短編2 | ナノ


▼ 俺と彼とその彼女2

俺はあの日、強引にキスをされ、無理矢理身体を開かれた。
愛のないその行為に、虚しさの涙が次から次に溢れ出し、だけどそれと同時に、心の隅では彼との行為に喜んでいる自分がいた。

何故彼は俺にあんなことをしたのか…
そもそも彼も千里ちゃんもお互い恋人が居るのに、何故俺を…
考えてもわからない疑問と、無理矢理身体を開かれたせいで、俺は数日間熱を出し、学校を休んだ。





「紘弥くん。おはよう…」
「千里ちゃん、おはよう。熱が出てだいぶ休んじゃってたから、すごく久しぶりだね」
「う、うん」
お互いぎこちなく挨拶をし、お互い何か喋り出そうとしたが、その前にタイミング悪くチャイムが鳴り、
『またあとで』と言ってお互い自分の席へと戻った。

どれだけ考えても答えは出なかった。
いっそのこと何もかも捨てて、千里ちゃんと付き合えたら幸せかもしれない。
そう思っていても、たぶん俺にはそれは出来ない。
どんなことをされても、どんなことを言われても、既に恋人がいても、俺はやっぱり彼の事が好きだから…



「ごめんね…返事が遅くなっちゃって。…本題だけど、俺は千里ちゃんとは付き合えない。」
「…そっか……」
「うん、ごめん。……ねぇ、なんで千里ちゃんは俺に告白してきたの?千里ちゃんには恋人が居るのに…」
俺の返事を聞いて泣きそうになっている千里ちゃんを見ていられず、聞きたかった事を聞くことで、少し話題をそらす。

「幸人と私ね…最初から付き合ってないんだ」
「えっ…?」
「幸人って凄いモテて、彼女が出来ても周りからの嫉妬で長続きしないの。だから私が表では幸人の彼女だって名乗って、本当の彼女には被害がいかないようにしているの」
まぁでも本当の彼女とは数日前に、別れたって言ってたけどね

千里ちゃんの言葉に目を見開き、徐々に俺の目からは涙が出てきた。
「…ごめんね、ごめんね千里ちゃん。俺……」
千里ちゃんには悪いことをした。
彼女は彼の恋人の為に身代わりになり、周りからの嫌がらせにずっと耐えていた。
俺も勝手に千里ちゃんに嫉妬をし、本当の恋人じゃない千里ちゃんに嫌がらせをしていた。
なんて彼女に詫びたらいいのかわからない。
『ごめんね…』とひたすら言う俺に、戸惑いながらも、ゆっくりと千里ちゃんは俺の話を聞いてくれた。





「待って…それって、幸人に強姦されたってこと?!」
俺が彼の事を好きだということや、千里ちゃんに嫌がらせをしていたということではなく、何故千里ちゃんは俺が彼にされた事に怒り始めた。

「嫌がらせして、ごめん。女の子には優しくしなきゃいけないのに…」
「いいよそんなの!!!嫌がらせなんて慣れてるし、紘弥くんの嫌がらとか、他と比べればすごく可愛やつだったし。…それに紘弥くんはいつも私のことを助けてくれてたじゃん」
ニコッと笑う千里ちゃんはやっぱり強い子で、男の俺がウジウジと泣いているのがみっともないと自分でも感じる。

「それよりさっきの話に戻るけど、紘弥くんは幸人にムカついてないの?あいつのこと今から犯しに行く?私、なんでも手伝うよ!!!!」
「…千里ちゃん?」
「紘弥くんの身体を傷物にするなんて幸人の奴、絶対許さない。」
俺の涙を千里ちゃんは袖で拭い、強い眼差しで『行こう紘弥くん』と俺の腕を引っ張った。





住宅街に連れて行かれ、とある一軒家の前に止まると、千里ちゃんは鞄の中から鍵を取り出し、その鍵で家の扉を開けた。
「千里ちゃん?ここって…」
「幸人ん家」
そう言って玄関で靴を脱ぎ捨てて、ドタドタと音を立てながら上へ登った。
慌てて俺も靴を脱ぎ、『お邪魔します』と言い、千里ちゃんの行った方へと向かうと、ある部屋から大きな声が聞こえた。

