短編2 | ナノ


▼ 幸運体質×恥ずかしがり屋

小さい頃から俺は運の良い方だった。
あたり付きのアイス棒を買えば必ずあたり、自販機で飲み物を買えば頻繁にもう一本当たる。
中学時代の部活でも、僅差で負けそうになった時に俺が最後の最後で投げたボールが運良くゴールに入り、逆転勝ちをした。
勉強面でもほぼテストのヤマは的中する。
それだけに飽き足らず、いわゆるスケベな事でも俺はラッキーな事が多く、女性が前を通る時はいたずらな風が吹き、パンツがチラリと見えることも……
だけどそれは大概気づかないふりをしてやり過ごした。
下手に反応をすると女性を傷つけたり、俺自身が面倒な目に会うので、何があっても慌てふためかず、紳士であることを意識した。


そんな運のいい俺に、突然不幸が訪れた。

かねてから志望していた高校に入学して3週間が経った頃、突然父さんの転勤が決まった。
ようやく環境にも慣れ、友達ともいい関係を築き始めていたのに、入学3週間にして俺は他の高校に転校することになってしまった。
本当は一人暮らししてでもその場にとどまりたかったが、両親に『一人暮らししてもいいけど一切援助はしない』と言い切られてしまったので、金も生活力もない俺は諦めて父親の転勤先について行った。
唯一転校して良かったことといえば、前に通っていた高校よりも格段に通学時間が掛からなくなったことだけ。

「行ってきます……」
「いつまでムスッとしてんのよ。転校初日からそんな顔してると友達出来ないわよ」
「自立力のない自分に苛立ってるだけだし。あとムスッとしてても顔は良いし、勉強も運動もできっから友達なんて余裕」
「なら結構。ほらほら遅刻しないようにさっさと行きなさい」
「あいよー」
高校には徒歩10分で着いてしまうので、家を出れば俺と同じ制服を着た学生がたくさん家の前を歩いている。
その流れに俺も混ざり進んでいると、前にいた男子生徒が突然その場に転んだ。
その上運悪く背負っていたリュックのファスナーが開いていたらしく、中に入っていた教科書が何冊か地面に落ちてしまった。

「大丈夫か!?」
慌てて駆け寄ると男子生徒は四つん這いになり、顔だけをこちらへと向けた。

「大丈夫です。すみません、段差があったのに気付かなくてつまづいただけです」
恥ずかしそうに照れ笑いするそいつに、思わず釣られてこっちまで笑った。

「怪我はないか?」
「平気です。ありがとうございます」
しゃがみ込み、落ちた教科書を拾うのを手伝っていると走ってくる音が聞こえ、後ろを振り向く前にドンと背中に勢い良く何かが当たり、俺は前へと倒れた。

突然のことに思わず瞑ってしまった目を開けると、至近距離にさっきの男子生徒がいた。
「あ?」
鼻と鼻がくっつきそうな距離にいる男子生徒に状況が理解出来ずにいたが、『いったーい!!』という女の痛がる声が聞こえ、なんとなく理解した。
どうやら後ろから押されたことで俺は前へと倒れてしまい、前にいた男子生徒を押し倒す形で巻き込んでしまったらしい。
壁ドンならぬ床ドン状況に慌てて起き上がろうと手を動かすと柔らかい感触があり、その瞬間「んっ……」と男子生徒が声を漏らした。

自分の手を見てみると男子生徒の胸の上に手が置かれており、動かしたことで、モロに揉んでしまったらしい。
手をどけて今度こそ起き上がり男子生徒を見ると、声を漏らしたことがよっぽど恥ずかしかったのか顔を真っ赤にし、手の甲で口を押さえながらもゆっくりと立ち上がった。

「あの、ごめ……「何なのよもう!なんでそんな所にいるのよ!!!」」
声のした方へと顔を向けると、後ろに倒れたままの女子生徒がいた。
しかもその格好はM字開脚をしており、青と白の縞パンツがバッチリ見えてしまった。
俺の視線に気付いた女子生徒は直ぐさま立ち上がり、「この変態!!!」と俺の頬を平手打ちし、怒りながら走って行ってしまった。

呆然とその後ろ姿を見つめ、しばらくしてハッとした。
『はぁ!?ふざけんじゃねぇよ!!!あいつからぶつかって来たくせに謝りも無しで、しかも不可抗力で見たことを『変態』と決め付けて殴るってどういうことだよ!?』
そう叫びたい気持ちをグッと抑え、叩かれた頬を撫でていると「あの……」と声をかけられた。

「僕のせいでごめんなさい。これ、使ってください」
さっきの男子生徒が濡れたハンカチを渡してきた。

「え?」
「僕が転びさえしなかったら、渚(なぎさ)さんにぶつかることはなかったし、ぶたれることもなかったです。本当にすみません。持ってきてた水で濡らしたのであまり冷たくないですけど、学校に着くまででもいいのでこれで冷やしてください」
急いでいるのかそう言って男子生徒は学校へと向かってしまった。
その姿をボーッと後ろから見つめ、なんていい子なんだと俺は手で口を覆った。




