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▼ 憎まれっ子世に憚れ

幼馴染のあいつはそれはもう横暴って言葉じゃ収まりきるような奴じゃなかった。
あいつの両親を始めとし、隣の家に住んでいた俺や、そしてあいつに関わる奴全員に毎日のように迷惑をかけていた。

『あれが気に入らない…これが気に入らない。』と全てを口に出し、自分の意見を無理矢理にでも突き通す、ワガママな我慢を知らない男だった。
そのせいで周りからはとても憎まれていたが、あいつは逆にそれを『吠えることしか出来ねぇ負け犬が』と笑っていた。
あいつの迷惑を被る俺も何度か本気であいつを殺そうと思ったが、生涯それを実行することはなかった。
それに今思えばなんだかんだ俺はあいつのことが結構好きだったのかもしれない。
『迷惑だ、嫌だ』と思いはしながらも、俺とあいつは物心着いた時から小中高大と同じところへ通い、そして就職先も一緒だった。

俺達は年を取り、あいつの両親が死に、俺の両親が死に、そうやって長い年月が経ったがそれでも俺達は一緒にいた。
どちらも年を取っても結婚はおろか恋人も出来ず、気付けば俺達はおっさんになり、俺は医者からあと数ヶ月の余命だと宣告された。
まだ今の時代じゃ死ぬには早い年だったが、ガンなら仕方ない。
ただ心残りなのは、あいつをこの世に1人残すこと。


「いい年したおっさんが泣くなよ…」
「うるせー。俺はお前に死んでいいなんて言ってない」
「最後の最後までお前はワガママだな。俺の命、あと数ヶ月なんだぞ。もう少し良いこと言えよ。」
「…俺様の言うことが絶対だ」
お互い皺くちゃになったが、それでも昔と同じような会話を今でもし続ける。

「…今まで見たことなかったお前の涙に、だいぶ俺、動揺してんだけど。…おっさんになって涙もろくなってたんだな」
「お前がもう死ぬなんて言うから…だから俺は…」
はぁとため息をつく。
あいつに言ったところで、鼻で笑われ、『ざまぁみやがれ』と言われるだろうなと予想していたが、それは見事に裏切られ、こんなにも泣かれるとは……

「俺の心残りはお前を1人、この世に残すことだよ…結局お前、嫁も子どもも居ないし、俺が死んだら一体どうすんだよ」
「…俺もお前と一緒に死ぬ」
なんだかんだ俺があいつを好きなように、あいつも俺の事が相当好きだよなと内心笑う

「なぁ…、自覚あるかはどうか置いといて世間一般から見て、お前は憎まれっ子なんだよ。
そんでな、こんなことわざがある。…『憎まれっ子世に憚る』。確か図々しく性格悪いやつほど出世したり幅を利かせたりと世間を図太く生きるとかそんな意味だ。」
「……」
「……だから俺からの最初で最後のお願いだ。…憎まれっ子世に憚れよ」




俺が死んで、あいつは枯れるほど泣いたらしい。
そして昔から秘めていた想いを、俺に最後まで言わなかったことを、とても後悔したと。
だけど俺からの最後の願いで、あいつは社長にまで上り詰め、そのうえ図太く100歳まで生きた。
俺がいない世界で無駄な時間を過ごしたと言うが、俺のお願いを聞いてくれたあいつに、実は俺はすごく愛されていたんだなと今更ながら実感した。





「また会えてよかったな」
「俺様だからな」
「…昔から『俺様だから』って言うけど、おまえって何な訳?まさか神様なの?」
「俺様だ。」
「…バカすぎてむしろ愛しいわ」
「そりゃどーも」
死んだあとの次の世でまた俺はあいつと会った。
今回も俺達は家が隣の幼馴染同士。
どちらも前世の記憶があり、前世と変わったことと言えば、あいつが俺に想いを告げなかったのを後悔し、当時2歳だった俺に告白してきたこと。
前世では薄々あいつの気持ちには気付いていたが知らんぷりした。
ちょっとした意地と、あいつに振り回されていた仕返しで。


「今世も、憎まれっ子世に憚ってくれな」
「ああ、その代わりお前も長く生きろよ」
「それはまぁお前次第だよ」






補足

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