お爺ちゃんは新しい人生を始めた



公園にいた祥太くんに色んな話しをした。
自分が死んだこと、智光は俺の孫だということ、成仏した後は花子を可愛がってほしいということ。
不安気な表情を浮かべながらも祥太くんは最後まで俺の話を聞いてくれた。

そして次の日の放課後、祥太くんは智光に告白をした。
告白は無事成功し、俺の身体は徐々に透けていった。

2人の幸せを願いながら、俺は天へと向かった。







あの日、智光がクラスの女子と歩いている姿を見た。
心の底から『お似合いだな』とそう思った。
きっと智光は可愛い女の子と付き合って、結婚して、子どもができて、そして幸せな未来を迎えるんだろうなと思った。
だけどそんな未来に俺は邪魔だった。

友達である智光の事を好きになり、諦めようと思っても諦めきれず、離れようとしても、智光の隣が居心地が良すぎて離れられない。

雨がポツポツと降る中、家の近くの公園で雨宿りをしながら、この先の事を1人で考えていた。
その時突然「何かお困りですかな?」と70代ぐらいのお爺さんに声をかけられた。
そして「一緒に話をしよう」と言われた。
お爺さんを怪しみながらも、俺はその人が悪い人のようには思えず、無意識に頷いていた。




河口のお爺さんはいつも笑顔だった。
その中でも自分の子どもの話や孫の話をする時の河口のお爺さんの笑顔はとても良い笑顔で、俺はその笑顔が1番好きだった。
花子と戯れる河口のお爺さんは本当に無邪気で、たまに自分より年下なんじゃないかとも思えた。
だけど味見と称してつまみ食いをする俺を叱る姿はまるで親のようで、しかし結局は甘やかす河口のお爺さんに、「甘いなぁ」と思いながらも俺の心の中はポカポカしていった。

俺はいつからか、河口のお爺さんが花子と共に散歩道である公園へ来るのが楽しみになっていた。
『今日はどんな話をしてくれるんだろう。』
『今日はどんな料理を教えてくれるんだろう。』
そんな風に考えていたら、花子の吠える声と「こんにちは、祥太くん」という声が聞こえた。
けれど振り向いた先には、花子と、見知らぬ男の人が立っていた。
だけど何故か俺はその人を見た瞬間、心がジンワリと温かくなった。

その人は河口のお爺さんだった。
河口のお爺さんは、色んな話しをしてくれた。
自分が死んでしまったこと、智光は河口のお爺さんの孫だということ、花子を俺に可愛がってほしいということ。
黙って最後まで聞いたが、本当は大声で叫びたかった。
『なんで小学生の身代わりになんかなったの』
『なんで死んじゃったの』
なんでなんでとそればかりが頭に浮かび、泣きたくて仕方なかった。

河口のお爺さんがいなくなったら俺はどうやって生きていけばいいの。
優しすぎる河口のお爺さんに俺は何も言えず、だけど応援してくれたお爺さんのためにも、俺は智光に告白をした。
その日から、河口のお爺さんはもう俺の前には現れなくなった。

本当はもう、別に俺は智光の事が好きじゃなかった。
付き合えたが直ぐに智光と別れ、また俺達は友達に戻った。


河口のお爺さんがいなくなってから毎日がつまらないものになった。
何も楽しくない。
河口のお爺さんとの毎日はあんなに楽しく、思い出の中の日々はキラキラと輝いていた。
その時やっと気付いた。
俺は河口のお爺さんの事が好きだったんだと。
だけど気付いた時にはもういない。
死にたかった。実際死のうとも思った。
そうすれば河口のお爺さんに会えると思ったから。
けれど死のうとした時、いつも河口のお爺さんが頭に浮かび「祥太くん、ダメだ」と言った。
妄想の中でも河口のお爺さんは優しく、そして厳しかった。
俺は河口のお爺さんに怒られたくなくて、死ぬことはやめた。
だけどつまらない毎日は今も続き、俺は死んだように生きていた。

河口のお爺さんのお願いでもあった花子は数年前に老衰し、河口のお爺さんを繋ぐものはもう何も無くなってしまった。


十数年経った今でも、足は勝手に公園へと向かってしまう。
もうどれだけ待っても河口のお爺さんは来ないと頭ではわかっている。
だけどそれでも向かってしまうのは、俺が今も諦めきれていないから。
また昔みたいに「何かお困りですかな?」と河口のお爺さんが声をかけてくれるのを待っている…


「ねぇ、お兄さん。俺とお話ししませんか?」
どこか聞いたことあるセリフに勢いよく顔を上げると、小学生から中学生になったばかりの男の子がそこに立っていた。

ああ、帰ってきてくれたんだ…河口のお爺さん……

男の子の手を引っ張り、家へと連れて帰った。
そして囲うようにギュッと抱き締めた。
もう離さない。もう死なせない。

「ねぇ、俺は河口のお爺さんがいなきゃダメだったみたいです。好き…好きです。もう何処にも行かないでください…俺を、置いていかないでください…」
男の子は優しく俺の頭を撫でてくれた。








長かった人生は今思えばあっという間だった。
それなのに俺の人生は、また直ぐに始まってしまった。

俺は人間として、再び生を受けた。





「じいちゃーん!久しぶり!!」
「智光か。元気にしていたか?」
「元気だよ。じいちゃんこそ最近どお?」
「元気にやっている。受験もなんとか志望校に受かった」
そっかそっかと言いながら抱き締めてくる智光の頭を撫でると、さらにギュッと抱き着かれた。

俺は長男の娘である沙苗(さなえ)の子どもとしてまたこの世に生を受けた。
長男がお爺ちゃんという複雑な関係だが、みんなは俺だとわかっていないので、純粋に俺は新しい人生を楽しんでいた。
だけど智光だけは、赤ん坊の俺を見て直ぐに俺だと気付いた。
そしてことあるごとに俺へと会いに来て、智光自身の事や祥太くんのことを話してくれた。
俺が成仏してから祥太くんは落ち込み、智光とも直ぐに別れてしまったらしい。

何度が祥太くんは自殺をしようとしていたと聞いた時は、「命を粗末にするな」と怒りに行こうと思ったが、「まぁまぁじいちゃん落ち着いて」と智光に止められた。
そして「今はまだダメだけど、大きくなったら祥太の所へ行ってあげて」とお願いされた。



智光にさよならを告げ、公園へと俺は向かった。
大人になった祥太くんは、相変わらずいつもと同じ場所にいた。
「ねぇ、お兄さん。俺とお話ししませんか?」






補足

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