年越ソバ




「はい、出来たよ年越蕎麦!」



亜由美の一言で、バラバラに行動していた他3人と1匹がぞろぞろと居間へ集まってきた。居間に入ると、亜由美が準備した今年最後をシメ飾る食べ物が置かれていた。



「ありがとうございます、亜由美さん。やっぱり、これを見ると今年最後って気分になりますね!」

「だよねぇ!」

「亜由美!私早く蕎麦食べたいアル!!」



新八の一言に意見があった亜由美は、嬉しそうに返事をする。その会話に痺れを切らしてしまったのが、神楽だった。神楽の目の前には、作るのが大変だったであろうと感じる亜由美特製巨大年越蕎麦が置かれていた。神楽の胃は、底なしの胃袋なのでこれぐらいが丁度良いのだ。それを目の前にしている神楽は、待ちきれないらしい。

分かったと亜由美は言い、全員準備が出来るといただきますと同時に食事が開始された。一番にがっついたのは神楽。そんな神楽は、口をハムスターの様に両頬を蕎麦で膨らませて食べながら、お椀の中に入っている蕎麦をジッと見つめている。何を思ったのか、口の中にある蕎麦が無くなった後考えていた事を口にした。



「ねぇ銀ちゃん。」

「あ?」

「何で、毎年毎年最後の日のシメは蕎麦ネ。何か意味でもあるのカ?」



神楽は、何故蕎麦を食べるのか疑問に思ったらしい。いきなりの質問なので、銀時はたじろぐ。神楽たちよりウン十年先長く生きている銀時だが知らないものは知らないので、一番物知りな新八にバトンタッチを強制的にさせた。



「嗚呼、一般的に言うとなァ何だったっけ新八くん!」

「銀さん…。知らないなら知らないって言って下さいよ。」



そんな銀時に呆れる新八だが、仕方がないので神楽に説明する新八。



「一般的な意味ではね、“細く長く達者に暮らせることを願う”って言うのが広く伝われているんだって。」

「そんな感じの聞いた事あるー!」



亜由美も記憶が薄れていたのか、新八の説明で思い出したらしく蕎麦の話題は終わろうとしていた。しかし、神楽は終わらせる気がないのか。はたまた、納得ができないのかはよく分からないが、場を凍らせる一言を出したのだ。



「“縁が切れる”じゃないあるカ。」

「神楽ちゃん、何だかそれ間違ってるような…。」

「縁起の良いものが、一気に縁起が悪くなったよ。」

「確実に不幸呼んでますね。」



神楽の凍らせる一言に、皆それぞれ不満をぶちかます。確かにこれは、縁起が悪い。
そこで銀時が、何かに気づく。



「オイ神楽、それ“縁”じゃなくて“蕎麦”じゃないのか。」

「そんな気もするネ。」



もうどうでも良くなったのか、年越蕎麦を食べる事に集中しだした神楽。そんな神楽の返しに、ずっこける銀時。そんな銀時を余所に、銀時のヒントで新八は記憶を掘っていた。



「あ、思い出しましたよ。“蕎麦が切れやすい事から、一年間の苦労を切り落とす”って言うのありましたよ。」



上手く記憶を掘れた新八は、スッキリした顔で言った。銀時もその意味を思い出したのか頷く。その場にいた全員が頷いた。



「おお!それだよ、それ!流石新八くん!!」

「それも何となく聞いた事あるよ!」

「亜由美、さっきからそればかっかアル。本当に聞いた事あるカ?」

「酷いなぁ、聞いた事あるよー!」

「じゃ、“縁”じゃなくて“蕎麦”ですね。」

「銀ちゃん、天パなのに良く知ってたアルな。」

「天パは余計だっ!」



笑いを誘う会話は、いつもの万事屋の雰囲気になっていった。年越蕎麦も全員食べ終わり、さぁ新しい明日を迎えようじゃないかという空気の中で銀時が忘れた様にぼそっと言った。



「とりあえず、みんなと“末永く、傍にいたいから”じゃねェーの?」



今年最後のシメが、笑顔になったのは言うまでもない。

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