「ってぇ…!!何すんだよ千里ねぇ」
「聞いたわよ。あんた、紘弥くん強姦したんだって?!」
「は?なんで千里ねぇがそれを…」
ひょいっと声がする部屋を覗くと赤くなった頬を抑える彼と、その目の前で仁王立ちしている千里ちゃんがいた。

「紘弥くん来て!!!」
「あっ…はい」
「ほら幸人、紘弥くんに土下座しなさい。『俺風情が紘弥くんを傷物にしてすいません。俺の尻も好きなようにしてください。』と謝りなさい」
千里ちゃんの勢いに俺まで圧倒され、千里ちゃんの言うことを聞くことしか出来ないが、彼への言葉に俺まで慌てる。

「千里ちゃん!?俺は別に土下座も謝罪もいらないよ?」
「…じゃあ1発、殴っとく?」
「殴らないよ!!!!」
「しょうがない…私がもう1発殴っておくね」
そう言って赤くなってる彼の反対の頬を千里ちゃんは勢い良く殴った。

「千里ねぇ!!!」
「あんたのせいで私、失恋したんだから自業自得よ。あー、スッキリした!!!私邪魔者みたいだし、帰る」
そう言って嵐のようだった千里ちゃんは帰って行った。

無言の空間の中、こんな近距離にいる彼に口から心臓が飛び出そうになる。
自分がこんな女々しい男だったなんて、彼を好きになって初めて知った。
男なのに弱い自分ばかり見つけてしまい、情けない。


「あんたをヤッた事…後悔してねぇから」
彼の声に顔をそちらに向けると、何故か口をとんがらせながらそっぽを向いていた。
「だから謝んねぇ」
「……なんで俺を」
やっとのこと絞り出した声に、彼は俺をチラッと見た後、またそっぽを向く。

「身体だけでもいいから、あんたを俺のもんにしたかった…」
千里ねぇがなかなか待ち合わせ場所に来なくて、千里ねぇの教室まで行った時、千里ねぇとあんたが仲良く話してた。
それからあんたの事がだんだん気になるようになってて、あんたの弱味を見たときは歓喜したよ。
あんたを俺の物に出来るかもしれないって……だけどあれからあんたを見つけられなくて、徹底的に俺はあんたに避けられてるんだと…

そう語る彼に、俺はどうすればいいのかわからない。
彼は何を言っているのか。
俺の都合の良い解釈ばかりが頭を支配していく。

「俺には…好きな人がいます」
俯きながらも俺は喋り出した。

「相手は男で、既に彼には恋人が居ます。」
黙って聞いてくれる彼に俺はさらに言葉を続けた。

「どうしようもなく好きで、自分が女の子だったらスタート地点に立てたのにと何度も思いました。
そして彼の恋人がとても羨ましく、毎日毎日俺は彼女に嫉妬し、彼女に嫌がらせをしていました。嫌がらせをすることで、自分の醜い感情を解消させるために…」
だけど彼女は良い子だった上に、本当は彼の恋人ではありませんでした。

先の見えない俺の話に、彼は不思議そうな顔をしだしたので、俺は決定な言葉を落とした。

「俺が嫌がらせをしていたのは…千里ちゃんです。最近はしてなかったんだけど、あの時嫉妬に任せて久しぶりにしちゃった時に、君に見られたんだ……」
やっと意味を理解したのか、彼は目を大きく開かせ、目をパチクリさせた。

「それって……俺は自惚れて良いってこと?」
無言で頷くと、彼は俺の正面まで来て腰を下ろした。
そして深々と土下座をした。

「さっき言った通り後悔はねぇ…だけど怖かった。あんなことをして、あんたに嫌われたかもしれないって…だからもう一度俺に最初からやり直させてくれ」




「初めまして、俺は2年の矢野紘弥です」
「……初めまして…1年の柊幸人っす」






補足

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