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▼ 不良×不細工4

リクエスト


松本の可愛さに、正直俺の理性は分刻みで失いかけている。


昨日、俺の行動で松本を怒らせてしまったらしく、
今日の昼、松本が空き教室に来てくれるかどうか、俺はすごく不安で仕方がなかった。
だけどやってきた松本は至って普通で、『昨日はごめんね』と謝り、もう怒っていないことに、ゆっくりと俺は息を吐いた。
けれどそのあと松本は、いつも俺とは向かい合わせに昼飯を食べるのに、何故か今日は俺の隣に座り、
『あーん』をされたり、手を握られたり、軽く頬にキスをされた。

俺の容量はお昼でとっくのとうにオーバーし、いつ理性が失ってもおかしくない状態。
それなのにこれから松本が俺の家に来るなんて…。
これ以上は俺の理性が保つ気がしない。






るんるん気分で歩き、見慣れない道に、さらに僕のテンションが上がっていく。

「黒井くん!お家まであとどれぐらい?」
「…え?あぁ、…あと数分…」
「そっかー。楽しみだな、黒井くんのお家!確か1人暮らししてるんだよね?」
「あぁ…」
今にも鼻歌を歌い出しそうな僕とは反対に、黒井くんはカチンコチンで返事も何処と無くぎこちない。
だけど黒井くんのお家が楽しみな僕はそんな黒井くんに気にせず、スキップしそうな足取りで黒井くんの隣を歩いた。




「ここ」
「ここなの?!大きなマンションだね。」
「親が勝手に決めた」
「そうなんだ」
エントランスを通り、エレベーターで8階まで上がった1番奥の部屋が黒井くんのお家らしい。

ふむふむここが黒井くんのお家かと頭に叩き込む。
黒井くんの家までの行き方をしっかり覚えたし、今度突然黒井くんのお家へ行こうかなとほくそ笑んでいると、鍵穴に鍵を入れ、右に鍵を回した黒井くんは、軽く首を傾げた。

「どうしたの?黒井くん?」
「いや…今日の朝、確かに鍵を閉めたはずなんだが開いてて…」
ガチャッと開かれた扉に僕も黒井くんと同じように首を曲げていると、家の中からこちらへと近づく足音が聞こえてきた。

「やーまと!お帰りー」
家の中から出てきたのは若い、20代後半ぐらいの女性だった。
え?と固まっていると隣から「は?なんであんたが!?」と驚いた声と同時に、慌てて黒井くんは扉を閉めた。

呆然としている僕と向かい合わせに向き直り、真っ直ぐとこちらを見た黒井くんは焦ったように「すまん。今日は帰ってくれるか?」と必死な形相で伝えたあと、再び扉を開け、中へと入って行ってしまった。

突然の出来事について行けずボーッとしてると、中から「裕子(ゆうこ)さん、連絡無しに来るのはやめてください」とだんだん小さくなっていく黒井くんの声が聞こえた。

数分経ち、ようやく我に帰った僕は無理矢理足を動かし、エレベーターへと向かった。

とことこと帰路を歩きながら、目からは勝手に涙がポロポロと落ちてくる。

あの女の人は誰なんだろう。
黒井くんの何なんだろう。
黒井くんの家の鍵を持ってるっぽいし、黒井くんは僕を帰らせて、その人を優先したし、黒井くんの大事な人なのかな?

醜い感情が胸に渦巻き、徐々に自分に自信がなくなる。

黒井くんは多分僕の事を好きだと思ってくれてるはず。
だけど黒井くんはすごくカッコ良いし、とてもモテる。
だからもしかしたら黒井くんは浮気しているのか?と考えたくもない予想まで頭に浮かぶ始末。

正直、僕に黒井くんはすごく勿体無いと思うが、僕は誰にも黒井くんを渡したくない。

ポロポロと勝手に出ていた涙はいつの間にか止まり、僕は戦う覚悟を決めた。






「おはよう。黒井くん」
「松本?!…おはよう。その…昨日は悪かった」
黒井くんが来るのを学校の下駄箱の前で待ち、声を掛けると、黒井くんは驚きそのあと気まずそうに下を向いてしまった。

「昨日の人って誰なの?黒井くんの何?」
直球勝負で聞いてみると、チラッと視線をこちらに向けた黒井くんは少し経った後、「何でもねぇよ…」と答えた。

「何でもないってどういうこと?話せないような人なの?」
「いや…そういう訳じゃ…」
そう黒井くんが答えると同時に、黒井くんのケータイが鳴り、「悪りぃ」と言って少し離れた所へ行ってしまった。

「どうしたんですか?裕子さん」
遠くの方から聞こえた黒井くんの声にムッとし、僕は結局黒井くんからあの人が誰なのか聞く前に、そのまま自分の教室へと向かった。






「ってことが、あったんだけどどう思う?玉川くん?浮気かな?」
「浮気なんじゃない?」
頬杖をつき、どうでも良さそうに返事をする玉川くんに僕は詰め寄った。

「本当にそう思ってる?」
「いや、別に。ぶっちゃけあんなに松本大好きな黒井に限って、浮気なんてある訳ないと思ってる」
何か黒井にも事情があるんじゃね?気になるなら今日1日、変わった様子がないか見てみれば?

そう言われた僕の行動は早かった。
少しでも自由な時間があれば、黒井くんの所へ行き、黒井くんにバレないように様子を見たり、玉川くんを連れて黒井くんに近付き、黒井くんの会話を盗み聞きしたりした。
その中で、黒井くんは1人で居る時、高確率でケータイを弄り、頬を緩めていた。
僕にすら見せたことが無い、幸せそうな顔にモヤモヤが胸にたまる。

黒井くんをそんな顔にさせるぐらい、あの女の人は黒井くんにとって大事な人なの?
…悔しい。僕には黒井くんをあんな顔にすることなんて出来ない。
黒井くんは僕よりあの女の人の方が好きなのかもしれない。
どうしよう…僕はどうやっても女性に勝つことは出来ないし、不細工でトロい僕の魅力なんて全くと言っていいほど無い。

戦う前に負けを確信し、ショックのあまり僕は4時間目は授業をサボり、いつも黒井くんとお昼を食べている空き教室で不貞寝した。





目を覚ますと隣に人がいた。
チラリと横を見てみるとそれは黒井くんで、黒井くんはケータイを見ながら休み時間と同様に顔を緩ませていた。
とうとう僕の限界は訪れ、ガタッと大きな音を立てながら立ち上がった。

「!?」
「黒井くん…ケータイ見せて…」
「…駄目だ」
「なんで?」
起きた僕に驚き、サッとケータイを隠す黒井くんに、出来る限りの低い声を出して手の平を出すとあっさり断られた。

ムカッとし、黒井くんが持っているケータイを取ろうと密着し、ケータイへと手を伸ばし、黒井くんから奪い取った。

即座に捕まらないように黒井くんからある程度距離を取り、ケータイの電源を付けると、そこには眠っている僕がいた。

驚いていると、後ろからケータイを奪われ、後ろを見ると、気まずそうな顔をする黒井くんがいた。

「見た、よな?悪い。隠し撮りする気は無かったんだ。だけど松本の寝顔なんて早々見れる物じゃないし、形に残しておきたくて…」
僕は大きく目を見開き、「僕が起きるまでずっとそれを見てたの?」と聞くと、黒井くんは無言でゆっくり頷いた。

「もしかして休み時間にケータイで見てたのって僕関係?」
驚いた顔をしたあと、またゆっくり頷いた。

「…ああ。暇さえあれば、松本からのメールを見返したり、隠し撮りした写真見てる。
…引いたよな?こんなことして。」
あの幸せそうな顔は僕を見ていたから。僕があの顔をさせていた。

そう思った瞬間、今までのが嘘のようにモヤモヤが消え、心がポカポカでいっぱいになった。

「浮気じゃないってこと?」
「浮気?!俺がか?!するわけないだろ!松本がいるのに」
「じゃあ昨日、黒井くんの家にいた女の人は?」
それは…と言葉に詰まる黒井くんをジーッと見ていると、はぁとため息をついたあと、頭を掻きながら「母親だよ」と言った。

「…え?でもすごく若かったけど?」
「義理の母親だからな。高校入る前ぐらいに親父が再婚して、新婚の2人に遠慮した俺は1人暮らしを始めたわけ」
まぁ向こうは心配して自分達が用意した場所に俺を住まわせたり、昨日みたいにたまに様子見に来るけどな。

そう語る黒井くんに僕は突進した。

「松本?!」
「…あの人が黒井くんの家の鍵持ってたり、黒井くんがケータイ見て顔緩ませてるの見て、すごく悔しかった。
僕は黒井くんと別れなきゃいけなくなるのかなって不安だったし…」
黒井くんは僕の話を黙って聞き、ゆっくりと僕を抱き返してくれた。

「それにすごくあの人に嫉妬した」
俯いていた顔を上げて黒井くんを見上げると、ゴクリと黒井くんは喉を鳴らした。

「俺だって…、いつも松本と話してるやつを見るたびに嫉妬してる」
少し拗ねたように言う黒井くんに僕はふふふと笑い、ジッと黒井くんを見つめた。

「どうした?」
「ねぇ、黒井くん。…キスして?それか僕の身長じゃ黒井くんに届かないからしゃが…」
最後まで発する前に黒井くんの唇によって言葉を奪われた。





裕子さんを浮気相手だと誤解し、隠さず『嫉妬した』と言う松本の可愛さに、俺はもう窒息しそうだ。







補足

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