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▼ 不良×不細工2

黒井くんの3歩後ろを僕が黙って着いて行く…それが僕達の帰り道の光景だった。
だけどそれは今じゃ変わり、僕は黒井くんと並んで歩く。

黒井くんはチラリとこちらを伺い、僕の歩幅にさりげなく合わせて歩いてくれる。
それだけの事なのに僕は嬉しくて嬉しくて、思わず顔が綻んでしまう。
そして僕の綻んだ顔に気付いた黒井くんは、少し顔を赤らめそっぽを向く。
僕にはそれが幸せでたまらない。










1年の春、キッカケが何かなんてもう忘れてしまったが、気が付いたら隣のクラスの松本日向(ひなた)を目で追いかけるようになった。
ぺちゃんこでまん丸な鼻や、笑うと目がなくなる小さくて細い目、一般的には不細工と言われるようなそんな顔付きの松本だったが、俺はそれを可愛いと思った。

隣にいる松本を伺いながら、松本の歩幅に合わせながら歩く。
今、こうやって松本と隣同士で歩けることが俺には幸せでたまらない。
緩みそうな顔を引き締め再び松本を見ると、松本は嬉しそうに目を細めて笑っていた。
その姿にせっかく引き締めた顔は緩み『もしかして松本も俺と同じ気持ちなのか』と嬉しくて顔が赤くなるのが自分でもわかった。
すぐに松本から顔を逸らすが、さっきの松本の嬉しそうな顔が頭から離れず、顔の表情を引き締めようとも自分の意思とは反対に、さらに緩んでしまう。

ようやく表情が言う事を聞いてくれるようになった時にはもう、いつも松本と分かれる場所へと着いてしまった。
やっと堂々と松本の隣を歩けるようになったが、松本との会話は前と同じで、あまり出来ていない。
何を話せばいいかわからないというのもあるが、真っ正面から松本を見てしまったら、俺の気持ちが爆発しそうで怖い。
今だって欲を出せばもっと松本にくっつきたいし、触りたい。
キスも、もちろんそれ以上のこともしたい。
だけど突然そんなことをしたら松本を怖がらせてしまう。
そのことが俺には怖くて仕方ない。

下世話な欲求を抑え付け、いつも通り松本に『じゃあな』と言うと、いつもなら『またね』と言って俺とは反対の道を歩いていく松本だったが、今日はなかなか歩きださなかった。
疑問に思い松本を見ると、何故か顔を真っ赤にしていた。

慌てて『大丈夫か』と声をかけるも何も言わず、ただ顔を縦に振るだけ。
どうしてやればいいんだと考えていると、か細い声だが何か喋っているのが聞こえ、なんだ?と松本の口に耳を近付けると『まだ…、黒井くんと離れたくない』と、確かにそう言った。

頭のてっぺんから足の先までビリビリと何かが駆けめぐり、興奮が抑えきれず近くにあった松本の唇に噛み付くようなキスをした。
頭がとろけそうなぐらい気持ち良く、欲望のままにキスを続ける。
けれど途中でハッと我に帰り、慌てて唇を離すと松本は息を乱しながら俺に寄りかかって来た。
松本の身体を支えながらも頭の中では『やっちまった。どうしよう…』と後悔の念を抱く。

「大丈夫か?…わりぃ突然…」
「っん。だ、い丈夫。…ただ、息が続かなかった、だけだから」
顔を上げた松本は頬を赤く染め、まだ少し呼吸が荒く、ボンヤリとだがキスしている時の松本の様子を思い出し、俺はまた性懲りもなく欲望に駆られる。
けれど流石に二度目はまずいと本能を理性で抑え付ける。

「…ごめん。」
「いや…大丈夫。ビックリはしたけど、その…凄い嬉しかったし」
伏し目がちに言うその姿に、俺の頭の血管がプチンと切れる。
『冷静になれ。二度目はない』
そう唱えるが本能を抑え付けるのもやっとで、これ以上はヤバイと松本から離れようとするが、まだ力が入らないのか、松本は俺に寄りかかったまま動かない。

「…松本、動けるか?…」
「ん…まだちょっと無理かも」
松本の返事を聞き、少し考えた後ゆっくりと息を吐き出し、頭の中を無にする。
『ちょっとだけ足に力入れれるか?』と聞き、頷いたのを確認してから松本の手を身体から離させた。
離れた瞬間即座に俺は後ろを向き、松本の手を自分の肩へと置かせた後、少ししゃがみ込み『よっこいしょ』と言いながら松本をおんぶした。

「歩けそうになったら言ってくれ。そん時は下ろすから」
「ごめんね。ありがとう、黒井くん」
耳元で聞こえる松本の声に意識をしないように、思考を遠くへと飛ばし、松本の家まで道のりを口頭で教えてもらった。




『ここが僕の家だよ』と言われた家は極々普通の一軒家だった。

「ごめんね…結局最後までおんぶしてもらっちゃって」
「いや、悪いのは俺だから」
『それじゃあまたな』とその場を去ろうとしたが、その前に『よかったら上がってかない?』と松本に誘われた。
視線を彷徨わせ、どうしようかと考えていると、『お茶だけでも…』と後押しするように眉毛をハの字にしながら言われ、断ることが出来ず、松本の家へとお邪魔することになった。

