other2 | ナノ


▼ 元人気者×元健気

かつてこんな事があった。

僕は昔、中高一貫の男子校に通っていた。
思春期真っ只中なのに周りは男だらけ。
こんな環境では自然と対象は同性である男へと向かってしまう。
僕も例に漏れず、高校時代には人気者の柳瀬川(やなせがわ)くんという同級生に密かに想いを寄せていた。
いつも明るく元気で、みんなの中心にいる柳瀬川くんは誰にでも優しく、男だらけの特殊な環境でも柳瀬川くんを好いている人達は大勢いた。
そのため毎日のように『今日は○○が柳瀬川に告白していた』『○○は絶対柳瀬川の事好きだな』という男同士の色恋沙汰の噂が飛びかっていた。
周りが茶化しながら真意を本人に聞くが、そのたびに『気持ちは嬉しいけどちょっと困るかな』と柳瀬川くんは言葉通り困ったような顔をして笑っていた。


高校3年に上がる前、僕は駄目元でもいいから柳瀬川くんに気持ちを伝えようと決意した。
高校3年になれば受験が始まり、恋に現を抜かしてる場合ではない。
だから柳瀬川くんに告白を断ってもらい、この恋を終わらせ、柳瀬川くんのことも忘れようと思った。
だけど人通りの少ない薄暗い校舎裏での告白は僕の予想通りの結果だったが、心に傷跡深く残し、一生柳瀬川くんの事を僕は忘れられないだろうと確信した。

『…嘘だろ?雪下(ゆきした)までそんな事言うのかよ…どうせ面白半分か興味本位で言ってんだろ。
…きっと雪下は、この先男に告白したことに絶対後悔するよ…今はこんな環境だから勘違いしてるんだ。……そもそも男同士なんて気持ち悪いに決まってんだろ。それに叶うわけがない…』

柳瀬川くんの言うとおり、この気持ちは特殊な環境での勘違いなのかもしれない。
だけどここまで僕の気持ちや想いを否定されるとは思わなかった。
こっぴどく振ってくれた方が踏ん切りがつくと思っていたが、振られることがこんなに辛く、そして好きだった相手に未来の僕が後悔するとまで言われて傷付かない訳がなかった。




なぜこんなことを今更思い出したのか…
それは今目の前にその柳瀬川くんがいるからだろう。

「まさか兄弟会社に雪下がいるなんてな…高校卒業以来だから7年ぶりか。元気にしてたか?」
兄弟会社との合同企画で、まさか柳瀬川くんに会うとは思わなかった。
初めは驚いて数秒固まってしまったが、きっと柳瀬川くんは僕のことなんて覚えてないだろうと思い、顔合わせに集中した。
だが終わってすぐ話しかけられ、覚えててくれてた嬉しさと、昔と変わらない柳瀬川くんに自然と僕は笑顔を浮かべた。

「覚えててくれてたんだ。…本当に久しぶりだね」
「当たり前だろ。…それより連絡先交換しようぜ。あと今度飲みに行かね?」
連絡先を交換しながら言われた柳瀬川くんの言葉に、僕は思わず言葉がつまった。

「あー…、えっと…」
「…?…あっ…。雪下結婚してんのか…」
僕の左手の薬指についてる指輪に気付き、気まずそうに「もしかして新婚?それじゃあ飲みに行きにくいよな。…よかったらさ、今度奥さん紹介してくれよ」と笑った。
それに無言で頷くと、「あっ、わりぃ…このあとまだ仕事があるからもう行くな。…あとで連絡する」と言って柳瀬川くんは出口へと向かった。




家に帰ってすぐ、僕は廊下に倒れ込んだ。
僕の帰ってきた音に急いで玄関にやってきた美知(みち)は、倒れてる僕の靴を脱がしてから「大丈夫?」と聞いてきた。

「美知ぃー…美知ぃー。僕どうしよう…」
ガバッと起き上がり、しゃがんでいた美知をギュッと抱きしめた。
「どーしたの?」
「もう気持ちは綺麗になくなったと思ってた。……でもやっぱり僕は、今でもあの人が好きだったみたい…」
美知は眉毛をハの字にして心配そうな顔しながらも「大丈夫大丈夫。パパには美知と、お空の上のママがいるでしょ?私達はいつでもパパの味方だよ」
よく出来た娘に思わず軽く涙が出そうになった。

正直初め、顔合わせで柳瀬川くんを見たとき、心臓がバクバクと大きく鳴り始め、高校時代に捨てたはずの気持ちがまた戻ってきてしまった。
必死で気持ちを抑え、柳瀬川くんを見ないようにしていたのに
柳瀬川くんから話しかけられ、その上ただのクラスメートだった僕の事を覚えていてくれた。
嬉しさの絶頂で、僕はもしかして夢でも見てるんじゃないかと思った。
だけど飲みに誘われた瞬間、娘の美知の顔が頭に浮かび、一気に冷静になった。
僕にはもうあの時とは違って自分の事よりももっと大事な、守らなきゃいけない大切な家族が出来たんだ…どっちにしろ僕の気持ちは叶わない。それならあの時みたいに柳瀬川くんの事は忘れなきゃな…

「ありがとう。美知のおかげで元気が出たよ。今日は美知が好きなカレーにするね」







補足

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -