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▼ こっち向いて、先輩7

先輩に誘われバーベキューをしたあの日、俺は酔っ払った先輩にキスをされた。
嬉しさと恥ずかしさと罪悪感で俺は1人オロオロと口元を押さえ、慌てていたところを優さんが助けてくれた。

優さんからすれば、顔を真っ赤にしてテンパる俺と、地面でぐっすり眠っている先輩という訳のわからない光景は、さぞかし近付きがたいものだっただろう。
だけど優さんは顔色一つ変えず
『落ち着け…そこに寝ているのをとりあえず運ぶから。話はそれからだ』と言って、先輩を背負い上げ、優さんの車に先輩を乗せに行った。
今だに思考が纏まらない俺も、何か手伝えることはないかと優さんの後ろを雛鳥の如く着いて行ったが、特に手伝えることはなかった。



先輩を車に乗せに行ったあと、優さんにならと思い、先輩への気持ちとさっきまで何があったかを優さんに伝えた。
するといつもはあまり表情が変わらない優さんが『お前ら付き合ってなかったのか…!』と少し驚いていたが、それぐらいで、男なのに先輩を好きだと言う俺を軽蔑した様子もなく、ホッと胸を撫で下ろした。

正直、酔っ払った状態だったが、先輩にキスされたのはすごく嬉しかった。
だけどそれは先輩からすれば酔っ払っていたせいでしてしまった不本意の行為。
それに対して喜んでいることに俺は罪悪感がわいた。
その事を優さんに言うと『気にしなくていい』と言われたが、そんなことも出来ず、罪悪感と恥ずかしさで先輩の顔を見れないと俺が話すと、優さんは少し考えた後
『違う車に乗せてもらうよう俺が話しておく』と言い、帰りは他の先輩の車に乗せてもらい、家まで送ってもらった。



先輩からのキスがいつまで経っても忘れられず、ようやく眠れたのは深夜を回った頃だった。
朝方何度も鳴る電話の音に目を覚まし、誰からだと確認するとそれは先輩からで、昨日の事を思い出し、恥ずかしくて結局俺は電話に出ることが出来なかった。
だけど無視するのはダメだよなと思った俺は、用件を聞くために声を聞かずに済むメールで用件を聞くと『次いつ一緒に遊べるかなって!いつ暇?』と返ってきた。
今先輩と会ったらきっとあの時の事を思い出し、普通に接せられないなと思い、心苦しかったが先輩には適当な嘘を言って誤魔化した。
それからも『電話していい?』『お婆ちゃん家行く前に会えないかな?』と色々言われたが、恥ずかしさや罪悪感で俺はどれもやんわりと断らせていただいた。



そしてあのバーベキューの日から俺は先輩について優さんに相談するようになった。
その日も『先輩から連絡が来るたびにキスされたのを思い出しちゃって、今も恥ずかしくて会えてないんです』と相談していると、何故か先輩が目の前に現れた。
久しぶりの先輩にまたキスされた事を思い出した俺は、赤い顔を隠すために俯いていると、何故か先輩は怒っていて無理矢理手を掴まれた。
そしてあれよあれよのうちにいつの間にか先輩の家まで連れてかれていた。

先輩の家に着くとベッドに押し倒され、訳がわからないうちに、喰われるんじゃないかと錯覚する程のキスをされた。
頭の中では何故こんなことになったのか、どうして俺は押し倒されているのか、今先輩は酔っているのか
と、恥ずかしさや息苦しさに俺の思考は徐々にボンヤリとしていった。
だけど先輩の『好き』という言葉に俺は意識を取り戻し、先輩の手を掴んだ。
嬉しい。先輩に好きだと思ってもらえてるなんて…
可愛い後輩の1人だとしても、その言葉を聞けただけで俺は心の底から嬉しくてたまらない。
これから先、どんな事があっても、その言葉だけで俺は生きていける。

ポロポロと止まらない涙にどうしようと言うと、先輩は困ったように『枯れるまで泣いちゃえ』と言った。
その言葉に内心クスリと笑い、俺の涙は少し止まってくれた。
そして自分も先輩とは意味は違うが先輩のことが好きだと伝えると、先輩は驚いた後『恋愛的な意味での好き』だと訂正された。