『階段登った突き当りが僕の部屋だから、先に行ってて』と言われ、1人松本の部屋へと入ったが、俺はなぜ松本の家へと上がってしまったのかと後悔する。
松本の部屋はどこもかしこも松本の匂いが充満し、正直落ち着かない。
そして少しでも心落ち着かそうと辺りを見渡すとちょうどベッドが目に入ってしまい、さらに俺は落ち着かなくなる。

欲望塗れの思考を巡らせながらもこの状況はヤバイということに今更だが気が付く。
こんな松本の匂いが充満している部屋に二人きりにでもなったら、ギリギリだった理性ももう機能してくれない。
松本には悪いがもう帰ろうと立ち上がり、扉を開けると、お盆を持ち両手が塞がっている松本が立っていた。


「黒井くんありがとう。両手塞がってて扉開けれないからどうしようかと困ってたんだ」
「え?…あぁ、おう」
完全に帰るタイミングを逃し、床に座る松本に合わせて、少し距離をとりつつ俺も座る。
どうやってこの場を切り抜けようか考えるが、息をするたびに入ってくる松本の匂いと、二人きりという状態に頭が正常に働いてくれない。

何か話さなくてはと思うが、何も話題が浮かばず、お互い無言の時間が続く。
けれど突然松本が『あのね』と喋りだしたことで、見ないように意識していた視線を無意識に松本へと向けてしまった。

「さっき、『黒井くんと離れたくない』って言ったじゃん?ちょっと無理矢理だったかもしれないけど、今こうやっていつもは黒井くんとバイバイしてる時間なのに一緒に居れることが、今凄く嬉しいな」
実はおんぶしてもらって数分ぐらいでもう歩けたけど、黒井くんとまだ離れたくなくてずっと歩けること黙ってたんだ。…その…ごめんね、黒井くん。僕、重かったよね。

へにゃりと申し訳なさそうに笑うその姿に、俺は十分頑張ってくれていた理性とサヨナラをした。
「……どうしたの?黒井くん」
前から松本を抱き締め首元に顔を埋める。
濃い松本の匂いに頭がクラクラする。
首元を見つめ『食いたい』という衝動が抑えきれず、ガブリと噛み付いくと、その瞬間ビクリと松本の身体は震え、小さく息を漏らした。

ガブガブと強く噛んだり、甘噛みしたりと思いのままに噛み続け、ようやく満足して口を離すと、首元にはクッキリと俺の歯型が付いていた。
それが嬉しくて歯型に沿って舐めていると
『くろ、いくん。やっ……』と松本の声が耳に入り、バッと身体を松本から離すと、痛かったのか目に涙を浮かべていた。

「また俺は…。」
自分の学習能力の無さに絶望する。

「ごめん。俺もう帰るわ…これ以上松本と居たら抑えがきかねぇ」
「え…?黒井くん?」
不安そうな顔で俺を見る松本が可愛いくて、また俺は自分の欲望を松本にぶつけてしまいそうで怖くなる。
松本を大事にしたいと思う反面、ぐちゃぐちゃにしたいとも思っている。
このことが松本に知られたら俺は松本に嫌われるかもしれない。
そうならないためにも気持ちを抑え付けようと必死になるが、本物の松本を目の前にするとそんな思いも遠くへ行き、気持ちが抑えられなくなる。

「今日は本当にごめん…。次からはもっと我慢するから」
自分の不甲斐なさに松本を見ることが出来ず、後ろを振り返らないまま、言いたい事だけを言って、松本の家を去る。


松本の家を出て、今日1日のことを思い出し、一人溜息をつく。
もっといい雰囲気を作って松本とキスをしたり、抱き締めたりしたかったのに、俺が我慢出来なかったばっかりにガッツいてしまった。
松本は嫌がっていなかったかその時の事を思い出そうとするが、松本の赤くした頬や目に涙を溜める姿が頭に浮かび、頭を抱えた。
そして、初めて松本とキスをした事実に、最近締まりのなくなっている顔がさらに緩まる。

はぁ…、松本が好きすぎて辛い……







僕に魅力が無いから黒井くんは僕に手を出してくれないのかと思っていた。
だけど黒井くんは僕に気を遣って、我慢をしてくれているらしい。
別に我慢なんてしなくてもいいのにと考えている僕は、もしかしておかしいのだろうか。

息苦しかったが黒井くんとのキスは天にも昇るほど嬉しく、とろけてしまいそうになった。
ふわふわした気持ちで『もっと』とキスを強請りたかったが、言ったら気持ち悪がられるかな?と思い、言い留まった。

抱き締められ首元を噛まれた時も、頭の中では嬉しいという思いで埋め尽くされていた。
けれどくすぐったくて思わず出た声に黒井くんは我に帰り、慌てて帰ってしまった。
帰ってしまった黒井くんに寂しいなとは思うが、また明日になれば黒井くんに会うことができる。
それに今日から僕には、黒井くんの物だという証がついている。
黒井くんの歯型がついている首元をそっと撫で、嬉しくて思わず顔が緩む。

可愛いとは無縁な不細工な僕だが、どういう訳か黒井くんには僕が可愛く見えるらしい。
どんなマジックが働いてるのか僕にはわからないが、そのマジックが一生解けないようにと願い、明日はもっと黒井くんと近付けれたらいいなと微笑む。








補足

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