学校に着いて直ぐ職員室へ行き、担任と挨拶を済ませた。
少し赤くなってる頬に突っ込まれたが適当に流し、学校についての話を黙って聞いた。
ようやく話が終わると同時に鐘が鳴り、担任と共にクラスへと向かった。

教室の扉を開けて中へと入って行く担任の後ろをついて行くと、俺を見た生徒達がざわめき始めた。
「転校生の新山涼(にいやまりょう)くんだ。仲良くするように」
「中途半端な時期ですがよろしくお願いします」
クラス全体を見渡しながら言うと各方向から、「カッコいいね」「なんだ男かよ」「しかもイケメンじゃん」「彼女いるのかなー?」と俺を褒める声が聞こえた。
そんな中「あーーー!!あんたさっきの変態男!」と叫びながら席を立つ女子生徒がいた。

周りのざわつきはピタリと止まり、視線が女子生徒へと一気に集まった。
あーあれってさっきの勘違い暴力女じゃん。最悪。

ゴホンと担任が咳払いをし、「渚さん、座りなさい。新山くんはあそこの空いてる席に座ってくれ」と進行を続けた。
担任の言う空いてる席が窓際2列目の一番後ろだが、隣が暴力女の席で行きたくないと心底思いながら席に向かうと、案の定隣の暴力女からの視線が痛いほど刺さる。
ため息をつき反対側の席の奴を見ると、隣の席の生徒とバチリと目が合った。

「あっ!!」
小声で声を上げると相手はニコリと笑った。

「さっき振りですね。赤みが引いてて安心しました」
親切な男子生徒くんがいて、暴力女で下がり切っていたテンションが上がって行くのが自分でもわかった。

「さっきはありがとな、おかげで赤み引いた。ハンカチは明日にでも洗って返すから」
「役に立ったのならよかったです。改めまして僕は村越昴(むらこしすばる)です。これからよろしく新山くん」
自分の運の良さに感謝した。


転校生の宿命だとは思うが、休み時間のたびにクラスメートが席の周りに集まり、質問攻めにされるのはさすがに疲れた。
その上暴力女……もとい渚由香里(ゆかり)が休み時間も授業中も始終無言で睨み付けてくる。
何か言いたげにこちらを見るくせに結局何も言ってこない。
そんな数時間に疲れ切った俺はお昼になった瞬間、昴を連れて外へと出た。

「悪いな、無理矢理連れ出しちまって。ご飯いつも一緒に食べてるやついたよな?」
「いやいいよ。友達には今日は一緒に食べれないって連絡しとくから」
最初は敬語を使っていた昴だが、この数時間で結構打ち解けられたと思う。
お昼に無理矢理連れ出した謝罪と朝のハンカチのお礼として飲み物を奢ると、昴は迷わず牛乳を選んだ。
そのチョイスに少し笑うと、恥ずかしそうに「身長もう少し欲しくて……」という可愛い返事をいただいた。

「そういえば昴っておっちょこちょいなのか?結構今日みたいにつまづいて転けたり、リュック開けっ放しで物落としたりすんの?」
「いや、普段はそんなことはない。今日はたまたま」
「へーそうなんだ。あと今更だけど、事故だとしても昴の胸揉んだのは本当に悪かった」
「……男だし、別に胸揉まれるぐらいなんでもないよ」
朝のラッキースケベを謝ると、途端に恥ずかしそうに俯く昴が可愛くてイタズラ心が湧く。

「でも男だとしても昴のおっぱい柔らかくて気持ちいいな」
「なっ!?」
驚いて手に力が入ってしまったらしく、手に持っていた牛乳が吹き出て昴の顔に牛乳がかかった。

「……これはあれだな、顔射」
「に、新山くん!!」
可愛い。
恥ずかしそうにする昴めっちゃ可愛い。



「やべぇ……そういえば、大事な書類渡すから昼休み職員室に来いって担任に朝言われてたの思い出した」
お腹いっぱいになったし昼寝でもするかと考えていたところで思い出してしまい、めんどくささで身体が重い。
だけど昴に行くよう促され渋々立ち上がり、数十m歩いた地点で「あっ、待って。これ忘れ物」と声を上げ、その辺に置いといた俺のスマホを昴が持って走ってきた。
小走りで近付いて来る昴を待っていると、あともう少しという所で何かにつまづいたようで昴が前へと転けそうになった。
慌てて助けようとしたが突然のことに受け止めきれず、昴と一緒に俺は後ろへ転けてしまった。

唇に感じる柔らかい感触に目を開けると、昴がいた。
どうやらキスしてしまったらしい。
ラッキー過ぎる状況にたまらず俺は舌を入れた。

「……ん!?んんん」







補足

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -