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▼ 不良×不細工6

リクエスト


何度目かのデートの日、松本に喜んでもらいたくて、本屋にカフェが併設されているブックカフェへと連れてきた。
想像通り「わぁ、すごい!僕初めて来たや」と喜び、飲み物片手に松本は雑誌や本を漁り始めた。
その喜ぶ姿に俺まで嬉しくなり、「好きなだけ見てていいから」と大人の対応を見せた。
だけどソファーで本を読み始めてから1時間。
元々本は漫画しか読んで来なかった俺は早々に雑誌や本を読むのに飽きた。
目の前にいる松本は真剣に本を読み、俺がジッと見つめていることに気付くそぶりすらない。

今まで幾度も松本が本を読む姿を見てきたから、多分本が好きなんだろうとは思っていたが、まさかそんなに好きだったとは…
ここにきてようやく俺は『ブックカフェでは松本と話せない』ということに気付いた。
だからと言って自分からここへ連れてきておきながら『松本と話せないから』と店を出るのもどうかと思い、暇つぶしに1人、カフェブースへと移った。





「お兄さん暇してるー?暇なら俺と話そー?」
「あ"?」
松本と話せずイライラしてるところに、軽そうな間延びした台詞が聞こえ、無意識に眉間にシワが寄った。
声のした方を見ると、茶髪をワックスでハネさせ、八重歯をのぞかせた、台詞同様軽そうな男が立っていた。
俺の返事を聞く前に隣に座り、「ねねねね、お兄さんも恋人に放って置かれちゃった系?俺の恋人もすごい読書好きでさー、ここに来た瞬間『俺の事が見えなくなっちゃったの?!』ってぐらい本の方に夢中なっちゃってー、もう俺暇すぎて死んじゃいそうなのよ」
だからお兄さんが構ってよ
と言う、身元もわからないこの男を俺は無視した。

「ねぇねぇー、暇なんでしょー?暇さを分かち合って暇じゃなくそうよー。お兄さーん。」
無視してもめげずに話し掛ける男をチラッと横目で見た後、はぁとため息をついた。
めんどくさい。が、暇なのはどうやっても変わらない。

顎をしゃくり、男に何か話すよう俺は促した。
すると途端にへらぁと笑った男は口を開いた。

「俺ってこんな見た目してんじゃん?だから今まではねー、俺と似たような股の緩い女の子達とばっか遊んでたんだぁ」
「ああ確かにお前、頭のネジから下半身まで全てが緩そうだな」
「ひっどーい!まぁ、否定はしないけど。
でねぇ、そんな俺は今は春(はる)ちゃんっていう凄く真面目な可愛い子と付き合ってるんだぁ。
春ちゃんと出会ってから俺ね、博物館とか美術館とかそういう真面目そうな所ばっか行ってるんだよ!
何処も俺の知らない世界で『あんなところ誰が好き好んで行くんだろ?』って、今までは思ってたんだけど、意外とどれも楽しかったんだ。
多分ね、春ちゃんと一緒だったからなのかなぁ?って思うの」
楽しそうに語るその姿に、何となく俺の口からは松本の話が出ていた。

「…どんなところでも、好きな奴が隣にいれば楽しい。
ただ松本が楽しそうに笑ってさえ居てくれれば、それだけで俺も楽しい」
返事がない事を不思議に思い男を見ると、ニヤニヤと顔をニヤつかせていた。

「お兄さんってば相当恋人の事溺愛してんじゃーん。『恋人?めんどくせぇ』とか言いそうな感じなのに!
ふふ、でも恋人溺愛具合なら俺も負けないよ!
まずねぇ、春ちゃんは笑顔が可愛い!いつも無表情なのにたまに笑顔になるのがすっごい可愛い」
「それなら松本だって笑顔がすっげぇ可愛い。照れ笑いしてる顔なんてそんじゃそこらの女より興奮する」
今日会ったばかりの男と何を競い合ってるんだとは思うが、『恋人のどこが可愛いか』『あそこが好きだ』『ああしたい。こうしたい。』とあまり他の奴に恋人の話したことがなかった分、案外楽しく、惚気話は次から次へと口から出てきた。

時間にしておよそ15分。
ふと視線を感じ後ろ向くと、顔を赤くした真面目そうな男が立っていた。
何だ?と疑問に思ったが、それよりも、その男の後ろに口を手で押さえ、限界まで顔を真っ赤にさせている松本が見え、俺は目を見開いた。

「…悪い、もう俺行くわ」
男に声をかけ、俺は真面目そうな男の横を通り過ぎた。


十中八九、男との会話を松本に聞かれたんだと思う。
嘘偽りない、正真正銘俺の本音だが、本音な分それを本人である松本に聞かれたというのは恥ずかしい。
だけどそれ以上に呼吸を乱し、目に涙を浮かべて顔を赤くする松本が、どうしょうもないほど可愛くてたまらない。


「…んっ、…はぁ…黒、井くん、」
松本のところまで行くと上目遣いで声を掛けられた。
呼吸が整うよう背中をさすると、松本の身体がビクッと震えた。

「大丈夫か?松本?」
「は、恥ずかしい…から…あんなこと…あの、言わないで」
やっぱりさっきの惚気話を聞かれていたのかと俺の顔は熱くなった。
慌ててそのことについて謝ると、松本は横に顔を振り、
「…僕は可愛くないよ?不細工だし…。
多分言われた相手は僕だってわからないだろうけど、他の人にああ言うことは言わないで、その…黒井くんだけが僕の魅力?っていうのをわかっててくれればいいから…
あと、褒められ慣れてないから恥ずかしかったけど、黒井くんに褒められるのは、すごく嬉しかった。ありがとう。
僕も黒井くんのことが好きだよ。」
俺はまた何処かで性懲りも無く松本について惚気ると思う。
必死に自分の気持ちを伝えてくる松本は誰よりも可愛く、さらに俺は松本に溺れて行く。




「今日は素敵な場所に連れてきてくれてありがとう。すごく楽しかったよ。
…だけど1つだけ欲を言えば、黒井くんともっとお話ししたかったな…」
自分と同じ事を考えていた松本に、俺は「ああ」と返した。
多分その時の俺の顔はきっと破顔していた。






補足

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