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▼ 元人気者×元健気2

「あ!」
「あっ…」

平日は仕事があるせいでなかなか美知と一緒に居れる時間が無い代わりに、仕事の無い土日は毎週のように美知と一緒に二人で出掛けている。
今日もいつもと変わらず、最近新しく出来たばかりだという話題のショッピングモールに行くと、不意に後ろから驚いた声が聞こえ振り返ると、スーツ姿の柳瀬川くんが居た。

「よぉ!偶然だな、雪下」
「そうだね。柳瀬川くんは仕事か何か?」
「おう。急ぎの契約の事でな。…休日出勤だなんて最悪だって思ってたけど、雪下と会えたし、休日出勤も悪くなかったわ」
「ハハ…なんだよそれ」
何故か嬉しそうに笑いながら話す柳瀬川くんの言葉につられるようにして笑っていると、クイクイと服の裾を引っ張られたことでハッと我に返った。

「あっ!…ごめん、美知。紹介するね、この人はパパと高校時代同級生だった柳瀬川くん」
「はじめまして、雪下美知です」
人見知りもせず柳瀬川くんに挨拶をする美知に、自分の娘ながら鼻が高くなる。
すかさず『偉いな』としゃがみ込み、褒めてやりながら優しく美知の頭を撫でてあげると、美知は嬉しそうに目を細めて笑った。
その姿に僕の顔も思わず緩む。親バカだと言われても別に構わない。
だって美知はすごく可愛くて仕方ないんだもの。

「柳瀬川くん、この子は娘の美知で、今年で7歳なんだ」
しゃがんでいた身体を立ち上がらせ、緩んだ顔のまま柳瀬川くんに紹介すると、何故か柳瀬川くんは心ここに在らずというような顔をしていた。
声を掛けても聞こえていないのか、全く反応が返ってこない。

「…?柳瀬川くん?」
「…あっ、ごめん。まさか雪下にこんな大っきい子どもが居るなんて思ってなかったから、ちょっと驚いたよ」
ハハハと笑っているが、何故か悲しそうな顔をしている柳瀬川くんに、見ている僕の方がズキンと胸が痛くなった。
どうしたのかと聞こうとしたが、悲しそうな顔をしたのは一瞬だけで、直ぐに満面の笑顔に変わり、柳瀬川くんはしゃがんで美知の目線に合わせたので、僕は聞くタイミングを逃し、聞くことができなかった。

「初めまして美知ちゃん。俺は美知ちゃんのパパと同級生だった柳瀬川悠(はるか)って言います。」
「悠お兄ちゃん…?」
「……可愛い!俺、兄弟とか居なかったし、そんな風に呼ばれたの初めてだからすごく新鮮!!」
なかなか感情の読み取れない顔をする柳瀬川くんに僕は不安になる。
知らず知らずのうちに僕は何かしてしまったんだろうか…でもまだ会って数分しか経っていないし…
…それになんで柳瀬川くんは美知に気付いてから、一切僕の方を見てくれなくなったんだろう。



さすが僕の娘と言ってもいいのか微妙な所だが、美知は柳瀬川くんの事をすごく気に入り、『パパ!悠お兄ちゃんお家に呼んじゃダメ?美知、もっと悠お兄ちゃんと一緒にいたい!!!』と言い出した。
前に合同企画の会議の時に会ったときは、僕もあまり柳瀬川くんと喋れていなかったから、喋りたいとは思うけど、そもそも柳瀬川くんはこの後予定があるんじゃないのかと思い
『美知。柳瀬川くんこの後予定あるかもしれないし、ワガママは言っちゃダメだよ』と言うと、それを聞いていた柳瀬川くんが『あー…、俺予定無いから大丈夫だよ?むしろ行っちゃっていいの?』と。
その瞬間美知は僕に突進し、『パパ!!!悠お兄ちゃん大丈夫だって!!!』
美知はよっぽど柳瀬川くんと一緒に入れるのが嬉しいのか、ニコニコしながら『晩ご飯も一緒に食べたい』と言ってくるのに『そうだねー。じゃあ買い物してから帰らなきゃだね』と美知を抱き締めながら僕もニコニコと笑う。
ふと視線を感じ、チラリと柳瀬川くんを見ると、やっと僕を見てくれた柳瀬川くんが少し気まずそうに『ありがとう』とだけ言ってきた。



「柳瀬川くん、何か食べたいものある?」
「悠お兄ちゃん、なにが好き?」
「え?うーん。そう言われると困るなぁ」
ショッピングモールの1階にあるスーパーで男2人、子ども1人という不思議な組み合わせでカートを押しながら買い物をする。
まさか大好きだった柳瀬川くんとこうやって一緒にスーパーで買い物が出来る日が来るなんて、高校時代の時には全く想像もしていなかったから、楽しくて仕方ない。
それに捨てたはずの気持ちが前に会った時に再熱したせいで、さっきから顔に出さないようにはしているが、内心では柳瀬川くんと偶然会ってから1度もドキドキが治まってくれていない。
この年になってまた『柳瀬川くんはどんな料理が好きなんだろう』『柳瀬川くんに僕の手料理食べてもらいたい』とか青臭いこと考えてしまっている自分がすごく恥ずかしくてたまらない。
きっと柳瀬川くんのことだし、もしかしたら僕みたいに既に結婚してるかもしれないし、してないとしてもカッコイイ柳瀬川くんを周りは絶対放っておかないから、恋人はいると思う。
だから頭の中でだけでも恋人気分で居ることを許してほしい。

