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▼ 不良×不細工3

リクエスト



「松本ってさ、黒井と付き合ってんべ?」
「なっ、ななな!!!」
授業と授業の合間の休み時間に、肩を叩かれ振り向くと、後ろの席の玉川(たまがわ)くんに突然そう言われた。

玉川くんの口元を慌てて両手で押さえ、左右を確認する。
運の良い事に誰も僕達の話を聞いていた人はおらず、ホッと胸を撫で下ろし、玉川くんの口元を押さえていた手を離す。
そしてコソッと玉川くんに顔を寄せ『なんでわかったの?』と聞くと、やっぱり!!という顔をした後
『前々から黒井が松本の事を見てんのは知ってたんだよね。んで前まではスゲー切なそうな顔をして松本のこと見てたのに、最近じゃいつも緩みきった顔してるからもしかしたらって思ってさ』とキラキラした笑顔で言われ、口が半開きになる。

「あとなんか着々と松本が雌犬化してたから」
「雌犬…!?」
「こうなんて言うの?松本ってパグとかそういう犬っぽい可愛さがあったんだけど、それに加えて最近艶っぽくなってきて、まさに雌犬だなと」
玉川くんの言葉に惚けていると授業の始まりの鐘が鳴ってしまい、僕達の会話は一旦区切られた。






「黒井くん…僕って雌犬かな?」
「ばっ!何言ってんだよ!!!!」
一瞬で犬耳を付けた松本を想像し、そんな妄想をしてしまった自分を誤魔化すために声を張り上げる黒井くんの気持ちも露知らず、僕は喋り続けた。

「その…今日クラスメートに雌犬っぽいって言われて…。僕ってそんな犬っぽいかな?」
不安を黒井くんにぶつけるが、黒井くんは僕の方を見てくれず、視線を逸らす。

「黒井くんも僕の事、盛りついた雌犬だと思ってる?」
あのあと犬の意味はわかったが、なんで雌犬なのかと玉川くんに聞くと
『黒井を見る目が艶っぽいのもそうなんだけど、なんか最近の松本って、盛りついた雌犬みたいなんだよね』と言われた。

その言い方じゃまるで僕がえっちな人みたいに思えるじゃないか。
確かに黒井くんの事は大好きだし、もっと僕に触ってほしいとも思っている。
黒井くんから触ってもらったのも、突然キスされたあの1回だけで、黒井くんに付けてもらった噛み跡も、既に消えて無くなってしまった。
だから玉川くんの言う通り僕は盛りついた雌犬なのかもしれないけど、玉川くんの言い方に僕は納得できない。

そっぽを向いたままの黒井くんに、僕は『むーっ!』と口を膨らませる。
そもそも盛りついた雌犬だって思われるのも、僕はこんなに黒井くんに触ってもらいたいと思っているのに、肝心の黒井くんが僕に触るのを我慢しているのがいけないんだ。
僕は既に準備万端なのに、黒井くんが何のアクションも見せないから!
だから僕は盛りついた雌犬だって思われちゃうんだ!!!

「…黒井くんのバカ。黒井くんのせいなんだから……」
そう言って僕は黒井くんと別れた。






昨日の事でまだモヤモヤしながらも授業を受けていると、肩を叩かれた。

「…何?」
コソッと小さい声で後ろを振り向き、玉川くんに聞くと
「黒井となんかあった訳?さっき黒井と同じクラスの友達から、黒井がすっげぇ機嫌悪いって聞いたんだけど、お前となんか関係あんの?」
「……知らない…」
そう言って、ふんっと前を向くと、また背中を叩かれた。

「喧嘩でもした?」
「別に…。ただ僕が一方的に黒井くんにムカついてるだけ」
「ふーん…なんで?」
「なんでって……」
ちょうど授業の終わりの鐘が鳴り、はぁとため息を着き、身体ごと後ろへ向けた。

