お爺ちゃんは見守った



いつも通りの場所には、祥太くんが座っていた。

「こんにちは、祥太くん」
「こんにちは、河口のおじい…あの、誰ですか?」
花子と共にいる俺を不思議そうな顔で見つめる祥太くんの隣に「どっこいしょ」と言いながら俺は座った。

「俺だよ。河口のお爺ちゃん」
「?!だって…」
「祥太くん、突然だが俺は今日の朝死んでしまった。
小学生の代わりに車に轢かれて、ぽっくりと逝った。
だけど祥太くんの事が心残りでなぁ、幽霊として戻ってきてしまった」
俺の言葉に信じられないと言う表情を浮かべ、怪訝な目でこちらを見つめてくる祥太くんの目を、俺はジッと見つめ返した。

「息子や娘は元気にやっている。孫達だって元気だ。
愛しい我が子や孫に会えなくなるのは少し寂しいが、いつかは死ぬ。それが早まっただけだ。
だから俺はもうこの世に未練はない…ただ1つを除けば…
祥太くん、俺は祥太くんを本当の孫のように思っている。
そんな大事な孫の1人である祥太くんの応援を、俺は中途半端に終わらせて、死ぬ訳にはいかない」
だから俺は、1度死んだが、また現世へと幽霊として戻ってきた。

文枝さんには悪いが、あとほんの少しだけ向こう側で待っててもらおうと思う。
俺にはまだここで、やらなくてはいけないことがいくつかある。
どういう結果にしろ、俺は祥太くんが好きな人に告白するまでは、死ぬに死ねない。

黙って俺の話を聞いてくれていた祥太くんは、静かに俯いて泣いていた。
幽霊の身なので、触れるかわからず、恐る恐る祥太くんの背中に手を伸ばした。
どうやら祥太くんには触れられるらしい。
ゆっくりと上から下へと背中をさすると「ふふ」と、祥太くんの笑い声が聞こえた。

「河口のお爺ちゃんは本当にお人好しですね…元々は他人の俺に、死んでまで気に掛けてくれるなんて…」
「何を言ってる。祥太くん、君はもう俺の孫なんだよ。孫を気に掛けて何が悪い。
可愛い孫なんだ。爺ちゃんはいつだって君の事を心配をしているし、最後まで応援してやるつもりだ」
河口のお爺ちゃん、カッコよすぎるよ…
と呟く祥太くんに、俺はニカッと笑ってやった。






祥太くんに1つだけお願いをした。
花子を引き取って欲しいと。
初めて会った時から花子は祥太くんに懐いている。
だから花子もきっと祥太くんに可愛がってもらえたら、喜んでくれるだろうと思った。
祥太くんは迷うことなく「勿論です」と頷き、俺は花子に「良かったな」と声を掛けた。
足元で元気に吠える花子を持ち上げ、「元気に生きて、また向こうの世界で会おうな」と花子にさよならを告げた。
花子はさよならがわかったのか、寂しそうな顔を浮かべ「くぅーん…」と声をあげ、俺の顔をペロペロと舐めた。




俺の話を一通り聞いた祥太くんは、決意した目を俺に向け、好きな人に告白すると言った。
だから残された限られた時間で、俺は少しだけ散歩をした。
我が子や孫の元へ行き、俺の姿は見えていないし声も聞こえていないが「幸せに生きろ。またな」と告げた。
仲が良かった友人やお世話になった人の所にも行き、家族同様に一言二言別れの言葉を告げた。
そして最後には、自然と文枝さんのお墓へと足が向かった。

「いつも迷惑をかけて申し訳ない。直ぐにそっちへ行くから…、だからあともう少しだけ待っててくれ」








「突然呼び出してゴメン」という祥太くんの緊張した面持ちにこちらまで緊張する。

数分間の無言が続いたが、覚悟を決めたのか、勢いをつけて祥太くんは喋り始めた。
「好きです。…いつの間にか友達だったお前に、友達以上の感情を持つようになって、毎日俺は苦しみました。
だけどそれでも諦められないぐらい俺は、やっぱりお前の事が好きだったみたいです」
言った!と見ていると、祥太くんからの告白を聞いた相手はゆっくりと喋り始めた。

「最近祥太、俺に色々くれるだろ?あれどれもすげぇ美味い。
全部俺の大好物で、大好きなじいちゃんの味なんだ」
「え…?」
驚く祥太くんにそういえば言ってなかったなと思い出した。

「お前が俺のこと好きだって薄々知ってたけど、まさかじいちゃんの味を習得して、胃袋から惚れさせるのはズルすぎるだろ」

今、祥太くんが告白した相手である隅木智光は、1番下の娘の子ども、小さい頃からじいちゃん大好きっ子の可愛い可愛い俺の孫だ。
まさか祥太くんが智光の事が好きだって事には驚いたが、それなら俺は告白した方がいいと思った。
智光は優しい奴だ。
だからきっと告白を真剣に受け取ってくれると俺はわかっていた。




「知っているかわからないけど、俺は料理は下手くそだ。じいちゃんをトイレの住人にさせる程の腕前だからな。
…それでもいいなら…これからも、よろしく」
幸せそうに頷く祥太くんを遠くから見た俺は「良かった」という気持ちでいっぱいになった。
掌を見てみると徐々に透け始めていった。

2人の幸せな未来を、俺は空の上から見守っていこうと顔を綻ばせた。






補足

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