。銀ちゃんも、私の後を追う様にため息をついた。 そう言えば、こんな話あったよね。 「ため息つくと幸せ逃げるって話知ってる?」 「知ってるけど、それは女だけだ。俺は逆に幸せを持ってくる。」 銀ちゃんは、良いだろーっと言ってソファーに深く座り直した。 「え、何それズルイ。銀ちゃんのクセに。」 「ちょ。亜由美ちゃーん、それ酷くなぁい?」 「だってズルイじゃない。じゃ、どうすれば幸せ逃げずに済むの?」 こんなの不公平だ!男女不平等だ!差別だ! 「そりゃーアレだ。逆に吸い込むんだよ。」 「吸い込む?」 「そう。吸い込んで、逃げた幸せを戻すんだ。…すううううっ!!!」 銀ちゃんが勢いよく吸い込んでいるので、私も真似して勢いよく吸い込んだ。 「すううううっっ、ゲホッ!!!」 「亜由美大丈夫かっ!?」 咳き込んだ私を見て、銀ちゃんは慌てて私の方に来て背中を摩ってくれた。 「おもいっ、きりゴホッ吸ったっゲホッッらっ、変なゴホッ風にゴホッゴホッ唾液入っゲホッったぁっっ。」 「オイオイ、大丈夫かよ本当に。」 咳は止まらないは、喉は変な風に痛いは、何だか踏んだり蹴ったりだ。 やっと落ち着いて、ふぅっと軽いため息をした。隣には銀ちゃんがいて、何故か抱きしめられている。 私はそんな中、ふと思った。 「自分で吐き出した幸せは、自分では吸い戻せないって言う事が分かった。」 「どんな教訓だよそれ。」 つまり、ため息が癖になっちゃったって事。 |