「簡単な物ならなんでも作れるから、柳瀬川くんの好きなものでいいよ」
「え?雪下が作ってくれるの?」
驚いた顔をする柳瀬川くんに僕は首を曲げた。
僕以外に誰が作ると思ったんだろう?美知はまだ小さいし、作れる訳が無い…

「その…普通、料理って奥さんが作るんじゃ…」
「あぁ!そのことね」
「あのね悠お兄ちゃん!ママはお空の上にいるから、いつもパパが作ってくれるんだよ。パパのおりょうり、すっごくおいしいから楽しみにしててね」
いつも僕が作るのが当たり前だったから忘れていた。
そっか。普通、料理は奥さんが作るもんだもんね。
だけど美希(みき)ちゃんがまだ生きていた頃も、いつも僕が料理作ってたし、どっちにしろ料理は僕担当だっただろうな。美希ちゃん料理下手だったし…

「……ごめん。そうだったんだ。」
申し訳なさそうな顔をする柳瀬川くんに、『大丈夫だよ』と言い、『僕が丹精込めて作るからなんでも言って』と言うと『じゃあ…』と柳瀬川くんはおずおずと口を開いた。



「美知ー。お皿持ってきてー」
「はーい」
「俺も何か手伝うことある?」
「美知に構ってくれるだけですごく有難いよ。柳瀬川くん、ありがとう」
柳瀬川くんのリクエストはハンバーグと、少し子供っぽいチョイスに思わず聞いた時は笑ってしまった。
柳瀬川くんは笑う僕を軽く睨み付け、照れ臭そうに『…ハンバーグ美味しいじゃん』と言うのに『そうだね。美知もハンバーグすごく好きだよ』と返すと『…子供舌だって言いたいの?』と言われ、失礼だけどまたさらに笑ってしまった。

スーパーの袋をみんなで1つずつ持って帰り、家に着いてから美知に手を洗うように言うと、美知は『悠お兄ちゃんこっち』と言いながら、柳瀬川くんを連れて洗面所へ行ってしまった。
柳瀬川くんが僕の家に居ることや、娘と仲良くしている姿に嬉しくて顔がニヤけた。
僕だけなら柳瀬川くんと会っても、家に来てもらったり、ご飯を一緒に食べることすら出来なかったはず。
だから今こうやって来てもらえたのも、美知が積極的に柳瀬川くんを誘ってくれたおかげ。
昔みたいな見ているだけじゃなく、柳瀬川くんと仲良くすることができて、おこがましいけども、これは柳瀬川くんと友達と呼んでもいいんじゃないかなとクスリと笑った。



美知に取ってきてもらった皿を受け取り、鼻歌交じりに引き続き料理を続けていると「美味しそうだな」と後ろからヒョイと柳瀬川くんがフライパンを覗き込んできた。

「特別な事は特にしてないから、外で売ってるのよりは全然美味しくないと思うよ。だからあまり期待しないでね?…あっ、そうだ!少し味見してくれる?」
そう言って小さく切ったハンバーグを菜ばしで摘まんで、ふぅーふぅーと息をかけて少し冷ましてから柳瀬川くんの口元へと持って行った。
「あーん」
「…」
こちらを見て固まっている柳瀬川くんを不思議に思っていたが、すぐに僕はハッとした。
いつも美知に味見してもらうときにしている癖で思わずやってしまった。
慌てて小皿を取りに行こうと菜ばしを下げようとした瞬間、パクッと口元に持って行っていたハンバーグを柳瀬川くんが食べた。
唖然と見ていると、口をモグモグさせながら『本当だ。美知ちゃんが言う通り、雪下の料理すごく美味しい』とニコリと笑った。
その姿にボーッと見ていると、菜ばしを柳瀬川くんに取られ、小さくハンバーグを切って今度は僕の口元へと持って来た。

「ほら雪下も味見してみて。すごく美味しいから」
「…あ、ありがとう……」
目を瞑ってパクリとハンバーグを食べる。
いつもと同じハンバーグなはずなのに、今日のハンバーグは何故かいつもと違った味がした。

「どお?美味しいでしょ?」
火照る顔を手で扇ぎながら、味付けは問題なさそうだなと必死に違うことを考える。
あとから僕達の様子に気付いた美知に『あっ!ずるーい!!!美知も味見する!!』と言われた頃には、やっと顔の火照りも治まった。



「今日はありがとう。すっごく美味しかった。」
「いや、こちらこそ来てくれてありがとう。」
「…悠お兄ちゃん、また来てくれる?」
柳瀬川くんとの別れに、いつもは我慢強い美知が、目をウルウルと潤ませていた。
その姿を見た柳瀬川くんは美知の目の前にしゃがみ、ポンと美知の頭に手を置いた。

「美知ちゃんも今日はありがとうね。うん、また近いうちに来るから。約束ね」
今すぐにでも泣きそうだった美知は、柳瀬川くんと指切りげんまんをしているうちにニコニコと笑いだし『絶対だよ!!パパとまってるね』と言った。
徐々に小さくなる柳瀬川くんに僕と美知は柳瀬川くんが見えなくなるまで手を振り、見えなくなったところで美知に『中に入ろっか』と声をかけて家へと戻った。

高校時代好きだった人と再会し、昔より仲良く出来ている今が幸せでたまらない。
美知も柳瀬川くんのことをすごく気に入ってくれているし、これからも僕自身柳瀬川くんとは仲良くして行きたいと思っている。
だから、また再熱してしまった気持ちは無理矢理押さえ付けよう。
この気持ちは高校時代に既に1回捨てたもの。
またあの時みたいに時間が経てば気持ちは無くなり、きっと柳瀬川くんとは普通に付き合っていけれるはず。






補足

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