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▼ こっち向いて、先輩8

リクエスト


「この前な、慎吾と家飲みしたんだよ」
「へー」
「そろそろ行けるとこまで行っちゃってもいい頃だと思ったし、ネットとかで俺も十分慎吾を喜ばせられるような知識もつけたから、酔わせた勢いでヤっちまおうと…」
「下衆っすね」
「だけどなー、結局出来なかったんだよ」
「ヘタレっすね」
「いやまぁ、それには深い訳があってだな…」







「慎吾は何か飲みたいものとかある?」
「いや…あんまりお酒は得意じゃないので、誠さんのオススメのお酒がいいです」
スーパーの酒コーナーで慎吾と「アレ美味そう」と言いあっている裏で、ずっと頭の中では、この後の展開をどうやって進めて行こうかと俺は計画を立てた。

まずは家に連れて行き、適当に話しながら慎吾にバンバン酒を飲んでもらい、慎吾がホロ酔いぐらいで優しくベッドに誘導し、自然と押し倒す。

完璧すぎる計画に思わず口元が緩み、チラッと慎吾を確認した後、バレないように緩んでしまった口元を手で覆い隠した。


「誠さんはどういうお酒が好きですか?」
「んー、最近はハイボールとかウイスキー系ハマってるかも」
「美味しいんですか?」
「美味しいよ」
『度数は高いけどな』
その言葉は胸の内だけで呟き、表面では笑顔で「慎吾もこの期にウイスキーデビューしてみる?」と誘うと、不安気ながらもゆっくりと慎吾は首を縦に振った。






家に着いた途端、キョロキョロと部屋を見渡し、落ち着きがない慎吾の横にピッタリと俺はくっついた。

「どうしたの?」
「え?あっ…綺麗お部屋だなーって」
「でしょ?慎吾が来るから、いつも以上に気合い入れて掃除したんだ。
この綺麗さ保つからこれからもたくさん遊びに来てよ。
それかどお?部屋余ってるし一緒に住んじゃう?」
俺の言葉に驚いた声を上げ、目を泳がし戸惑っている慎吾に
「まぁそういうのはおいおいで、ちょっとは考えてくれると嬉しいな」と告げ、必要な物だけをテーブルの上に置き、他は冷蔵庫へ入れにいった。





「かんぱーい」
コツンと缶をあて、グビッと俺が飲んだのを見て、慎吾も目をギュッと瞑りながら少しだけ飲んだ。

「っ!…これ、甘くて美味しいです」
両手で缶を持ち、「美味しい」と言って嬉しそうに笑う慎吾にこちらまで笑顔になる。
可愛いなぁ…

「じゃあ飲みながら何か話でもしよっか」
最近何かあった?というボンヤリした話から、いつも何しているのか、あの教授の授業は取らない方がいい、学食のAランチには外れがないと様々な話をしながら酒を飲んだ。
途中で慎吾にハイボールを勧めると、喜んで最初とは反対にグビグビと飲むのを、俺はニヤケる顔を抑えながら見つめた。

そろそろ飲み始めて幾分か時間も経ち、いい頃合いかなとチラッと慎吾を見ると、目はトロンと蕩け、頬は淡く染まっていた。


「うう…せんぱーい、ちゃんと聞いてますぅ?」
「大丈夫だよ、聞いてるよ」
楽しくお互い喋っていたが、ハイボールを飲み始めた辺りから慎吾の口は止まらなくなり、慎吾の独擅場になった。

「俺、高校時代は図書委員していたんですよー
毎週水曜日が俺の当番でぇ、当番の日だけぇ、放課後はいつも速水と一緒に帰っていたんですぅ」
水曜日。その言葉に「あっ…」と昔を思い出した。
一時期速水が毎週水曜日だけは誰よりも早く帰るから、恋人がいるんじゃないかと部活内で噂になった。
だけどあれは慎吾と一緒に帰っていたからだったのかと納得した。

今更ながら速水に嫉妬する。
慎吾と一緒に登下校なんて羨ましすぎる。

「速水を待っている間はー、体育館の2階からぁずっとバスケ部の練習見てたんですよぉ
みんな凄くカッコ良くてぇ、ボールがあっちへ行ったりぃ、こっちへ行ったりでぇ楽しかったです
あっ、でもやっぱりぃ先輩が1番カッコ良かった!」
へにょりと笑う慎吾の可愛さに、思わずギュッと抱きしめたくなるのを俺は必死で堪えた。

「そうだったんだー。全然気付いて無かったよ…勿体無いことしたな」と答えると、楽しそうに慎吾はふふふと笑った。

「先輩にバレないように、ずーっと見てたんですよぉ
部活の練習にー、学校の中ぁー、登下校ぉー、あと試合でも!
俺はいーっつも先輩ばっか見てましたぁ
先輩は気付いて無いだけでぇ、実は何度もすれ違ってるんですよぉ」
可愛いな。すごく可愛い。

はぁ…なんで俺は慎吾に気付かなかったのかと、本気で後悔する。
少しでも慎吾の視線に気付いていれば、俺はもっと早くから慎吾と一緒に居れたかもしれないのに。
高校時代に慎吾と一緒に登下校したかったな。

「俺ぇ先輩に一目惚れしてたんです。
でも鈍感でぇ、全然自分が先輩の事が好きだったってー、気付いてなかったんですよぉ
だけど先輩が卒業した日ぃ、初めて自分の気持ちに自覚したんです。
俺はぁ、常磐誠司さんが好きなんだぁーって。
それで先輩と会えないんだーって、俺の気持ちを伝えることはできないんだーって、たくさん後悔してぇ、たーくさん泣きましたぁ…」
なかなか次の言葉を喋り出さない慎吾を疑問に思って顔を見ると、慎吾の目から、ポロリと涙が出た。
それを皮切りにポロポロと次から次へと涙が溢れ出し、呼吸も乱れ始めた。

「っ…ずっと、ずーっと…好きぃ、でした。」
必死に涙を拭う慎吾に近付き、頭を撫でて、とうとう我慢できず、後ろから包み込むようにして俺はギュッと抱きしめた。
あやすように前後に身体を少しだけ揺らし、慎吾の言葉を黙って聞いた。

「…やっぱり俺はぁ、先輩のこと…大好きでぇ、諦め、きれなくてぇ、…だ、だから速水にぃ、先輩の…進学先、聞き、ました」
『重い、ですよ、ねぇ…。だけど、凄く好きでぇ、本当に大好きでぇ…』としゃくりあげながらも必死で伝えてくる慎吾に、俺は抱きしめている腕の力を強めた。

「ありがとう、慎吾。
そんなに想ってもらえてて凄く嬉しいよ。
なのに全然慎吾の気持ちに気付いてあげられなくて、ごめんね」
慎吾の両手を下ろさせて、優しく涙を拭い、ニコリと笑うと
慎吾もつられたようにふにゃりと微笑んだ。

可愛いなと甘やかしているうちに、酔いと泣き疲れで、いつの間にか慎吾は眠ってしまった。

頬を涙で濡らし眠る慎吾に、俺は計画を実行する気にもなれず、寝てしまった慎吾を抱き上げ、ベッドへと移した。
起きたらたくさん甘やかさなきゃなと決意を固め、ベッドでぐっすり眠る慎吾を見つめながら俺も眠りについた。








「な?襲える訳ないだろ?ってか、慎吾が可愛すぎて俺は辛い」
「はいはい、リア充爆発しろ」








補足

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