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▼ こっち向いて、先輩6

「突然なんなんですか、もう!今日1日ゆっくりしようと思ってたのに!!」
ついさっきメールを送ったばかりだというのに、急いで来てくれたのか、少し息を乱しながら奏多がやってきた。

「僕だって暇じゃないんですから!
大体呼び出し方も、ただメールで『至急来い。いつものところだ』って書いてあるだけで意味がわからないし!」
「……」
「って、おーい誠司さん!聞いてますか?……誠司さーん?…本当にどうしたんですか?なんでそんな死にそうな顔してるんです?」
俺の顔を覗きこんでくる奏多をチラッと横目で見たあと、俺は目の前のカウンターにバタリと突っ伏した。

「…俺もうダメだ。死ぬわ……」
「は?いきなり何言ってるんですか」
「…吾に…わ…た」
「え?聞こえませんよ」
「だから、慎吾に嫌われたって言ってんだよ!!!!!!」
バンッとテーブルを叩きながら俺は勢いよく身体を起こし、突然の事に驚いて目を丸くする奏多に気にせず、俺は溜まりに溜まったものをぶつけるかのように話し始めた。

「この前みんなでバーベキュー行っただろ?なんかあの後から慎吾と全然連絡が取れねぇんだよ。
いや、正確には取れてるんだけど、いつもメールばっかで、電話には出てくれねぇ…。
何回かメールで『今電話してもいい?』って聞いても、その度に『今電車の中で…』って色々理由つけられては断られるし、『遊びに行こう』って誘っても、『予定が…』って言われんだよ。
もうこれ嫌われてるよな?俺、慎吾に何かしちゃったのかな?
もう無理。慎吾に会いたい。慎吾に会いたすぎて死ぬ。慎吾ー…慎吾ー」
慎吾に会いたいと嘆き、「先輩がこんなに悩んでんだからお前も何か手伝え」と言うと、奏多はテーブルに頬杖をつき、しごく呆れた顔で俺を見つめていた。
それはもう『バカだバカだとは思っていたけど、ここまでバカだったとは…。いやマジなんでこんな奴が自分より年上な訳?ありえないだろ』と目で語るほどの呆れ具合で、俺の心はさらにダメージを受けた。



慎吾を誘う目的でバーベキューを計画し、久々に慎吾とは会え、みんなともワイワイ出来たのが楽しく、調子に乗って俺は酒を煽りまくってしまった。
そのせいで気が付いた時には外は真っ暗で、俺は優の車の後部座席に奏多と並んで座っていた。
慎吾は?と助手席を見ると、そこにも慎吾はおらず、運転している優に慎吾はどこだと聞くと、違う車に乗ったと聞かされた。
なんで!?慎吾!!!と項垂れ、このどうしようもない気持ちを拳に込め、寝ている奏多を殴った。

行きは慎吾の膝枕を堪能し、ニコニコと俺に笑いかけてくれる慎吾が相変らずすごく可愛くて幸せだったのに、なんで帰りは可愛くねぇ奏多が隣にいるんだよと苛立つ。
結局その日はもう慎吾とは会えず、俺の気持ちは行きとは反対に、家に帰り着いた時には深いため息をつくほど下がっていた。
バーベキューをしている間は酒のせいで始終ほわほわし、慎吾と一緒にいた覚えはあるが、途中から記憶がない。
また日を改めて二人きりで遊ぼうとその日は決めて、次の日の朝いつ遊べるか聞こうと慎吾に電話をかけたが、いつもは直ぐに電話に出てくれる慎吾が、今日はいくら電話をかけても出てくれなかった。
変だなと思っていると慎吾から『どうかしたんですか?』と用件を聞くメールが入ってきて、それに『次いつ一緒に遊べるかなって!いつ暇?』と送ると、『すいません。夏休みの間は祖母の家に行くので、夏休み明けるまでそっちには帰らないです』と返ってきた。
それを見た俺は絶望し、その日1日自宅に引きこもり、現実から目をそらした。
だけど慎吾と会えない事実は変わらず、電話だけでもと何度か連絡を取ろうと試みたが、それも色々理由をつけられては断られた。
信じたくはないが、たぶん俺は慎吾に避けられている。

前に俺のせいで避けられていた時以上にそれは堪え、とうとう日常生活にまで支障をきたし始めた。
慎吾の事を考えると痛いほど胸が苦しく、食事も喉を通らず、慎吾に嫌われたのかなと不安で眠れない。
頭の中は始終慎吾でいっぱいで、今すぐにでも会いたいが、何故避けられているのかすらわからず、理由を聞くのも怖い。
理由を聞いてハッキリと嫌いだと告げられたら、俺はもう二度と立ち直れない気がする。
避けられててもまたきっと夏休みが明ければ話は出来なくとも会えるはず。だけどそれは俺が保たない。