嘘だあり得ない。
その言葉が頭の中をグルグルと回り、先輩の言葉が俺には信じられなかった。
だって俺も先輩も男で、そんな俺にとって都合が良すぎる事が起こる訳がない。
だけど再びドバドバと出てくる俺の涙に、先輩は唇を寄せ、優しく目元にキスを落とした。
その姿に俺は『夢でもなんでもいい。先輩にそばにいてほしい』と
くしゃくしゃな笑顔で返事をすると、鼻詰まった変な声が出た。
それを聞いた先輩はおかしそうに笑い、恥ずかしくて俯いた俺に
『慎吾、可愛い』と言って俺の顔を持ち上げ、今度は唇にキスされた。
バーベキューの時とは違い、酔っていない先輩からのキスに、とっくのとうに超えていた俺のキャパは爆発した。






「奏多くん、ありがとう。奏多くんが先輩を焚き付けてくれたんだって?
今でも信じられないけど、奏多くんのおかげで先輩と恋人になることが出来ました。本当にありがとう。」
先輩から奏多くんの話を聞き、ぶー垂れる先輩を宥めて奏多くんと会う機会をもうけてもらった。
奏多くんが良い人で、先輩ともただ仲良いだけだとわかっている。
だけどそれでも俺は何度も何度も奏多くんに対して負の感情を持った。
自分の出来ないことを簡単にやってのけてしまう奏多くん。
それが俺には羨ましくて仕方なかった。
もう何回奏多くんに嫉妬したか、自分自身でもわからない。
そしてきっとこれからも俺は奏多くんに嫉妬し続けると思う。
だけど俺は奏多くんと先輩が仲良さそうに言い合ってるのがすごく好きで、それを壊したくないとも思っている。
だからもう少し俺は余裕の持てるような人間になろうと決めた。

「大したことしてないよ…それより慎吾くん、あんなのの何処が良い訳?考え直した方がいいよ」
真面目な顔で言う奏多くんに思わず笑いが出る。
高校1年生の部活の体験入部の時に見た先輩のフリースロー。
先輩がフリースローをしてゴールにボールを入れた瞬間、俺はもう先輩しか見えなくなった。
真剣な眼差しでゴールを向き、ボールを投げていた先輩。
そして投げ終わった後の無邪気な笑顔を見せる先輩。
先輩の全てが俺を惹きつけ、止まなかった。
カッコイイという一言では表せない先輩の魅力。
先輩の何処が好きなのかと聞かれると正直すごく困る。
だって先輩は全部カッコ良くて、全部好きなのだから。

「俺って骨の髄まで先輩に惚れ込んじゃってるから、今更何処が好きだなんて自分でもわからないよ」
「悪趣味」
「ありがとう」
楽しそうに笑う奏多くんにお礼を言うと、『なんかあったら言ってよ。僕に出来ることなら何でもするから。僕、結構慎吾くんの事好きだし』と言われた。
奏多くんからの意外な言葉に、俺は目を丸くしたあとハハハと笑い『何かあった時はよろしく』と答えた。




じゃあねと言って奏多くんとは離れ、少し遠い場所で優さんと話していた先輩の元へと向かった。

「優さんもありがとうございました。」
「いや、俺は何もしてない」
「いえいえ優さんのおか「…慎吾、なんで優には名前呼びしてて俺は『先輩』呼びな訳?納得出来ない」…え?」
頬杖をつきジトーッとこちらを見てくる先輩に何て答えようか困る。
だって先輩の名前なんて恐れ多くて俺には呼べない。

「慎吾が困ってる」
「優もなんで慎吾の事呼び捨てしてんだよ!!!慎吾ほら『誠司さん』って呼んでごらん?」
なんなら『誠くん』でも『誠さん』でも何でもいいよと言う先輩の言葉に、俺は顔を真っ赤にする。
「いや…あの」
「ほーら、言ってごらん?」
諭すような言い方をする先輩に負け、か細い声で俺は『せ、誠…さん』と言い、先輩からの反応を目を瞑って待った。
だけどなかなか反応が帰ってこないので、チラッと先輩を見ると、それはそれは嬉しそうにニコニコと笑っていた。
満足そうな顔をする誠さんに『今度からは誠さんって呼ぼう』と考えていると
「慎吾可愛いよ。…そういえば奏多と何、楽しそうに話してた訳?」
と嫉妬丸出しに聞かれ、実は俺ってば愛されてる?と笑った。

「お礼と、先輩への愛を語ってきました」
「え?何それ!超聞きたい!」
一気に機嫌が治った誠さんに「俺と奏多くんだけの内緒です」と人差し指を唇に寄せ、俺はクスリと笑った。






補足

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