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▼ こっち向いて、先輩9

リクエスト


『やっぱり先輩が好きです』
ーーーーーー
本鈴ギリギリで教室へと滑り込むと、全学共通の授業ということもあり、すでに教室は人でいっぱいになっていた。
教室を見渡し、なんとか空いている席を見つけ、席に座ったと同時に筆記用具を机の上に出し、教壇を見ると前方の席に友達と一緒にいる誠さんを見つけた。
この授業被ってたんだなと、嬉しさで自然と顔が綻んでしまった。


夏休みの後半は、ほとんどを誠さんと共に過ごした。
未だにあの誠さんと付き合えてるのは夢なんじゃないかと疑うほど、誠さんと過ごせる毎日は楽しくてたまらない。
スキンシップの多い誠さんによってデート中、手を繋いで歩いてみたり、人目がないところで影に隠れてキスしてみたりと恋人っぽいことを少しずつするようになり恥ずかしく、だけど嬉しい夢のような日々が続いている。
本当は自分から誠さんに触れてみたり、誠さんを喜ばせてあげられることをしたいが、今の俺にはまだまだそんな余裕はなく、誠さんと一緒にいるだけでもうドキドキしっぱなしだ。
だけどその癖できるなら誠さんとその先まで早く進みたいと思っている自分の傲慢さに思わず笑えてしまう。
そもそも誠さんが男の俺に興奮してくれるかすらわからないというのに。

だから少しずつ。ほんの少しずつでいいから誠さんとの距離をゼロにしていきたいなと今はそう思っている。



初回の授業ということもあり、講師が授業要項に書いてあることを確認のため復唱しているが、既に要項は読み込んいる俺には暇な時間。
そのため視線は自然と誠さんへと向かった。

右隣の人はよく誠さんと一緒にいる先輩で、何度か俺も話したことある人だった。
だけど誠さんの左隣の人は初めて見る人。
きっとこの授業で初めて会って仲良くなったんだろうなと予想し、ツキンと胸が痛くなった。
誠さんはフレンドリーな人だから誰とでも直ぐに仲良くなれる。
そんな友達いっぱいの誠さんを見ていると、すごいなと憧れる気持ちもあるが、その人に誠さんを取られるんじゃないかと不安になる。
奏多くんの時みたいにすごく相性がいい人が誠さんの前に現れて、俺はあっという間にそのへんの1人になるんじゃないかと今も怖くて仕方がない。
男の俺の魅力なんてたかが知れてる。
面白い人やかっこいい人、可愛い人など魅力がある人を前にして、誠さんにその人達より俺を選んでもらえる自信なんてない。
恋人になって楽しい毎日だが、それと同時にいつ捨てられるのかと怯えてしまう。


どんどん思考が暗い方向へと向かっていることに気付き、慌ててそれらを吹き飛ばし、再び誠さんを見つめた。
1年の頃から誠さんと授業が被ることはほとんどなかったからこうやって授業中の誠さんを見れるのは本当に珍しい。
学科が違うから授業が被らないのは仕方ないが、そういえば1度だけ1年の前期の1コマが被ったことがあった。
ただの偶然だったが嬉しくて嬉しくて、その授業の時だけはいつもより早く教室へと行き、誠さんが来るのをドキドキしながら待った。
本当に懐かしい……
誠さんがくるのを待ってたのにその日は休みでガッカリしたり、突然授業が休講になり落ち込んだり、毎週すごく楽しみにしていた。

誠さんは明るく人気者だから、決まって周りには誰かしらがいたことで、ずっと誠さんに話しかけたかったが話しかけられず、いつもただただ遠くから誠さんの背中ばかり見つめた。
初めて誠さんに声をかけたのも、確かその授業の日だった。
1人で授業を受ける誠さんに、授業終わり勇気を振り絞って俺から声をかけた。
そのあとの授業は興奮から受けることができず、次の週になっても『あの時話しかけられたやつだ』って俺のこと気付くかなとドキドキしっぱなしだった。
だけど残念ながら誠さんは俺のことに気付くことはなく、ただ横を通り過ぎて行っただけだった。

結局、その後の授業でも誠さんに気付かれることは一度もなかったが、誠さんを見れるその日がとても楽しみだった。


懐かしさに浸っているうちにいつの間にか授業は終わってしまい、帰ろうかなと筆記用具をまとめていると
「あれ?!慎吾じゃん。同じ授業だったんだ」と声をかけられた。

驚いて顔を上げると誠さんが目の前におり、嬉しそうに笑っていた。
「同じの取ってたんだな。今度からは一緒に受けような」
当たり前のようにそう言って笑う誠さんに、『ああ、やっぱり誠さんが好きだなぁ』と再確認してしまった。

隣にいる先輩達より俺を選び、その上1年の時には気付いてもらえなかった俺の存在に、今は当たり前のように気付いてくれることに不覚にも目頭が熱くなってしまった。
だけどなんでもないふりをして俺は今日一番の笑顔を浮かべた。










『慎吾はわかってない!』
ーーーーーー
慎吾はどれだけ俺が慎吾のことが好きだかわかってない。
そりゃ慎吾は高校1年の時から今まで俺のことを好きでいてくれて、少なくとも5年は俺よりも気持ちが大きいのかもしれない。
だけど俺だって慎吾のことが大好きだし、それこそ慎吾の俺への気持ちにだって負ける気がしないぐらい好きだ。
それなのに慎吾はことあるごとに俺の様子を伺ってくる。
それはすごく可愛いし、そんなに気にしなくても俺は慎吾と一緒だったらなんでも楽しいし嬉しいのにと思うが、慎吾は俺の気持ちによく不安がっている。
俺が友達と会えば遠慮して離れようとするし、女の子と話すと悲しい顔するくせに何も言わずに我慢する。
そんな姿もいじらしく可愛いが、もっと自信を持って欲しい。
それこそ俺の懐が小さいせいもあるが、慎吾が友達と楽しそうに話してたり、女の子と並んで歩いてるだけでも俺は直ぐに嫉妬する。
俺はめちゃくちゃ慎吾のことが好きだし、正直慎吾以外見えてない。

だからそろそろ俺が慎吾のことが好きすぎることを本人に自覚して欲しい。







補足

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