「メールは返してくれてるんですよね?じゃあ別に電話できなくてもいいじゃないですか…」
「電話じゃなきゃ嫌だ!電話じゃなきゃ慎吾の声聞けねぇじゃん!!慎吾の顔が見れないなら声だけでも聞きたい」
再び奏多は呆れた顔をした。

「どうせ誠司さんが何かして怒らせたんでしょ?じゃあもう、メールで『別れるのだけは嫌です。会いたいです』って送ればいいじゃないですか」
グズグズしてていつもよりウザいです。と言う奏多の言葉に俺は引っかかる。

「は?別れる?誰とだよ」
「え?付き合ってるんですよね?慎吾くんと」
「え?」
「え?」
「なに言ってんの?付き合ってないけど?」
ありえないと言いたげな驚いた顔を奏多はするが、驚いてるのは俺も一緒だ。
こいつは何を言ってんだ…

「だって…誠司さん、慎吾くんのこといつも特別扱いしてるし、『可愛い可愛い』ってデレデレのベタベタだし、ピアスも独占欲強すぎてキモいし、それに慎吾くんだって『よく誠司さんと付き合ってられるね』って聞いた時否定してなかったし…え?え?」
何故かテンパり始める奏多に『落ち着けよ』と言うとこちらを向き
『なんであれで付き合ってねぇんだよ!!!!!!』と半ギレされた。
驚き若干ビビっていると、少し落ち着いたのかゆっくりと奏多は喋り始めた。

「…はぁ、一旦よく考えてみてください、誠司さん。あなたは慎吾くんのことが好きなんですよね?」
「もちろん。」
「慎吾くんの事を特別扱いしてるって自覚はありますよね?誠司さんって元々スキンシップが多い人だけど、僕とか他の人には抱き付いたりしませんもんね?」
「お前らに抱き付いたって気持ち悪いだけだわ。」
「じゃあなんで慎吾くんは気持ち悪くないんですか?」
何故そんなことを奏多は聞くのかわからず、俺は首を曲げながらも答える。

「慎吾はいい匂いするし、それに触りたいから」
「触りたいってなんでですか?」
「なんでって…なんでだ?」
よくよく考えればいつも俺は異常なスキンシップを慎吾にしている。
だけどどれもこれもしたいからしているとしか答えられない。

「他にも、誠司さんはよく慎吾くんを可愛いって言いますけど、男に対してそれは変じゃないですか?慎吾くんより僕の方が背は低いですけど、僕のことも可愛いなんて思いますか?」
「は?お前のこと可愛いなんて思ったことねぇし、生意気だし全然可愛くないわ。」
「じゃあなんで『触りたい』『可愛い』って慎吾くんにだけ思うんですか?」
「特別…だから?」
「最後に…誠司さんが慎吾くんにしていること、他の人も慎吾くんにしていたらどう思いますか?」
俺が慎吾にしていること…
メールや電話をする。
一緒に遊びに行く。
手を繋ぐ。
膝枕してもらう。
ピアス穴を開けてないのを知っててわざとお揃いのアクセサリーを買い、自分の手で慎吾の耳に穴を開ける。
後ろから抱き付いて、慎吾の首元に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。
色んな事を思い浮かべ、それを全部自分じゃない他の誰かに置き換えて考える。

「…殺す。慎吾は俺のだから。慎吾に指一本だって触れさせない。慎吾が他の誰かに笑いかけてるだけでもイラつく…」
ふつふつと湧き上がる負の感情に、俺の中がいっぱいなった。
速水と慎吾が仲良くしてるだけでもイライラするのに、俺と同じ事を他の奴が慎吾にするなんて、絶対に許せる訳がない。

「特別だって言っても、後輩に対してその感情が異常だってことぐらい、誠司さんもわかりますよね?
それに触らせたくないって、いつか慎吾くんだって恋人が出来るだろうし、誠司さんにそんな権限ないですよ」
「……慎吾は俺の事大好きだから恋人なんて作らない。」
「は?どういう意味です?」
「慎吾は高1の時からずっと俺の事が好きで、俺と仲良くなりたいからってこの大学に入ってきたんだよ。」
奏多に言われてようやく気付いた自分の気持ちに少し動揺はあるが、慎吾が俺のことをそういう意味で好きだと知っているから、さっきまでの負の感情は何処かへ行き、今は少し余裕も出てきた。

