聖夜




「やっぱり、クリスマスって夜が一番綺麗よね!」



キラキラと街中がネオンに包まれた景色を背に、亜由美は沢山飾り付けられた大きなクリスマスツリーの下でそう言った。確かに綺麗だと思い、亜由美に“そうだな”と同意すると何故か文句が出た。



「もう!こういう時は、“このクリスマスのネオンよりもお前が一番綺麗だよ”とか言えないのかなぁー?」



いや、それ臭い程にもあるだろうが!
んだよ、俺に言えってか!俺に!俺がそんな事を言う男だと思ってんのかねェ亜由美ちゃんは。



「はあ?亜由美、それ俺に言って欲しいのか?」

「ううん。似合わないから良いよ。」



ズザー。

思わずスラインディングしそうな発言。に、似合わないってなァ。これでも亜由美の彼氏さんですよー俺は。何、何なの。新手のイジメなの?ん?
何だか俺の彼女、冷たいんですけどォォォ!!
それでも、傷ついた風に見せない様に必死になる俺がいる。意地張ってるのは何処のどいつだってェーの。



「何だそりゃ。俺何もしてないのに、酷い言われようだな。」

「…むぅ。本当はお昼からデートの約束だったのに、呑気に夕方まで寝てた銀ちゃんが悪いんだから。」



嗚呼、それは今年一番の失態だったよ。でもな、それには理由があるんだが…。まぁ、こんな情けない理由を言ったって俺が悪いのだから仕方がない。別に呑気に寝ていた訳ではないが、寝る前はもうふらふらで瞼なんか一回閉じたら二度と開かないんじゃないかっていうくらいヤバイ状態だったんだ。そんなヤバイ状態でデートなんて出来るはずもなく、俺は睡眠を充分に取って夜のデートにしたのだった。
夕方にも謝ったのだが、まだ亜由美はご立腹だったらしい。そりゃーそうだ。俺と同じく、凄く楽しみにしていたという事を亜由美の友達の妙と神楽から聞いている。だから、もう一度俺は謝った。



「それは悪かったって。」



そっと亜由美を抱き寄せ、まるで赤ん坊を宥めさせる様に背中をポンポンと優しくリズムを取りながら謝る。しばらく沈黙が続き、何をしたら亜由美が元気になるかどうかを考えていた。考えるが、最終手段にあたるアレしかない。しかし、アレは良い雰囲気になった所で渡したいものだったが俺には無理みたいだ。

手をポケットに入れ、ごそっとポケットの中を探すとアレが見つかった。それを掴んで出し、亜由美の目の前に差し出す。



「…銀ちゃん、これ。」



亜由美に差し出したのは、エンゲージリングだ。
それをジッと見つめ、目が丸くなり目が落ちそうになる程食い入る様に見ていた。俺はそれを買う為に、俺の時間をアルバイトにそそいだ。一番安いリングしか買えなかったが、大学生にしては頑張った方だと褒めて欲しいとは思うが亜由美が気に入るかどうかが問題だ。



「銀ちゃん…ありがとう。私、大切にする!」

「嗚呼。今の俺じゃ安物しか手に入れられねェーけど、これは予約って事で良いですか?未来の花嫁さん。」

「…うん、ひっくっ…うんっ。……ありが、とぉ、う。」



亜由美は、嬉し涙を零しながら幸せそうに“ありがとう”と言って笑ったのだ。彼氏にとって、こんな幸せはないだろうと思う。今年のクリスマスは、俺にとって大成功を収められたのだった。

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