お爺ちゃんは愛されていた



公園のベンチに座る祥太くんを見付け、花子に目で合図を送った。
わかってくれたのか、小さな声で「わん…」と吠えた花子のリードを近くの手すりへと繋げた。
携帯を弄る祥太くんの元へとソロリソロリと近付き、祥太くんの目を覆った。

「だーれだ」
「?…」
何も声を発さない祥太くんを不思議に思い、手を除けて顔を見てみると、俺と目があった祥太くんは大きく目を見開いていた。

「どうしたんだい?祥太くん?」
「誰…ですか?」
ああそっか若い頃の姿になっていたんだと思い出し、
「俺だよ、河口のお爺ちゃん。」と言うと、理解していないのか戸惑った顔をしていた。






「…って訳で、祥太くんの事が気になって幽霊になってしまったらしい。
だから祥太くんが好きな人に告白をすれば、俺は成仏できると思うんだ」
話を聞き終えた祥太くんは気まずそうな顔をし、ゆっくりと話し始めた。

「俺、もう智光の事は好きじゃないんです…」
「え?」
「今でも好きですけど、それは友達という意味で、だいぶ前からもう智光に対して、恋愛感情は抱いてないんですよ」
諦められたって言うより、新しく好きな人が出来たんで、自然と智光の事はどうでもよくなったんです。

驚きながらも、祥太くんから発せられる言葉を1つも聞き逃さないようにしていると、
「実は俺、河口のお爺ちゃんの事を好きになったんです」と言われ、ポカンと俺の口は開かれた。

「最初は変なお爺さんだなって思ってたんですよ。
でも俺の話を真剣に聞いてくれたり、一緒に料理したり、つまみ食いして怒られたり、最近は毎日がすごく楽しいんです。
最初は智光に作った料理を食べてもらうのを目的に頑張ってたんですけど、いつの間にか河口のお爺ちゃんと一緒に作るのが楽しみになって、智光にあげるのはオマケになったんです」
何て答えればいいのかわからず俺は口を閉じた。

「中身は勿論大好きです。でも幽霊になって若くなった河口のお爺ちゃんを見て、さらに好きになっちゃいました。若い頃はそんな可愛かったんですね」
「可愛くはないだろう…」
「ふふ、だから出来るなら成仏しないで欲しいです。好きです、お爺ちゃん。」
うーむと悩んでいると、手すりにくくりつけられていた花子の吠える声が聞こえた。
なんだ?とそちらを振り向くと、花子をわしゃわしゃ撫でる学生がいた。


「っ!?智光?なんでここに?」
驚いた声をあげる祥太くんとは反対に、俺は笑顔で一歩一歩とその学生の元へと近付いた。

「智光!久しぶりだなぁ」
「……じい、ちゃん?」
幽霊の姿で俺が見えている人は限られてるが、どうやら智光には俺が見えているようでホッとした。
智光の中で疑問が確信になったのか、花子から離れ、智光は俺へと抱きついてきた。

「じいちゃん!じいちゃん!どうしたの?若くなってんじゃん?!昔の写真のじいちゃんのまんまだ!」
「じいちゃん今日の朝な、死んじゃったんだ」
何それ?!って事はこのじいちゃんは幽霊?と聞いてくる智光に「そういうことだ」と言うと、
智光は身体を離し、まじまじと俺の頭のてっぺんからつま先まで見回した。

「どういうこと?」
さっきまで静かだった祥太くんがいつの間にか後ろに立ち、俺の手を軽く引っ張った。

「俺の1番下の娘の子どもの智光だ。祥太くんと友達だろ?」
驚いたように俺と智光を見比べる祥太くんに、1つずつ話しをした。





智光は昔から俺の事が大好きでな、何かあるたびに俺に報告するんだ。
「○○くんと喧嘩した」「○○ちゃんと仲良くなった」って全部な。
だから祥太くんが智光の友達だって実は最初から知っていたんだ。
流石に祥太くんが智光の事が好きだという事には驚いたが、智光は悪いやつじゃない。
告白されたら、智光はきっと一生懸命祥太くんのことを悩んでくれると思った。
だから諦めず、告白だけでもと思ってずっと俺は祥太くんのことを応援していたんだよ。
肉じゃがもおはぎもきんぴらごぼうも、どれも昔から智光が好きな食べ物なんだ。

「味付けがじいちゃんと全く一緒だったからまさかとは思ったけど、俺が知らないうちに仲良くしちゃって!じいちゃんは俺のじいちゃんだからな!祥太!」
昔からじいちゃんはカッコ良くてな、俺が捨て犬拾ってきたのを母さんが「家では飼えないから、元の場所に返してきなさい!」って怒られて泣いてたら
「智光、良い事したな。この犬はじいちゃんが育てるから、いつでも家へ来い。智光が優しい子に育ってくれて、じいちゃんは嬉しいぞ。」って花子を引き取ってくれたり、
じいちゃんは俺の初恋の相手なんだよ。
だからそうやすやすと祥太には渡さないからな。

孫の言葉に相変わらずだなと「ふふ」と笑った。



口喧嘩を始めた祥太くんと智光を見ながら、花子と戯れ、
そういえば、俺はもう成仏できないのか?と頭に浮かんだ。
まぁ、文枝さんは気長に待ってくれるだろう。

「そうだ花子、どうせなら文枝さんのところには一緒に行こうか」
「わん!」






補足

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