短編2 | ナノ


▼ ファン×少女漫画家

素敵な世界だなと思った。
カッコイイ男の子に可愛い女の子、その2人がお互い悩みながらも恋していく話。
時にはすれ違い、喧嘩をし、思いが通じ合わないこともあるが、
最後にはみんなが笑顔になる、そんな話が僕は大好きだった。

昔からどこか乙女思考で、少女漫画が好きだった僕が、まさか趣味で描いていた漫画が大賞を取り、それがキッカケで漫画家になったのはもう数年も前の話。


「…高木さーん!僕の漫画って本当に面白いんですかね?」
半泣きになりながら担当の高木さんに電話をすると、受話器越しにため息をつかれた。

「…やっぱり面白くないんだー!!だから売れてないんだー!!!」
締め切りまであと残り1週間をきり、全然ネタが浮かばず原稿が進まないことや、本当に自分の作品は面白いのかと不安は募る一方だった。

「そんなこと言って無いですよ。泣かないでください。
それに本間(ほんま)さんの描く漫画はとても面白いですよ。自信持ってください。」
「…本当に?…そっかごめんね。うん…ありがとう高木さん。僕、もう少し頑張ってみる」
「はい。それでは期限までに、原稿お願いしますね」
ツーッツーッという機械音が鳴り、切られた音を確認してから僕も電話を切った。




好きで始めたことで、それを仕事にしてご飯を食べていけてる僕はきっと幸せ者なんだと思う。
だけど漫画を描けば描くほど『これでいいんだろうか』『これは面白いんだろうか』『僕が描く漫画なんて…』と思うようになった。
僕以外の漫画家さんは僕より絵が上手くて、話の展開もすごく面白い。そんな人達の隣に自分の漫画が並べられているのを見ると辛くて、自分の才能の無さを突き付けられる。
その癖、人一倍才能のある漫画家さん達に嫉妬してしまうので、僕はもう……

机に向かってても余計なことばかり頭に浮かび、手が進まない。
はぁと息を着き、気分を変えようと外へ出た。





気分を変えるために外へ出てきたは良いものの、特に行きたい場所もしたいこともなく、何故か足が勝手に近所の本屋へと赴いてしまった。

扉の前で入るかどうかウロウロし、『いや、今日は帰ろう』と決意したが
その瞬間センサーが反応してしまい、自動で扉が開いてしまった。
「いらっしゃいませー」と中から聞こえる店員さんの声に、『このまま去ることはできないな』とグッと気合を入れ、1歩前へ進んだ。


「あった…」
ここまで来てしまったならと思い、少女漫画コーナーへ行くと、直ぐに自分の漫画を見付けた。
漫画を手に取りまじまじと見る。

自分の作品がこうやってどこの書店にも平等に並べられているのはすごく嬉しい。
デビューから数年も経っているのに、今だにその感動は衰えず、その感動がこれからも頑張ろうという活力になる。
けれどチラッと他にも並んで置かれている漫画家さんの作品を見て、自分は何もかも劣っているなと落ち込んでしまう。

「お兄さん、少女漫画好きなんですか?」
本を元の場所へと戻そうとしていると、突然話し掛けられた。
声のした方を見てみるとそこにはニコニコと爽やかな笑顔を浮かべる青年がいた。

「えっ?あっ…はい」
「俺も少女漫画大好きなんです。」
「そう、なんですか…」
周りは僕のように、男で少女漫画が好きという人は居なかったので、男で少女漫画好きという人に出会えて少し嬉しい。

「それって本間めぐみさんの『あの日の君へ』ですよね。俺もすっごく好きなんです」
僕の漫画のタイトルを言う青年にハッとし、慌てて漫画を元あった場所に置く。

「?どうしたんですか?」
「いや…、なんでも…。その、君は『あの日の君へ』が好きなんだよね?どんなところが良いのか、よければ教えてくれない?」
「良いところですか…うーん。…全部、ですかね」
主人公の女の子の好きな人への健気な気持ちは、見てる方までドキドキして切なくて苦しくなるんですよ。
ライバルが現れても自分の気持ちに真っ直ぐで、懸命に相手に好かれようと努力する姿は純粋に可愛いなと思うし、それから…
と続ける青年の口を両手で押さえる。
…恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
こんな面と向かって作品について褒められたのは初めての事で、すごく恥ずかしい。
だけどそれと同時に、たまらなく嬉しくて仕方ない。

むぐむぐと手に違和感を感じ、慌てて青年の口を押さえていた手を離した。

「ごめんなさい。」
「いや、俺も思わず語りすぎちゃってすいません。すごく好きな作品なので、思わず我を忘れて語っちゃいました。」
「いや、それは全然…君はその、この、本間めぐみさんの他の作品も見たことある?」
僕の発言に語りすぎたと申し訳なさそうな顔をしていた青年は、僕の言葉に一気に目をキラキラと輝かせた。

「はい!!!俺、本間めぐみさんの作品を見て少女漫画が大好きになったんです。
元々少女漫画とか全然読まない方で、だけどたまたま居間に置かれていた妹の漫画を暇だったんで見てみたら、大ハマりしたんです。その時見たのが本間めぐみさんの処女作なんですよ」
自分用の本間さんの作品も欲しくて、妹が既に持っていた漫画でも、全部1から買って揃えました。
実は何度も本間さんにファンレターも送ってるんですよね
と笑う青年に、僕はもう真っ赤になった顔を上げることが出来なかった。

「…きっと、ファンにそう言ってもらえて、本間さんもすごく嬉しいと思うよ」
「そうですかね!!…あっ、また俺喋りすぎちゃって…」
「…いや、全然。むしろ僕、今日あなたに会えてすごくよかった。」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいです。あの…よかったら連絡先教えてくれませんか?男で少女漫画好きの知り合いっていなくて……」
「…はい、僕で良ければ……」





家に帰り、ケータイを見て顔が緩む。
新しく増えた名前に、行く時には鬱々しかった気分が嘘のように晴れ晴れしい気分となって、今はやる気に満ち溢れている。

自分の作品を好きだと言い、待っていてくれてる人がいる。それを知れただけで僕は頑張れる。
僕はあの人の為にも続きを描こう。

やる気が満ち溢れる今、僕の頭には次から次へとストーリーが溢れ、手も止まる所を知らなかった。







補足

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