短編2 | ナノ


▼ インストラクター×会社員3

それはふとしたキッカケだった。


「広瀬さんってフットサルとかやってそうですよね」
「そんな風に見えます?……実はたまにやりに行ってます」

フットサルチームに入ってる友人に誘われてたまに行くぐらいですけどね と笑う広瀬さんに、一瞬にして若いOLさん達に囲まれてる広瀬さんの図が頭に思い浮かび、少しだけ胸が痛んだ。

三十路を過ぎたおっさんが見たこともない若い女の子達に嫉妬するなんてと自分を嘲笑していると、「でも仕事柄毎日身体を動かしてるんで、普段は全くスポーツはしないんですよ」と広瀬さんは続けた。

「へぇ!そうなんですか」
「読書したり映画見たりとか、最近では観光地を巡るのとか好きですね。……そうだ!いつも1人で寂しく回ってるんで、今度田村さんも一緒にどうですか?」
「面白そうですね。おっさんにも辛くないところだったら是非連れて行ってください」
話の流れで社交辞令として誘ってくれたのかと何も考えず誘いを受けると、次にスポーツジムへ行った時、広瀬さんから『プランを考えたんですけどいつ暇ですか?』と尋ねられた。







「はぁ……いいおっさんが浮かれ過ぎだろ」
姿見の前でこうやってポーズを決めるのももう何度目か。

広瀬さんが連れて行ってくれたのは県内でも有名なパワースポットだった。
緑豊かな神社で、パワーを吸収しているのかはわからないが疲れた心が癒されていき、帰る頃には何処か晴れやかな気持ちになった。
それからも動物園や美味しいご飯屋さん、日本一の高さのタワーなど様々な場所へ広瀬さんと行った。

広瀬さんと遊びに行く日は前の日からドキドキしてしまい、なかなか眠れず早めに起きてしまう。
服も前日に決めたはずなのにギリギリまで再び考え直し、これでいいのかと何度も悩む。

もう広瀬さんと遊びに行くのも1回目や2回目じゃないんだから慣れてもいいのに全く慣れない。
むしろ回数を重ねるごとに広瀬さんのことをさらに好きになってしまい、前日のドキドキが酷いものへと変わっていく。

それに最近ではフィットネスクラブに休日と、広瀬さんだらけの生活になれてしまったせいか、広瀬さんに会わない日は何処か物足りないと感じるまでになってしまった。

これが初めての恋というわけじゃないのに、浮かれまくってる自分が恥ずかしく、だけど正直広瀬さんとのお出掛けはとても楽しいし幸せだ。






「今日は映画館ですか」
「はい、最近公開になった『空からの手紙』って映画が面白いと話題なんですよ」
「そうなんですか」
いつも行き先は知らされないまま連れて行ってもらってるので、着いてから今日は何をするのかを知る。
今回は一段とデートっぽいなと内心浮かれつつも、傍から見ればデートではなく、実際もそこまでデートと言えるほどでもないが、広瀬さんとすることならなんでも楽しい。


「ポップコーンは塩とキャラメル、どっちがお好きですか?」
「んー、塩ですかね」
「俺もです」
事前に公開時間を調べていたのかポップコーンや飲み物などを買い、ひと段落ついたぐらいで入場が開始された。

自分の席に着き、「そういえばどんな映画なんですか」と聞いてみると広瀬さんもあまり知らないのか「……確か恋愛ものだとか」と曖昧に答えられた。
『へぇ楽しみ』と暗くなっていく部屋に胸を踊らしたが、それは直ぐに違う意味で胸を踊らせはじめた。

最初は大学生の男女二人が出会って恋に落ちていく過程を描かれていたが、中盤からは『今すぐ恋人と別れろ』という差出人のない手紙が女の子の元へと何通も届くようになる。
誰から送られてきたかわからない手紙に、最初は手紙を無視していたが、徐々に手紙に書かれている内容が本当のことだと知るようになり、女の子は手紙を信じた。

実は女の子と付き合いはじめた男は連続殺人犯で、主人公である女の子をゆくゆくは殺すつもりで計画を練っていた。
けれど差出人のない手紙によって事前にその計画を主人公は知らされ、襲われるのを未然に防ぐ。
そして差出人のない手紙は主人公の死んだ母親が送ってきたものというサスペンスものだった。

何度か本気でビクついてしまい、きっと隣にいる広瀬さんにはビクついたことがバレたかもしれない。



「恋愛ものだと思ってたので驚きっぱなしでしたよ」
「怖かったですか?途中からずっとビクビクしてましたね」
「それは、……今すぐ忘れてください」
映画が終わった後は広瀬さんと近くのバーガー屋さんでご飯を食べた。
今までファーストフードはあまり好きじゃなかったが、久しぶりに食べたファーストフードは僕が昔行っていた時よりも格段に美味しくなっており、また来たいなとそう思った。





きっと広瀬さんは僕の予定に合わせてくれてるんだろうなと最近はよくそう思う。
フィットネスクラブへ行くと予告していた日には必ず広瀬さんは居るが、時間が空きフラッと行った日はいないことの方が多い。

「れんくん今日は居ないね」
「せっかく来たのに残念」
近くの20代前半っぽい女性2人が話している声が耳に入り、思わず聞き入ってしまう。

「本当カッコいいよね。彼女いるのかな?1度だけでいいから2人きりで出掛けて見たいわよね」
「無理よ。出掛けるどころかお客さんには連絡先は絶対教えないみたいだし」
そうよね。あんなにカッコいいと少しでも優しくされただけで相手が勘違いしてストーカーしてくる人とか現れそうだしね。

雑談は最近出来たばかりだというスイーツ屋さんへと話題は変わり、広瀬さんの話は終わった。


別に鈍感というわけでもない。
だから何と無く僕は広瀬さんに好かれているんじゃないかなと最近はそう思う。
だけどその好きが年上への敬愛なのかなんなのかはわからないが、それでも自分が少しでも広瀬さんの特別になっているなら嬉しい。







補足

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