「僕が盛りついた雌犬になってんのも、黒井くんが我慢ばっかして、全然僕に触ってくれないから…
…だからなかなか僕に触ろうとしない黒井くんにムカついて……」
「え?それマジで言ってる?」
何がマジなんだよと、僕は玉川くんを睨み付けた。

「くだらねぇ喧嘩の理由だなって思うけど、その前に松本の考えっておかしくね?なんで黒井からの接触待ってる訳?お前も男だろ、黒井からの接触待たないで、お前から接触すればいいじゃん」
玉川くんの言葉に僕の口はポカンと開かれた。

「手とか触ってみれば?結構それだけでもグラグラ来るし、なんなら自分からキスしてみるとか。」
「…すごくいい考えだけど、それこそ盛りついた雌犬っぽくない?」
「既に松本は盛りついた雌犬っぽいから変わらないよ。大丈夫、自信持って。」
そう言ってキラキラとした無邪気な笑顔を見せる玉川くん。

「全然褒めてないよ、それ。…だけどありがとう」
玉川くんの言う通り、黒井くんからのを待つんじゃなくて、僕から行けばいいんだ。
玉川くん曰く、僕の盛りついた雌犬加減は変わらないそうなので、今更どんなことしても大丈夫らしい。






昼休みの始まり鐘が鳴り、鞄からお弁当を取り出して、いつも通り黒井くんとお昼を食べてる空き教室へと向かった。

ガラガラと教室の扉を開けると、既に教室の中に居た黒井くんとバチッと目があった。
驚いた顔をする黒井くんとは反対に、僕はニコッと笑った。

「おはよう、黒井くん」
「あぁ、おはよう。……その、昨日は……」
「昨日はごめんね、突然あんな事言って帰っちゃって。」
さっきまでの暗い顔はどこかへ行き、見るからにホッとした顔を浮かべる黒井くん。
昨日、僕は黒井くんのことを『バカ』と言って帰ってしまったから、もしかしたら黒井くんは怒ってるかもと思っていたが、それは杞憂で終わり、僕も安心した。



「今日のお弁当の卵焼きね、上手に作れたんだ」
いつもは黒井くんと対面した形でお昼を食べていたが、今日は黒井くんの隣に僕は腰を下ろした。
僕が隣に座ったことで黒井くんが若干固まったが、気にせずお弁当を広げ、お弁当の中に入っていた卵焼きを箸で掴み、黒井くんの口元へと持って行く。
動揺している黒井くんに気付きながらも僕はそれを知らんぷりをし、
『あーん』と言うと、ゆっくりとだが黒井くんの口が開かれた。
モグモグと卵焼きを黒井くんが食べるのを見守りつつ『どうかな?』と聞くと『美味い』とだけ返された。
『それならよかった』と言いつつ、その箸で僕も食べ始めると、黒井くんの視線が僕の口元に集中しているのを感じた。
『どうしたの?』とわかっていながらも声を掛けると、顔を赤くしてバッとそっぽを向かれた。
またそれだ…!と思いつつも、
今日の僕は、いつもの待ってるだけの僕じゃないんだからなと気合いを入れる。

「黒井くん…」
黒井くんの手の上に僕の手を重ねると、驚いたのかビクッと震えた。
だけど構わず指を絡める。

「あのね僕、黒井くんにお願いがあるんだ」
やっとこちらを向いた黒井くんに僕はニッコリと笑い、誰も居ない空き教室だが、僕はあえて黒井くんの耳元に口を持って行き、コソッと小さな声で喋る。


「今日ね……僕、黒井くんの家に行ってみたいな…」


『ダメかな?』と後押しするように言うと、『いや……大丈夫』と再び目を逸らされながら言われた。
『本当?嬉しい。今から放課後楽しみだな』と僕はさらに絡めた手をギュッと握った。

「ありがとう、黒井くん」
そう言って隣でそっぽを向く黒井くんの頬っぺたに、チュッと軽いキスをした。


鼻歌交じりにお弁当を食べる僕と、怖い顔をしながらパンを齧る黒井くん。
空き教室から出るまでおよそ40分間、僕は黒井くんの手を離さなかった。






補足

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