ふと奏多が静かだなと隣を見てみると、見るからに奏多は怒っていた。
「ふざけんじゃねぇ!お前、慎吾くんが自分の事好きだってわかっていながら自分の気持ちには気付いてなかったのかよ。
相手からの絶対の好意にずっと甘えて浸ってるとか一番タチ悪いし、慎吾くんが可哀想だろうが!
……高校の時から誠司さんの事好きだったとしても、今も慎吾くんが誠司さんを好きかなんてわかりませんよ。現に今、避けられてるんでしょ?
それにさっきから言おうか迷ってたんですが、向かい側の店にいるのって慎吾くんですよね?他の男といますよ?
誠司さんが慎吾くんに甘えすぎてて自分の気持ちに自覚してないからこういうことになるんですよ。あーあ僕、知らない」と言って奏多は席から立ち上がり、去ってしまった。

生意気だが普段どんなに俺がふざけたことをしても本気では怒らない奏多を、本気で怒らせてしまったと思うが、それよりも奏多の言っていた言葉に思考が止まる。
慎吾がいる?なんで?今はお婆ちゃん家にいるからこっちには居ないって言ってたのに……もしかして慎吾に嘘つかれた?
奏多の分も払い店を出て向かいのカフェへと入ると、慎吾と何故か優が一緒に居た。


「何してんの慎吾」
「せん…ぱい?」
「俺とは会えないのに、なんで優とは会ってるわけ?説明してくんない?」
「……」
「なんで黙って俯いてんの?俺には言えないことなわけ?」
チッと舌打ちをして優を見ると、顔色一つ変えず座っていた。

「お前もさ、なんで慎吾といるんだよ。まさか今までも俺の知らない所で会ってたわけ?……許さないからな。慎吾は俺のだ。慎吾は俺だけを見てればいい。俺だけを好きでいればいい。他はいらないだろ?」
渦巻く黒い感情は止まることがなく、口からは次々に慎吾と優を攻め立てる言葉が出てくる。

「…慎吾、行くぞ。」





自分の家へと連れて行き、自分のベッドに慎吾を押し倒す。
首元に顔を埋めると、香水と慎吾自身の匂いがして、少し気持ちが落ち着く。
だけどまだまだ苛立ちは収まらず、慎吾が抵抗しない事を良いことに、唇を合わせ、息を奪うかのようにかぶり付いた。
『んっ…』と甘い声を出す慎吾に俺は気を良くし、片手を服の中に入れると一種ビクッと慎吾の身体が震えたが、直ぐに自分から俺の手に身体をすり寄せてきた。

唇を離すとトロンとした慎吾が俺を見つめていて、俺しか見えていない慎吾に、俺の先ほどまでの苛立ちは何処かへ行き、ニッコリと笑いながら『慎吾、良い子だね』と頭を撫でてあげた。
「好きだよ、慎吾。可愛い。だけど俺に嘘ついて、他の男と一緒にいたのは許さないよ?ちゃんと慎吾は俺のだって自覚してもらわなきゃね」

さて、最後までヤッちまうかと慎吾の下半身に手を持って行ことしたが、その途中で手を止められた。
ここまで来てやめるなんてないだろうと慎吾を見ると、何故か無言でポロポロと泣いていた。
尋常じゃない程出てくる涙に驚き、「慎吾どうしたの?勢い良く押し倒したからどっか痛いところある?それとも無理矢理で嫌だった?もしかして怖かった?ごめんね、泣かないで」とオロオロしてしまう。
必死で慎吾から出てくる涙を拭うが追いつかず、切りが無い。

どうしようと困っていると、ギュッと裾を慎吾に握られ、引っ張られた。

「どうしたの?慎吾」
「…もう一回言ってください…『好き』って……」
「え?うんいいけど?…好きだよ慎吾。」
相変わらず無言で先ほどよりさらに涙を零す。

「先輩………涙が止まらないです。嬉しくて、…どうしたら…」
「え?うーん、じゃあ枯れるまで泣いちゃえ」
「はい。……あの、俺も先輩のこと好きです。出来ればこれからもぜひ仲良くしてください!!」
「え?」
「え?」
「あれ?なんか勘違いしてるみたいだけど、そういう先輩後輩って意味の好きじゃなくて、恋愛的な意味での好きなんだけど?」
え?という顔をした後、手で口元を抑え、少し収まりかけていた涙が再びドバドバと出てきた。

「嘘だ…そんな訳ない」
「嘘じゃないよ。ホント。待たせてごめんね。自分のことなのに、周りに言われるまで全然自分の気持ちに気付いてなかったんだ。慎吾、好きだよ」
泣き止まない慎吾の目元を軽くキスをすると、恥ずかしそうに、だけど何処か嬉しそうなくしゃくしゃの顔で笑った。

「ん。……あ…い」
鼻が詰まっており、上手に声を発せないのか、おかしな返事が返ってきた。






補足

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